
街ゆく人は、だいたい思ったより変だ
昔、勤めていた飲食店の常連客が、エロ本のカメラマンだった。
基本的に、こちらから職業の話を振ることはない。そもそも、人の職業にあまり興味がない。けれど何かの拍子にそんな話になった。
職業を聞いて真っ先に浮かんだのは、
「えぇ!普通の人なのに」
だった。
今思えば、ずいぶん失礼な話である。
エロ本のカメラマンが奇抜な格好をしていなければならない決まりなんてない。私はどこかで、特殊な仕事には特殊な佇まいが似合うと思っていたらしい。その人の雰囲気だけで、勝手に普通の人だと思い込んでいたのだ。
似たようなことは、ほかにもあった。
いつも決まって明け方に、ぐでんぐでんに酔っぱらって来るおじさんがいた。その人は、新聞の一面コラム欄を書いている人だった。
「読んでみたいです」と言うと、後日そのおじさんは、やはり明け方にやって来て新聞を見せてくれた。
まず、あの酔い方で約束を覚えていたことに感心した。次に、紙面に載った端正な文章を見て、さらに驚いた。明け方に酔っぱらって現れる人と、一面コラムを書く人が、私の中でうまく結びつかなかったのだ。
電車で隣に座ったおばあちゃんも、私にはごく普通の人に見える。けれど実は、数十年前には社交ダンスの日本チャンピオンだったかもしれない。
いつの間にか、街ゆく人たちの見えない履歴を勝手に想像するのが楽しくなっていた。
あるとき、ふと、自分もその一人なのだと気づいた。道ですれ違う人にとって、私もただの見知らぬ誰かにすぎないのだろう。
今日も私は、誰かから見れば「普通の人」だ。
けれど、その人が私のことを知ったら、案外「えぇ、普通の人なのに」と思うのかもしれない。
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