
んの魔法 | 長編小説 | 第7章 僕の心の中のライオン(第16話)
「あのね、また会えたら、その時は”名前”教えてね。」
「…わ、わかったよ。会えたらね。」
僕は少しうつむき加減でそう答える。
これは、言葉と記憶と心をつなぐ、僕の再生の物語。
始めから読む方はこちら → 序章 海辺のバス停(第1話)
前回のお話はこちら → 第6章 スポンの本とポワンの本(第15話)
本編はここから
りんが去った後の「んしり亭」内は、春風が過ぎ去った後のような、心地よい雰囲気に満ちていた。
僕は再び、スポンの本に向き合った。
1ページ目は、機械のような赤い丸いボタンの絵と、使い方が書いてある。
使い方は、僕しかわからない。
でも、僕自身も、いまいち理解はできていないのだけど…。
忘却は軽く…つまり、本の内容を忘れると本が軽くなる?
混沌は重く…その逆で、いろいろ詰め込みすぎると本が重くなる?
では解放は…時を待つべし。
その言葉通りであれば、すぐには解放できない、時がたてば解放されるということ?
「さて、ここからはわしの出番じゃ。」と、ンタンタンが僕の前に立って、そう言った。
「スポンの本は、ただの魔法道具じゃない、自分の心と向き合う道具なのじゃ。どれ、お前さんのスポンの本を一緒に読み解こうじゃないか。
スポンの本に何が描かれているか、まずは見ていこうかの?」
そう言われるままに、僕はスポンの本を2ページ目からめくり始めた。
2ページ目は色あせた緑のボールペン。
かなり色が薄くなっていて、ところどころ消えかかっている。
3ページ目はプリン。
プリンの絵も色があせていて、何色かよくわからなくなっている。
僕の知っているお母さんのプリンは、もっと黄色味がかっていたはずなのに。
4ページ目はもしかして、絵本?
かろうじて本らしい四角の形が分かった。
どれも色があせて、消えかかっていた。
「なるほど、なるほど…」
僕のページを見ながらブツブツと、ンタンタンがつぶやいている。
僕は、ページをめくりながら、どれも、どこかで見たことがあるような気がしていた。
5ページ目は何かが書かれた後だけ残っていて、何の絵かもわからなかった。
6、7ページ目は全部消えてしまっていた。
8ページ目は映画館?
「この映画館の絵、見覚えがある…」
これは鮮明なイラストのような絵だった。
「友達には『お父さんと一緒に観に行った』って、嘘をついたんだ。
本当は映画館には一人で行ったのに…。」
「どうして、嘘をついたんじゃ?」
「羨ましくて…、みんな家族と映画に行った話をするから、つい…。」
「ほほお?映画館の絵には虚栄心という言葉がスポンされとるみたいじゃ。」
「虚栄心(きょえいしん)?」
「見栄っぱりな心じゃ。
スポンされたから、今は普通に言えるようになったじゃろ?」
そうか、映画館(えいがかん)の絵に虚栄心(きょえいしん)の言葉。
『ん』の魔法だ…。

次は、第7章 僕の心の中のライオン(第17話)につづきます。
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