
んの魔法 | 長編小説 | 第5章 迷子のりんちゃん(第10話)
あれ? そう言えば…、メロンは呪文を言わずに消えた…?
「ん」のつく名前は確かに要注意だな。
気をつけなきゃ…!
これは、言葉と記憶と心をつなぐ、僕の再生の物語。
始めから読む方はこちら →序章 海辺のバス停(第1話)
前回のお話はこちら → 第4章 初めてのスポン(第9話)
本編はここから
「おやおや?こんな夜更けにお客さんかな?」
ンタンタンが、青い縞々模様の尻尾をパタパタさせながら、入り口の戸を開けた。
そこに立っていたのは、僕と同じくらいの年頃の、人間の女の子だった。
白いブラウスに黄色いカーディガン、斜めに赤いポシェットを下げて、裾の広がったデニムのキュロットパンツをはいている。髪は、柔らかそうな癖毛を、後ろでひとつに束ねていた。
女の子は、優しい表情だけど、ちょっと下がり気味の眉で、にっこりと笑った。
一瞬、僕は緊張して、固まってしまう。この世界で初めて会った人間だ。
「あら?たぬきさん?こんばんは!」
「お嬢ちゃん、こんな夜更けにどうしたんじゃ?」
「帰り道がわからなくなっちゃって、ずっと歩いてたら、喉がかわいちゃったの。お願い、お水ください!」と、女の子は両手を合わせて頭をちょこんと下げた。
「もちろんじゃ、さあさ、おあがり!
わしは、この「んしり亭」の主人の“ンタンタン”じゃ。」
「ンタンタン?変な名前ね?ントリンの知り合いかしら?」
「あんなケバい鳥は、知らんけど。」と、ンタンタン。
「私はりん。あっちの方から来たの。」
りんという子は、なんて素直に、スラスラと話せる子なんだろう。
僕は、自分のふがいなさと比べながら、その様子を見つめている。
「おひやだニャ。」
いつの間にか、マフがカウンターから降りて来て、りんにコップをスッと差し出した。
「きゃあ!可愛い!猫ちゃん、ありがとう!」
「みゃーは、猫ちゃんじゃないニャ。お師匠の助手なのニャ。」
可愛い!と言われてまんざらでもないようなマフは、しっぽを左右にフリフリしながら、カウンターの隅に戻って行った。
差し出されたお水を、一気にゴクゴクと飲みほして、
「助手さん、とってもおいしかったわ!」と、
りんが言うと、カウンターの隅で
「マフだニャ。」とマフが答えた。
「で、あなたはだあれ?」
とうとう、りんが僕に気付いて、お互いの視線が一直線上でぶつかった。

次は、第5章 迷子のりんちゃん(第11話)につづきます。
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