
#22 物語が終わった後に⑤
寝室には、暖色の間接照明だけがついている。
彼女はベッドに横になり、本を手にしている。
枕に頭を沈め、しばらく同じページを見ている。
彼は隣で、明日の仕事に向けて鞄に荷物を詰める。
手を動かしながら、
視線はどことも言えない一点を見つめている。
彼女
「ねえ。」
彼
「うん。」
彼女
「この本さ。
私、結構好きだった。」
彼
「知ってる。」
彼女
「顔に出てた?(笑)」
彼
「うん。
読みながら、遠く行ってた。」
彼女
「ひどい言い方。」
彼
「(笑)」
彼女
「……あなたは、どうだった?」
彼
「正直に言う?」
彼女
「もちろん。」
彼
「合わなかった。」
彼女
「…そっか。」
彼
「これ読んで、明日から何が変わるの?
って思っちゃった。」
彼女
「え?」
彼
「行動や生活が
何か一つでも変わるのかなって…。」
彼女
「変わる人は変わるでしょ。」
彼
「どうやって?」
彼女
「今まで見えてた世界が違って見える。」
彼
「…でも、
現実は変わらない。」
彼女
「でもさ、
世界の見え方が変わるって
かなり大事じゃない?」
彼
「でも、仕事は減らない。
締切も伸びない。
人間関係も勝手に良くならない。」
彼女
「それはそうだけど!」
彼
「後半は、ずっと思ってた。」
彼女
「うん?」
彼
「これは、
余裕がある人の思考だって。」
彼女
「あー……。うん。」
彼
「……現実に追われてる人間に、
『意味は自分でつくるものです』
って言われても。」
彼女
「でもさ、
だからこそ必要じゃない?」
彼
「逆だと思う。
仕事も、生活も、
ある程度回ってから、意味がついてくる。
先に足場を固めないと。」
彼女
「…この本、
足場じゃなくて
地図だと思うけどな。」
彼
「地図は、
歩ける人にしか意味がないよ。」
彼女
「でも歩く方向、間違えたら最悪じゃん。」
彼
「考えてる間に、
置いていかれる。」
彼女
「……。」
(鞄を閉めるファスナーの音)
彼
「君がこの本を
『正しい』って顔で読むの、ちょっと怖いな(笑)」
彼女
「……そっちこそ。」
(彼が布団へ入る)
彼女
「でもさ。」
彼
「なに。」
彼女
「私は、
あなたみたいな読み方は
一生できないと思う。」
彼
「……。」
彼女
「でも、
それで全部回ってるんだな、って思った。」
彼
「何が。」
彼女
「この本も。
仕事も。
生活も。」
(電気を消す)
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