
んの魔法 | 長編小説 | 第5章 迷子のりんちゃん(第11話)
女の子は、優しい表情だけど、ちょっと下がり気味の眉で、にっこりと笑った。一瞬、僕は緊張して、固まってしまう。この世界で初めて会った人間だ。
これは、言葉と記憶と心をつなぐ、僕の再生の物語。
始めから読む方はこちら → 序章 海辺のバス停(第1話)
前回のお話はこちら → 第5章 迷子のりんちゃん(第10話)
本編はここから
キラキラした瞳で、真っ直ぐに見つめられると、僕は思わずたじろぎ、目をそらしてしまった。
転校初日の自己紹介で、クラスメートの視線を一斉に浴びて、うつむいてしまったことを思い出す。純粋な好奇心こそ、今の僕にはいちばん怖い。
「当ててあげようか?」
僕が視線をずらしたのを見て、りんは、そう言った。
「あなたもお客様でしょ?」
「え?」
「だって、人間は他に見たことがないのよ。」
「…そうなの?」
「それにね、あなたのこと、どっかで会ったような気がするんだけど…?」
僕とりんが、無邪気に話しているのを見て安心したのか、ンタンタンはそっとキッチンへと下がっていった。
ンタンタンとマフがいないと、ますます逃げられそうもない。
僕は観念して、このお客様の相手をする事にした。
「僕は…」
「待って、待って、当てるって言ったでしょ? ん~とね、ん~とねっ」
りんは、人さし指をこめかみにあて、首をかしげる。一人で話し、一人で悩んでいる。
その様子が可笑しくて、僕は思わずクスッと笑ってしまった。
それで、返事をするのも面倒になり、成り行きにまかせることにした。
「もしかして、あなたはエヌピーシー?」
試行錯誤の末に、りんはそんなことを言った。
僕がゲームのキャラだって?
この子はなんてことを言うんだ!
僕は真っ赤になって憤慨する。
「ち、違うよ。僕は...!」
と、言おうとしたら、僕より先にマフが
「エヌピーシーって何ニャ?」と身を乗り出してきた。
りんは得意げになって
「NPCってのはね、“決まった台詞しか喋らない人”のことだって、お兄ちゃんが言ってたよ。」
「お前、そうなのかニャ?」
「だから、違うよ、僕は!」
「ほらね!」
と、りんはクスクスと楽しそうに笑った。
やっぱり、僕はまた自己紹介を失敗したような気がする…。
「できたぞい〜」
ちょうどいいタイミングで、ンタンタンの声がかかって、僕の正体の話は立ち消えになり、3回目のデザートが運ばれてきた。
芋ようかんとほうじ茶だった。
おでん、メロン、芋ようかん、ンタンタンの出す料理は、何ともレトロ感あふれるラインナップだった。
カウンターの僕とマフの間に、りんがちょこんと座った。
「まあ!こんなようかん、初めて!」
りんはさっそく一口食べてみる。
「ん~~おいしい!何なの?お芋の味がするよ。」
「そりゃ、芋ようかんだからね。」と、僕。
「何だか楽しそうじゃの? 今度はスポンせんでおくれよ。」
ンタンタンが、僕の顔を見ながらガハハハと笑った。
そうか、「ん」のつく名前は要注意だった!

次は、第5章 迷子のりんちゃん(第12話)につづきます。
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