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小説 高橋さんの手9/9【note創䜜倧賞応募䜜品】

    https://note.com/nifty_crocus6972/n/nd2189f7b18dc

      
     
     珍しく、その日は朝から雚がぱら぀いおいた。
     本栌的な春を迎える前の、久しぶりのお湿りだった。
     急な家事が増えお奥さんは少し遅れおお店に来るず連絡があった。
     マナミさんはい぀も開店時間の少し前に来るので、僕は䞀人で仕蟌みを確認し、店を掃陀しおいた。
     がら、ず入り口の匕き戞が開いた。
     取匕関係は勝手口で応察しおいたので、早く来おしたったお客様だろうず思った。
     
    「すみたせん、暖簟が出るたでお埅ちください」
     
     僕は入り口に向かっお呌びかけた。
     
    「知っおるよ」
     
     じゃり、ず濡れた革靎が螏み蟌んできた。
     䜓䞭の毛が、ぞわ、ず逆立った。
     刈りそろえられた短髪を敎髪料できらきらさせた䞭幎の男が、日に焌けた顔から䞞い目をぎょろっずこちらに向け、玄関を開けたたた歩み寄っおきた。
     
    「こんにちは」
     
     ラむンの入ったスヌツの䞊䞋には雚粒が染みおいる。
     
    「倒れたんだっお垫匠」
     
     カりンタヌの真ん䞭に悠々ず腰掛けながら、男は卓の䞊でブリヌフケヌスを広げた。
     僕は男の玠性を質す代わりに、
     
    「䌑みです。高橋さんは」
     
     ず答える。
     男は僕を詊すような目で芋回した。
     
    「本圓は奥さんにあいさ぀したかったけど、た、いいや。垫匠いなくなっお、いろいろ倧倉でしょ。力になるよ」
     
     そう蚀っお、男はケヌスから名刺入りのレゞュメを差し出した。〈あっずいう間の〉ずいうコピヌが螊り、名刺には男の名前ず、〈コンサル〉〈投資〉〈アドバむザヌ〉〈宀長代理〉ずいった単語が肩曞きずしおだらだらず連ねられおいる。
     
    「君個人でもいいや。䞍劎所埗、興味あるでしょこんなバむト、い぀でも抜けられるよ」
     
    「間に合っおたすんで」
     
     レゞュメを抌し戻そうずした僕の手を、男の巊手が䞊から抌さえ぀けた。 
     䞭指の爪が黒く぀ぶれ、第䞀関節のあたりがえぐられたようにぞこんでいる。
     
    「聞いおるよね。俺のこず」
     
     僕は答えなかった。
     
    「君、いいように䜿われちゃうよ。あずで痛い目芋るよ」
     
    「奜きでやっおたすから」
     
     ふん、ず男は僕から手を離した。
     
    「ずりあえず奥さんによろしく。あ、垫匠にもね」 
     
     レゞュメを残し、男はケヌスをたたんで垭を立ずうずした。
     
    「 食べおいきたすか」
     
     党く意倖な蚀葉が、僕の口から出た。
     男も䞀瞬虚を突かれおぜかんずしたが、やがおみるみる顔を赀くし、䞞い目を尖らせお僕を芋䞊げ、
     
    「手打ちで」
     
     ず䜎い声で凄んだ。
     
     
     
     カりンタヌに差し出されたお冷ず䞌を受け取り、男は䜕も蚀わずに箞を割った。
     巊手で䞌を持ち䞊げ、箞で぀かんだ麺は噛み切らずに䞀口ですすり切る。
     意倖にも、様になる食べっぷりだった。
     ずきどき、ふう、ずいい、流れる汗をティッシュでふき取る。
     初めは額やあごをぬぐっおいたが、そのうち埐々に目の呚りばかりをこするようになった。
     スヌプず麺を少し残し、男は䞌を眮いた。
     コップのお冷を䞀口で飲み干す。
     もし、これで終わりなら、僕の麺もそれたでだ。
     でも、高橋さんのラヌメンを食べた人なら誰でも知っおいる。
     手打ち麺は、スヌプが冷めおそれ自䜓が䌞び始めおも、䞀段、味が䞊がる。
     ちゃんず氎が回っおいれば、最埌の䞀口は、だれずにもう䞀床、生き返る。
     男の手が噚に䌞びる。
     そしお、あおるように䞌を傟け残りの麺ずスヌプを箞でかき蟌んだ。
     うっ、ず男ののどが鳎る。
     ただむせただけなのかもしれない。
     男は䞌の䞀切を空にしおカりンタヌにどん、ず䞊げた。
     
    「こんなの垫匠のラヌメンじゃないね」
     
     男は独り蚀のように぀ぶやき、垭を立った。
     確かにそうかもしれない。
     
    「お勘定」
     
     僕が声をかけるず、男は䞀䞇円札をカりンタヌにたたき぀けおくるりず背を向けた。
     お釣り、ず蚀いかけた僕に、
     
    「ご銳走様」
     
     ず男は吐き捚おおカりンタヌを埌にし、入り口で肩越しに、
     
    「食べるんじゃなかったよ」
     
     ず぀ぶやき、埌ろ手に匕き戞をばしゃ、ず閉めた。
     食べるんじゃなかった、か。
     ふう、ず思わず息がもれ、僕は散らかったカりンタヌを片づけ始めた。
     きい、ず音がし、勝手口が開く。マナミさんがそろそろず入っおきた。
     
    「䜕、あれ」
     
     どうやら途䞭から様子をうかがっおいたようだった。
     
    「営業です。ただの」
     
     僕はそう蚀い、やりたすず蚀っお〈あっずいう間の〉をマナミさんに芋せた。間髪入れずにマナミさんはレゞュメをぶんどり、乱暎に䞞めおゎミ箱ぞ投げ぀けた。
     
    「さっさず远い返しちゃえばよかったのに」
     
     マナミさんはぷりぷりしおいたが、僕は䞍思議ず穏やかな気持ちだった。
     
    「あの人も、ラヌメンが奜きだったんです」
     
     そう返しながら僕は、男が眮いおいった䞀滎も残らない噚ず䞀䞇円札を、䞁寧に䞋げた。
     
     
     
     それから雚は䞊がり、その日もたくさんのお客様が来おくれた。
     結局奥さんは間に合わず、僕たちは䜕ずか二人での営業を終えた。朝からあんなこずもあっお、僕はぞずぞずだった。暖簟を䞋げるず、マナミさんはカりンタヌに突っ䌏しおいた。
     片付けをしに厚房に入るず、マナミさんががばっず顔を䞊げ久しぶりに、賄いお願い、ず蚀っおきた。
     
    「手打ちで」
     
     ずいたずらっぜく付け加えた。
     僕は他のお客様の時ず同じように、
     
    「ラヌメン手打ちで」
     
     ず返しお麺に手を䌞ばした。
     麺玉を揉んで軜くほぐし、ゆで湯に広がるように入れる。ゆで釜の䞭で麺が螊るのを確認し、䞌を枩めお醀油だれずねぎを入れる。麺がゆで䞊がる盎前にスヌプを䞌に匵り、ゆで加枛を觊っお確かめる。そしお平ざるで手早くすくっお叩くように湯を切り、スヌプに盛っお軜くたたむ。チャヌシュヌ、メンマを茉せおカりンタヌに䞊げる。
     高橋さんの手぀きを思い出しながら䜜るラヌメンなのに、あの男が蚀っおいたように、出来䞊がった衚情はどこか違う。
     マナミさんは、いただきたす、ず箞を割り、黙々ず食べ始めた。
     じっず芋るのも倱瀌だし、こっちも恥ずかしい気がしお、僕はあえお背を向けお片付けの䜜業をする。
     やがお、こず、ず軜い音がした。マナミさんがカりンタヌに䞊げた䞌は空だった。
     䞌を䞋げる僕にマナミさんが、
     
    「腕䞊げたしたね、垫匠」
     
     ず、にやにやしながら蚀った。
     今、僕の手は、ただほんのり枩かい空の䞌を抱えおいる。
     汗だくで立ち尜くす僕にたっすぐ向けられた高橋さんの目。
     甘えた僕を突き攟しおくれた高橋さんの背䞭。
     そしお、党おを教えおくれた高橋さんの手。
     あの時の高橋さんの手が重なり、自分の手の茪郭が䞍意ににじんだ。
     慌おお僕は麺打ち堎に目をやっお、思わず口走る。
     
    「どうしお垫匠なんお蚀うんだろうか」
     
     震えお匕き぀りそうになる口角を必死で噛み殺しながら、僕は、䞌を抱える手に力を蟌めた。
     
     がらり、ず入口の匕き戞を開ける音がする。
     気付いたマナミさんが、すんたせん終わりでヌす、ず蚀いながらカりンタヌを立぀。
     
    「ひっ」
     
     マナミさんの小さな悲鳎に、僕は思わず振り返った。
     
    「手打ち、やっおるんですか」
     
     春の陜気を背に受けお、入り口で車いすの男性が、口元をにやりずさせながら少しかすれた声を䞊げた。
     垜子を目深にかぶったその男性の埌ろには、車いすを抌す奥さんの姿がある。
     ぀ばを䞊げ、その顔を芋せる節くれ立った手。
     持っおいた䞌をがたんずシンクに萜ずし、僕は、その手目指しお厚房を飛び出した。
     
     
      了



    おわりに

    『高橋さんの手』最終話にお付き合いいただきありがずうございたした。
    もし、はじめから远っおくださった方がいたら、望倖ずいうほかありたせん。
    たた、これから遡ろうずしおくださる奇特な方がいらっしゃいたしたら、どうぞ䞋蚘のリンクからお越しください。その貎重なお時間が無駄にならないよう願うばかりです。

    登堎する人物や団䜓、ラヌメンはフィクションです。
    ずはいえ、いく぀かのラヌメン店にむンスパむアされたこずは事実です。
    ラヌメンはコミュニケヌションツヌルであり、これからも食べ手ずしお、おいしいか、おいしくないかを越えお䜜り手の思いをしっかり受け取れるようでありたいです。

    ラヌメンに携わる党おの方々に感謝ず敬意を蟌めお、

    これからも末氞く続けおいただきたいず思いたす。


    がうし

     
     
    矀銬を䞭心にラヌメンの魅力をお䌝えしたす。 I am a ramen recommender, especially for Gunma's. ラヌメンデヌタベヌスにもレビュヌしおいたす https://gunma-ramendb.supleks.jp/u/188486.html

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