【連続小説】「未来の娘からのLINE」第13話「ママの声が聞きたかった」
「ママ、見て!」
日曜日の午後。
結衣はリビングいっぱいに折り紙を広げていた。
黄色い星。
青い鳥。
赤いチューリップ。
「今日は折り紙屋さんです!」
得意げな顔に、私は笑った。
「じゃあ、星を一つください。」
「はい、百円でーす。」
「高いなぁ。」
二人で笑う。
たったそれだけの時間なのに、
家の空気が前とはまるで違っていた。
以前なら、
「あとでね。」
「今忙しい。」
そんな言葉で終わっていた休日。
でも今は違う。
手を止めて、一緒に笑う。
未来の結衣が教えてくれた、
小さな時間の大切さ。
月曜日。
昼休み。
私はスマホを開く前から、胸がざわついていた。
前のLINEの最後に、メッセージがきていた。
来週は写真じゃなくて、音声を送るね。
未来の結衣の声。
聞きたい。
でも、
怖い。
ピコン。
通知が届く。
【未来の結衣】
ごめんね。
え?
次のメッセージ。
やっぱり音声は送れなかった。
私は思わず息をつく。
少しだけ安心した自分がいた。
でも続きがあった。
代わりに、
どうしても伝えたいことがある。
画面を見つめる。
私ね。
ママの声が好きだった。
その一文に、
私は固まった。
好きだった。
"だった"。
過去形。
未来の結衣は続ける。
朝、
「おはよう」って言う声。
寝る前の
「おやすみ」。
運動会で
「結衣ー!」って呼んでくれた声。
私は自然と涙がこぼれた。
怒った声ばかり覚えていると思っていた。
でも違った。
結衣は、
優しい声も覚えてくれていた。
さらに通知が届く。
だからね。
話せなくなった時、
一番つらかったのは……
少し間が空く。
ママの声が聞けなくなったこと。
胸が締めつけられる。
絶縁。
私は、
娘に嫌われたと思っていた。
でも違った。
未来の結衣は、
私の声を聞きたいと思っていた。
それなのに、
聞けなかった。
その日の夕方。
結衣が学校から帰ってきた。
「ただいま!」
「おかえり。」
私がそう言うと、
結衣は笑ってランドセルを置いた。
「ママ。」
「ん?」
「今日ね。」
私は手を止める。
包丁も置く。
スマホも伏せる。
「うん、聞かせて。」
結衣は嬉しそうに話し始めた。
友達と笑ったこと。
算数で百点だったこと。
転んで恥ずかしかったこと。
全部、
順番に。
私は最後まで聞いた。
話し終えた結衣が、
照れくさそうに笑う。
「ママ。」
「なあに?」
「最近ね。」
「うん。」
「お話するの、楽しい。」
私は思わず目を開いた。
「ありがとう。」
その一言しか言えなかった。
夜。
結衣が眠ったあと。
スマホが震える。
【未来の結衣】
今日、
話を聞いてくれたね。
私は小さく笑う。
未来の結衣は、
ちゃんと見ている。
あのね。
私たち、
話さなくなったんじゃないの。
話せなくなったの。
その違いが、
胸に深く落ちた。
誰かが悪かったわけじゃない。
忙しさ。
遠慮。
「あとで」。
「大丈夫」。
その小さな積み重ねが、
言葉を失わせてしまった。
最後のメッセージが届く。
来週こそ、
音声を送れると思う。
でも……
少し間が空く。
聞いたら、
ママはきっと泣く。
スマホを握る手に、
自然と力が入る。
私は覚悟を決めた。
未来の結衣が、
何を伝えようとしているのか。
逃げずに、
受け止めよう。
そう思いながら、
眠る結衣の部屋をそっとのぞいた。
小さな寝息が聞こえる。
その音が今夜は、
何よりも愛おしかった。
(第13話 完)
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