
ヒバリが歌うのをきいていた 【連載小説・第2話】
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【多星】
4月のある午後。平沢さんの澄んだ声に、はじめて出会った。
現代文の授業で、教科書の音読が行われていた。
この教科に興味のない生徒にとって、音読は面倒だろう。読めない漢字が多いと、人前で恥をかいてしまう。
実際、さっき当てられたクラスメイトの男子も苦戦している。
「え~、『苦楽を共にしてきた、友とここで別れるのは、ふで?え~、なんとかに尽くし…がたい、悲しさだ。この先の峠、をいかにして、越えようか』」
読み終えた彼はお調子者らしく、顔をしかめて友達の笑いを誘った。
「いま彼が読めなかったところは、『ひつぜつにつくしがたい』と読みます。覚えておきましょうね」
現代文担当のおっとりした増田先生が、次の生徒を指名した。
「それじゃあ平沢さん、続きから読んでもらえる?」
「はい」
平沢さんは控えめに返事をしたあと、立ち上がり、ゆっくりと音読を始めた。なめらかで、きちんと抑揚のついた読み方だった。
「『わたしがそう嘆くと、君は言った。
『いいや、春彦。君にはもう、この先の峠を越えるだけの力が備わっている。ここまでの道のりを見よ。泥にぬかるみ、枝が暴れ、花も咲かぬ、険しい道だった。
しかし今、君の君の脚はどうだ。見事に筋肉が隆起している。君の瞳は、ガラス玉のように澄んでいる。その脚とその眼で、越えられぬ山などないさ』」
教室の空気がしん、と静まり返った。平沢さんの声にクラスメイトがみな集中して聞き入っている。
「『君は僕の肩をつかみ、ぎゅっと励ますように力を込めた。その手の温かさ、力強さに、僕は涙の出る思いだった。しかし、こらえた。別れ際に涙をみせまいと思ったのだ』」
俺も彼女が読んでいるのを、驚いて見つめていた。
うまい。音読がこんなにうまい生徒はめずらしい。一度もつっかえず、漢字もミスなく読めている。そして声が穏やかなのによく通る。
森の中で響く鳥の鳴き声みたいに、耳に届いた。
読み終えた彼女が顔をあげると、先生は喜びに満ちた顔をしていた。クラスメイトから、おぉ~、という小さな歓声が上がる。
「平沢さん、上手ねえ。聞き取りやすかったし、漢字も正しく読めてたわ」
彼女は少し恥ずかしそうに、「ありがとうございます……」と言った。
2年生で初めて同じクラスになったが、これまでは目立つ印象のない女子だった。
「あらかじめ分からない漢字を辞書でひいておけば、スムーズに読めますからね。では、次の人」
授業は続いたが、俺の耳の中には先ほどの彼女の声がこだましていた。
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