
【雲間月怪異譚】 幕間
【雲間月怪異譚】幕間 海鮮フルコース
※注意※
本作『雲間月怪異譚』には、
怪異・都市伝説・因習・和風ホラー表現が含まれます。
薄暗い話や、
“じわりと嫌な感じ”のする話が苦手な方は、
どうか無理をなさらず回れ右でお願いします。
それでも覗いてくださる方は――
どうぞ、雲間の怪異譚へ。
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先日の綱手姫出産騒動から落ち着いた頃
秋野さんを連れて、雲外鏡爺お勧めのお店に来ています。
クロウは、基本的には、引きこもりなので本日もお家でお仕事中なのです。
レストランは海に面した断崖の上。
大きな窓からは、どこまでも青い海が広がり、潮風が心地よく吹き抜けていた。
「海鮮のフルコースがおすすめだそうですよ」
「楽しみです」
秋野さんは今日も上品な装いだが、どこか休日らしい柔らかな雰囲気だった。
「今日は食べ過ぎても苦しくならないよう、少しゆったりした服で来ました。」
「正解ですね。気になる料理があれば追加しちゃってください。」
「では、お言葉に甘えて遠慮なく。」
ふたりは笑った。
⸻
「あの日、外はかなり騒がしかったようでしたが、上手く収まって良かったですね」
「お産婆さんもあの悪天候な中、早々に到着したおかげですよ。綱手姫の旦那さん頑張りましたからね〜」
「綱手姫も頑張りましたよ。双子だったんですから」
「ハハハ、三すくみじゃなくなっちゃうね〜」
「三すくみったなんですか?」
「えっ?秋野さん、あー見てないのかあれ」
「?」
「折角だから、後で雲外鏡爺に写真お願いしよう。」
料理に舌鼓の後、奥から料理長が出てきた。
「本日の料理は如何でしたか?」
「大変美味しゅうございました。」
「とても美味しかったですが、あのスープは不思議な味でしたね。材料は、なんでしたの?」
秋野さんが聞いた。
料理長は、にっこりと笑って言った。
「海亀のスープですよ」
怪談師の二人である。
“海亀のスープ”と聞いた瞬間、互いの顔を見合わせた。
「……」
「……」
「いや、料理の名前ですよね?」
私が確認すると、料理長は少し首を傾げた。
「ええ。もちろん本物の海亀を使った伝統料理ですが?」
「違う、そうじゃない。」
思わず口をついて出た。
秋野さんも小さく笑いながら頷く。
「怪談好きには、別の意味が先に浮かんでしまうんです。」
「ああ、水平思考ゲームの……」
料理長はようやく納得したように笑った。
「お客様にも時々いらっしゃいますね。注文された瞬間に妙な顔をされる方が。」
「職業病ですね。」
「ですね。」
二人で苦笑した、その時だった。
厨房の奥から年配の女性スタッフが顔を出す。
「料理長ー! 海亀のスープのお客様、お会計です!」
店内の数組の客が、一斉にこちらを振り向いた。
「…………」
「…………」
秋野さんが小声で呟く。
「なんだか、私たちが怪しいことをした人みたいですね。」
「ええ……事情を知らない人が聞いたら、完全に事件です。」
思わず二人で吹き出した。
その笑い声は、窓の向こうに広がる青い海へと吸い込まれていった。
そんなふたりの微笑ましい姿を後ろ手に料理長は、奥に消えた。
「後は頼みます」と言って、裏手から外に出る。
料理長の姿から変わるその姿。スマホを片手に
「よお、雲外鏡。ふたりにちゃんと料理振る舞ったぞ」
スマホの先は、雲外鏡
「手間を取らせた。妖怪大将達からも礼をしてくれと言われててな。海坊主の料理は、右に出る者がいないだろう?」
「お勧めの海鮮フルコースだけだがな」
「海で叶うものがいないからな」と言って、ガハハと笑った。
料理長は、海坊主に姿を変え、大海原へ帰っていく。
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