3章 第1話 王都へ出発 『ルミナ・パルス』
狩人のシン、薬師のミカ、華奢だが力強いカレン。
三人は王都に向かう。
村を襲った災いの正体を明らかにするために。
解放奴隷の拳闘士ユウ。
盗賊団で育ったフミ。
それぞれの運命が交わり、物語は新たに動き始める。


《灰色狐》の店はいつもの匂いだった。古い布、錆びた金具、乾いた革。
フミは盗品をテーブルに並べた。
「昨日、うちに旅人たちが来てな。」
じっくり品定めしながら、主人のコンラートは言った。
「怪鳥に襲われた商隊の娘を、助けたらしい。明日、その商隊と王都へ出るそうだ」
「ふーん」
銀貨を指で宙に弾き、フミは店を出た。
無関心を装ったつもりだった。自分でも、声が少し硬いと分かった。
◇
翌朝。
宿の前で、乾いた蹄の音と、木製の車輪が古びた石畳に響く。
荷馬車が門に向かう。護衛の金属音が、歩調に合わせて短く鳴った。
建物の陰から、フミは見ていた。
(……なんで俺はこんな真似をしているんだ?)
先頭近くに、見覚えのある三人。
狩人の男。
薬師の娘。
華奢なのに、盾を自然に下げている女。
俺には関係ない。
それでも、荷馬車が門を抜け、道を曲がって消えると、気になって後を追っていた。
(……行きたい方向と同じ道なだけだ)
◇
都市を出て数時間。
フミは風上へ回り、距離を距離を取って一行を追った。
風に揺れる草木、遠くから羊の鳴き声が聞こえる。
街道には麦畑が広がり、見晴らしが良すぎる。
フミは外れた草陰を歩き、荷の影が伸びるときだけ距離を詰めた。
シンがふと、後方を振り返った。
「どうしたの?」
女の声が、風に乗って届く。
「いや……気配がしてな」
女も後ろを見る。
フミは茂みに身を隠した。
◇
日が傾き始めたころ、 商隊は街道を外れた。
「今日はここで野営にしよう」
隊長ナルセスの声に、荷馬車が次々と止まる。
低い丘の陰にある石壁と炉跡があり、少し下がれば細い小川が流れていた。
馬に水を飲ませることも、飲み水を煮沸して蓄えることもできる。
夕飯の準備が始まった。
吊るした大鍋には、水に浸しておいた豆が煮えていた。
塩漬け豚肉、刻んだ玉ねぎ、乾燥させたタイムを入れて煮込む。
豚肉の旨味と塩味の後に、玉ねぎの甘みが広がり、後にはタイムの香りがふっと残る。少し崩れている豆の煮具合がちょうど良い。
煮込みに硬い麦パンを浸して食べるとよく合った。
「ミカちゃん、おいしい?」
ニコラオスの娘アンナが覗き込むように聞いた。
「うん……!よく煮込まれていておいしいよ」
ミカが笑うと、アンナも嬉しそうに麦パンをちぎった。
「ミカちゃん、たくさん食べるんだぞ。旅は腹が減るからな」
ニコラオスもご満悦だ。
「ニコウオスさん、娘さんが増えたようですな!」
隊長ナルセスが声を上げると、周囲から笑い声が上がった。
「ほっほっほ、そう言われると悪い気はせんな」
ニコラオスが豪快に笑う。
シンもカレンも、自然と頬を緩めた。
◇
野営地から離れた丘の上。
フミは枯草の上で頬ずえをついて――
ぼんやりと、商隊の焚火を眺めていた。
フミはそちらを見たまま、懐から硬いパンを取り出した。
一口かじる。
風に乗って、笑い声が届く。
澄んだ夜空の月が、静かに丘を照らしていた。

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ルミナ・パルス第1章
一人では小さな光でも——これは「光」が集まっていく物語。
