
ヒバリが歌うのをきいていた 【連載小説・第1話】
【あらすじ】
宮内多星は、音楽と読書が好きで、人付き合いの苦手な高校2年生。
ある日、クラスメイトの平沢美雪が、授業で教科書を音読するのを聴き、その綺麗な声に心惹かれる。
同じ委員会に所属する2人は、徐々に友達になっていく。やがて美雪は多星のために、放課後に物語を朗読してくれるようになる。
そんな美雪は、美術教師の原田に恋をしていた。人たらしの原田には危険な一面があり、美雪はそれに気づかずに振り回されてしまう。
原田と距離が近づく美雪。やがてある事件が起こる……その時、初めての感情が芽生える多星。
彼らの想いはそれぞれどこへ向かうのか。
仙台の高校を舞台に、16歳の心の揺らぎを描いた青春恋愛小説。
(約25,000文字、全16回)
各話はこちらのマガジンからも読んでいただけます。
<以下、本文>
【多星】
美術の原田先生が懲戒免職になった。
そう知らされた時、真っ先に思ったのは、美術部の平沢美雪のことだった。
生徒たちのざわめきの中、青ざめた彼女の姿を見つける。
彼女に駆け寄りたかった。話を聞きたかった。
でも、なんと声をかけたらいいのだろう。
16歳の俺が持ち合わせる言葉じゃ、どれも力不足だった。
ーーー
多星という名前は母がつけた。
母曰く、「銀河鉄道の夜とか、星の王子様とか、星にまつわる本が好きなの。あなたが多くの才能に恵まれ、星に照らされますように、と思ってつけたのよ」とのこと。母にネーミングセンスがあるのかはわからない。
クラス替えの自己紹介で、「宮内多星です。好きなものは音楽と読書です」と説明した。それ以上自分について話すべきことは特にない。音楽が好きなのは父の、読書が好きなのは母の影響だ。
多星という名前は珍しいため、よく名前の由来を聞かれるのがめんどくさい。俺はなるべく目立たずに、落ち着いた学生生活を送りたいのだ。
友達づきあいも、狭く深いほうがいい。
今のクラスで親しいのは、俺と同じ軽音楽部の高山と、幼なじみの純くらいだ。それで充分だ。
昼休み、洋楽好きの高山が、純にアプリでお気に入りの曲を聴かせる。純が「よくわかんねー」と言う。俺はそれを見ながら弁当を食べる。
この高校は、県内の進学校では中の上レベルの位置づけだ。俺は2年生になってすぐに志望校を決めた。東京にある大学に進みたいのだ。なので、勉強は手堅く進めている。
志望校を決めてあるのは、以前読んだ本の影響だ。とある社会学の本が興味深くて、その分野をもっと学んでみたい、と思ったのだ。
軽音楽部の活動も週2回とゆるやかだし、来年の学園祭が終われば引退する。
学校生活には、心を打つ出来事もないけれど、乱されることもない。平穏だった。
あの日の授業で、平沢美雪の声を聴くまでは。
次の回はこちら