【雲間月怪異譚】 第43話
【雲間月怪異譚】第43話 Uターンをしてはならない
※注意※
本作『雲間月怪異譚』には、
怪異・都市伝説・因習・和風ホラー表現が含まれます。
薄暗い話や、
“じわりと嫌な感じ”のする話が苦手な方は、
どうか無理をなさらず回れ右でお願いします。
それでも覗いてくださる方は――
どうぞ、雲間の怪異譚へ。
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三日月保は、YouTubeで配信を行う怪談師である。
本人は「怪談は癒し」などとふざけた事を言うねっからの怪談好きでもある。
そんな彼ではあるが、夏が近づくと余計にこの手の話が湧き上がるのは、致し方ない所ではあろうか。
とある夏の日。
保は、ふと思い立って車を走らせた。
行き先は、山である。
今日の気分は、ズバリ「トンネル」だ。
夏になると、やはり一度は行きたくなる。
心霊スポットには、トンネルが多い。
夏の怪談話に必ず一度は登場する。
日本は、山が多く、国道も高速も山を通過する道には、当然トンネルが付随する。
あまり知られていないのか、道を車が通行する以上、トンネルというのは、点検されているのである。
管轄こそ違いはあれど、トンネル内に意識を向けて見れば、
ドーム型のコンクリート壁に走る白いチョークの線。
あれは、定期的に点検している印なのである。
だが、その点検が進まないトンネルというのも実はある。
石壁に流れる湧水。黒く滲んだシミ。
心霊スポット扱いされるトンネルというのは、そういうトンネルに怪異を染み込ませるのかもしれない。
「山奥のトンネルに現れるんです。金髪の長い髪。体にぴったりしたTシャツにホットパンツ。日焼けした若い女の子が立っているんです。」
めちゃくちゃ健康的な姿の幽霊だなっと興味を持ってしまったのだ。
だからこそ、油断をしたのかもしれない。
幽霊スポットにひとりドライブで出掛けるなんて。
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「ここだな」
三日月保は、トンネルの手前、少し道からスペースある所に車を停めた。
山に向かい、石積みの入り口は、そのトンネルの古さを物語っている。
三日月保は、リスナーからの投稿は、基本的に検証する。
リスナーに直接会って話を聞いたり、今回のように現場へと足を運んでみたりだ。
インターネットで事件がないかと探ってもみたが、それらしい事件は上がってこなかった。
近くには、ダムもある。
山、川、谷、ダムと考えればキリが無い。
「さて、向かってみますか」
保は、車に乗りエンジンをかけた。
ここに降り立っても1台の対向車もない。寂しい山道だ。
トンネルは、2車線の上りと下りの道路だ。
まずは、向かいの左走行である。
普段よりも少し遅めのスピードで走る。
トンネルのライトは、オレンジ色だ。
高速のトンネルは、入れ替わりつつありLEDの白色光になっている。
ここは、なんと暗い事だろう。
このオレンジ色では、幽霊が出たとして、黒髪も金髪に見えるのでは?と思ってしまう。
こんな古いトンネルがそう長い距離とは思わなかったが、
車は、1キロ過ぎた頃に女性を見た。
「いた」それが幽霊だとは思わない。
さらに車をゆっくりと走らせて、横を過ぎた。
長い金髪が顔の表情を隠している。
何故こんな所に立っているのか
トンネルの非常帯通路に佇む女性である。
白い無地のTシャツ、足がのぞくホットパンツと確かに健康的な日焼け色である。
ここを通る若者ならば、ナンパに声をかけるだろう。
保も車を停めて声をかけようかと迷った。
だが、人ひとりの立ち姿である。
ゆっくり走っていたとしても車が通り過ぎるのはあっという間だった。
対向車が無いと言ってもトンネル内のバックは違法である。
通り過ぎて、トンネルを抜けた先で
Uターンした。
戻った先で、さっきの場所に女性が立っている。
右側にある非常避難の車スペースに車を停めて、女性の所に向かった。
さっき通り過ぎた時と同じ立ち姿。
「もし、あの…」と声をかけると
ゆっくりと顔が上がった。
長い金髪に隠されていた顔
潰された額、鼻、滴る口からの血
ポタリ、ポタリと白いTシャツが血に染まる。
ゴホッと口が開き声がした
「戻ってきてくれたのね」
僕は、悲鳴を飲み込んで、走って車に戻った。
慌てた手は、エンジンスターターすら満足に発信させられなかったが、何とか車を発信させ、麓のコンビニまで車を走らせた。
一度の通りすがりは、誘惑だった。
あれは、こちらが戻るかどうかを試していたのだ。
だから今でも思う。
山奥で誰かを見かけても、
絶対にUターンしてはいけない。
あれは、助けを待っているんじゃない。
戻ってくる人を待っている。
今でも、あの女性が事故の被害者だったのか、怪異だったのかは分からない。
ただ一つだけ分かったことがある。
あれは、Uターンした人間にしか笑わない。

