めっけもん|第ニ章 純情編(19)
十月になると、天翔グリルに新しい職人が入ってきた。
竹田という男は、私より五歳年上で調理の経験もあり、腕もまずまずだった。
ところが、この男はかなりのお調子者で、今ひとつ信用が置けない。
一緒に飲みに行こうと誘われると、一軒目の安居酒屋は竹田が支払ってくれるのだが、二軒目、三軒目はこちらが支払わされる。
結局、いつも支払いが多いのはこちらだった。
タバコも「一本くれ」と言って、一日に十本ほど持っていく。
鼻持ちならない男なのだが、なぜか憎めない奴だった。
そんな中、難波のあなご屋の主人からだと言って、森のおじさんから手紙が届いた。
あなご屋の主人は、時々森のおじさんのところへ連絡をしていたようで、私のその後を気にしてくれていたのだろう。
天翔グリルで働いていることも報告していたのだが、知り合いの店が人を欲しがっているという内容だった。
竹田に何気なく相談すると、物知り顔で助言をしてきた。
「中村、一度痛い目に遭ってんねんやろ。やめとけ」
「そう思うか。でも、あそこの主人はなかなかのもんなんや」
「もっと上の世界に行きたかったら、俺の師匠を紹介したろか」
「師匠って、どこにおるんや」
「道頓堀の森山レストランや」
「ほんまか」
「ああ。お前やったら通用すると思うわ」
思いがけず、話は大きく動き始めた。
「その代わりと言っちゃなんだが、お前の背広貸してくれへんか」
「ああ、構わんけど、竹田さん持ってないんか」
「いや、彼女とデートにボロでは格好悪いからな」
「そうか。それじゃ貸したるわ」
「おおきに! 助かるわ」
どうせ背広を着て出かけることもなかったので、マリ子とのデートのために新調した背広を竹田に貸すことにした。
だが、翌日になっても竹田は背広を返さず、一週間が過ぎても返す気配がなかった。
「竹田さん、そろそろ背広返してもらえんか」
「ああ、あれなぁ……今あれへんのや」
「あれへんとは、どういうことや」
竹田を問い詰めると、デートに着ていったどころか、背広を質に入れ、その金をギャンブルですべて擦ってしまったらしい。
初めからギャンブルの金が目的で背広を持ち出したと分かり、頭にきて竹田を店の外へ放り出し、そのまま締め上げた。
「わ、悪かった! 許してくれ!」
「許さんわ! わしを騙しやがって!」
「この間の師匠の話やけど、まとめたるさかい堪忍してくれ」
「お前の言うことなんか信用できるか!」
「ほんまや、間違いない! この前会うたら、見習いを探してるって言うてたんや」
話半分に聞いていたが、あまりにも竹田が真剣な口振りだったので、その日はそれまでにしてやった。
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