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【雲間月怪異譚】 第50話

【雲間月怪異譚】第50話記念回(BPBコラボ)


※注意※
本作『雲間月怪異譚』には、
怪異・都市伝説・因習・和風ホラー表現が含まれます。

薄暗い話や、
“じわりと嫌な感じ”のする話が苦手な方は、
どうか無理をなさらず回れ右でお願いします。

それでも覗いてくださる方は――
どうぞ、雲間の怪異譚へ。

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大蛇丸が山岳を大暴れしている時、

ここにもその騒動の第一報は届いていた。

「BPB 調査員全員出動!」
大石リーダーの号令とともに、
現在、スタッフルームに詰めていた調査員の

早見、矢田、吉田、佐藤、榊原、篠崎そして渡辺と

スタッフルームから急いで駐車場へ移動する。

山岳、ゲリラ豪雨および激しい雷雨と聞いて、SUVに乗り込み出発した。

「情報1、大蛇丸出現」早見さんが叫んだ。

「大蛇丸って何ですか?」

篠崎颯太が聞いた。

「三すくみって知ってるか?」

僕と渡辺は顔を見合わせた。

「ジャンケンみたいな?」

「そうだな。今回の場合は、蛇と蛙と蛞蝓だな」

榊原さんの言葉に早見さんが補足する。

「蛇は、蛞蝓が苦手で蛞蝓は蛙が苦手、蛙は蛇が苦手というすくみを言って、三すくみだ」

「それで、大蛇丸って言うのは?」

「行ってみればわかるさ」

SUVは、猛スピードで山道を行く。

だが、ゲリラ豪雨は、水煙のようで道の行先を塞ぎ、

雷雨は、空を真っ暗に轟音と稲光が幾重にも走った。

山道を駆け上がっていたSUVが、不意に急ブレーキをかけた。

「前方、何か来ます!」

篠崎の声と同時に、激しい雨のカーテンを二つの人影が突き抜けた。

「人だ!」

ライトに照らされたのは、二人の人影だった。

一人は青年を抱えたまま、人間離れした速度で山肌を駆ける黒衣の男。

抱えられているもう一人は、両手で酒瓶を大事そうに抱えている。

「人間……なのか?」

篠崎が思わず呟く。

「あの速度で?」

渡辺も信じられないものを見るように目を見開いた。

二人はSUVのヘッドライトを横切ると、そのまま豪雨の中へ消えていく。

そして、その直後に

ズズズズズズ……

その言葉は最後まで続かなかった。

ズズズズズズズズズ……

山全体が揺れた。

「地震!?」

違う。

雨の向こうで、山肌そのものがうねっている。

次の瞬間。

巨大な蛇の頭が木々を突き破って現れた。

金色の眼。

岩山ほどもある頭部。

その胴は山の尾根と見紛うほど巨大で、うねるたびに杉の巨木が次々となぎ倒されていく。

「嘘だろ……。」

渡辺が呟いた。

「目標確認!」

早見が震える声で報告する。

「コード・Ω級怪異……

大蛇丸、視認!」

大蛇丸は酒の香りを追うように、保とクロウの後を一直線に追っていた。

その巨体が尾を振るうたび、岩壁が砕け、濁流となった土砂が山道へと流れ込む。

「全員バック!」

大石が怒鳴る。

しかし、その直後だった。

ヴォォォォォォォッ!!

腹の底まで震わせるような低い鳴き声が、山全体を揺らした。

「まだいるのか!」

榊原が窓の外を見る。

稲妻が夜空を真昼のように照らす。

その一瞬だけ、山頂に巨大な影が浮かび上がった。

まるで山そのものが立ち上がったかのような巨体。

その正体は――

巨大な蝦蟇。

口を大きく開き、大蛇丸を睨み据えている。

その鳴き声だけで、木々の葉が震え、車体の窓ガラスまで細かく共鳴した。

「ガマ爺……。」

早見が息を呑む。

蛇がうねる。

蝦蟇が吠える。

雷鳴が轟く。

その中心を、黒衣の青年と怪談師が酒瓶を抱えて駆け抜けていく。

「……あれ、本当に人間か?」

篠崎が呆然と呟いた。

誰も答えられなかった。

その光景は、もはや災害でも怪異でもない。

まるで神話の一場面が、現代日本にそのまま現れたようだった。

「何が起きているんだ?」車のそばで大石リーダーが呟いた。

「推測ですが……先ほどの二人は、大蛇丸を何かから遠ざけているように見えました」

「俺も同意見だ。俺の勘がそう言っている」榊原が叫んだ。

「ならば、俺は周辺の確認ですね」
渡辺がサングラスを外した。

大蛇丸と青年が行った方をまず確認してから

反対方向を一望する。

「山頂の建物内に反応が三つ。そのうち一つは人間と思われます。残り二つは不明。そして……建物へ向かう巨大な反応が二つ」

「大石リーダー、我々はどちらに?」

「誘導者に追いつくのは、至難の業だ。ここはまず山の頂に行くぞ。後は現地確認にて判断する」

再び、SUVに乗り、走り出す。

「あの青年たちは……大蛇丸を倒そうとしているのか?」

「いや」

大石は首を振った。

「あの走り方は、戦う者の動きじゃない。何かを守るために時間を稼いでいる動きだ」

豪雨は、激しさを増し、雷雨も稲光がこれほど重なり、夜空を走る様を見たことがない。

「この稲光、自然な雷雨じゃないですよね?」

「よく覚えておけ、大蛇丸の技だ。あの妖怪が暴れると山はこうなるらしい」

「らしいとは?」篠崎は、尋ねた。

「大蛇丸が最後に観測されたのは、江戸時代だ。その時の文献に書いてあった内容だからな」

「妖怪って…」篠崎も渡辺も声を失った。

山頂へ向かう途中、SUVの前方に人影が現れた。

「止まれ!」

大石の声で車は急停止する。

雨の中、白い狩衣をまとった男が立っていた。

その隣には、荷物を抱えた年配の女性。

「あなた方は……?」

早見が警戒する。

男は短く答えた。

「お産婆さんを連れてきた。妻がもうすぐ出産だ」

「出産……?」

篠崎たちは顔を見合わせる。

この豪雨の山中で?

巨大蛇が暴れている場所で?

男は迷うことなく続けた。

「山頂まで急ぐ必要がある」

そしてSUVを見る。

「乗せてくれ」

あまりにも堂々とした態度に、逆に誰も断れなかった。

⸻

山頂の建物へ着くと、

吉田まりがすぐに状況を理解した。

「私が中へ入ります」

調査員たちが驚く。

「吉田さん?」

「出産なら、怪異より先にこちらです」

そう言って、吉田は建物の中へ駆け込んでいった。

残されたBPBメンバーは外へ出る。

その時。

ヴォォォォォ……

山が震えた。

雨雲の向こうから、大蛇丸が戻ってくる。

「来た……」

誰かが呟いた。

しかし、男は一歩前へ出る。

「祝いの日に騒ぎを起こすとは……」

静かな声。

怒鳴っているわけではない。

だが、その場にいる全員が理解した。

この人は怒っている。

男の背後で、大地が揺れた。

ズズズ……

巨大な蛞蝓の影が姿を現す。

そして反対側では、巨大な蝦蟇が低く鳴いた。

「……」

BPB全員、言葉を失う。

「大石リーダー」

篠崎が小声で言う。

「我々は……どうします?」

大石は、しばらく黙ってから答えた。

「……観察だ」

「え?」

「今、我々が介入する場面ではない」

巨大蛇。

巨大蛙。

巨大蛞蝓。

そして、それらを従える一人の男。

それは戦闘ではなく――

家族の問題だった。

◆◆◆

BPB調査報告書

FILE No.000-XX

山岳部における三種大型怪異遭遇事案

報告日:○月○日
調査班:BPB日本支部 第一調査班
担当責任者:大石 剛

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1.発生概要

山岳地帯において、局地的な異常気象を伴う大型怪異反応を確認。

現地へ急行した調査班は、対象と思われる巨大蛇型怪異を確認。

対象は山岳地形そのものを変形させるほどの巨体を有し、周辺環境へ大規模な影響を及ぼしていた。

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2.確認された怪異

対象A

仮称:大蛇丸

分類:大型蛇型怪異

特徴:
・全長推定不明
・山岳地帯を移動可能
・移動時に地形変化、落雷、豪雨などの異常現象を伴う

なお、対象Aは特定の目的を持って移動していた可能性が高い。

単純な暴走行動ではなく、何者かを追跡していたものと推測される。

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対象B

仮称:ガマ爺

分類:大型蛙型怪異

特徴:
・対象Aと対峙
・対象Aへの敵対行動を確認

ただし、両者の関係性については敵対というより、一定の均衡維持行動である可能性が高い。

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対象C

仮称:未確認大型蛞蝓型怪異

分類:大型軟体生物型怪異

特徴:
・対象Aへの対抗能力を確認
・白装束の男性との関連性あり

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3.現場で確認された人員

現場到着時、二名の一般人と思われる人物を確認。

一名は黒衣の男性。

もう一名は酒瓶を所持した男性。

両名は対象Aを誘導する行動を取っていた。

対象Aへの攻撃行動は確認されず。

目的については、

「第三者への被害防止」

であった可能性が高い。

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4.特殊事象

山頂付近の建造物内にて、人間一名および未確認反応を確認。

現地判断により、調査員 吉田まりを建物内部へ派遣。

確認された事実:

・建物内では出産が行われていた
・母子ともに生命反応に問題なし
・異常気象は出産終了後、急速に収束

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5.現場判断

本件について、大型怪異同士の衝突事案として処理することは適切ではない。

対象A、B、Cはいずれも一定の知性を有しており、敵対関係ではなく、長期間維持されてきた均衡状態にあると推測される。

今回の騒動原因については、

「出産に伴う一時的な均衡変化」

と判断。

⸻

6.大石リーダー所見

「我々が遭遇したのは災害ではない。
そこにあったのは、人ならざる者たちの生活だった。」

「怪異だから排除する。
その判断をする前に、我々はまず知る必要がある。」

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7.追記事項

なお、本件調査後、一部隊員より以下の発言あり。

「巨大蛇、巨大蛙、巨大蛞蝓を確認したが、一番驚いたのは出産祝いだった」

記録担当者注:
発言者については匿名希望。

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BPB日本支部
調査記録保管庫へ保存


妖怪大将三すくみ


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