
めっけもん|第ニ章 純情編(12)
難波の「あなご屋」は確かに繁盛店だったが、細かな問題やトラブルも多く、不満を漏らして帰る客もいた。
歪んだ職人がいることは、いずれ店を腐らせていくことになる。
次の職場を探すには、慎重を期すことにした。
まず、ランチタイムとディナータイムに店の前に立ち、食事を終えて出てきた何人もの客の顔をよく観察した。
サービスが悪かったり、料理が不味かったりすれば、満足そうな顔で出てくるはずがない。
新聞の求人欄で、今里新地にある「天翔グリル」というレストランの募集記事を見つけた。
その日の昼前にレストランへ向かい、一日かけて店の様子を観察した。
店から出てくる客は、誰もが満足そうな顔をしていた。
それに加えて、店の中からは威勢のよい声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ!」
「ありがとうございました!」
従業員達は、大きな声で客を迎え、送り出していた。
この店ならいける。
そう確信し、近くの公衆電話から店に電話をかけ、働きたいと告げたところ、翌日の午前中に面接をすることになった。
翌日、店に行くと、面接をしたのは店長ではなく社長だった。
社長は台湾出身の中国人で、元新聞記者だった。
終戦後、新聞記者時代に得た情報をもとに、あちらこちらから食材を集めてレストランを開いた人で、この店以外にも、難波で「フランス」というレストランを営んでいた。
「あなた、若いね。いい顔してる。仕事がんばれるか」
「どんな仕事でも頑張ります!」
「いつ来ますか? 頑張るなら、すぐ来るか」
「今日からでもお願いします」
「おぉ、良かった。では、明日からね」
相手が社長だと聞かされても臆さず、堂々としていたのが良かったのか、その場で採用が決まった。
店の中と厨房を見せてもらい、その日は帰った。
この店を選んだ条件の一つに、住み込みで働けることがあった。
いつまでも森毅の家に厄介になるわけにはいかなかったからだ。
森の家に戻り、おじさんと毅に礼を言いながら荷物をまとめていると、おじさんが安心したように話しかけてきた。
「天翔グリルは、本格的なレストランみたいで良かったな」
「今度は大丈夫やろうと思いますわ」
「もう、文ちゃんとこは気にせんでもええで」
翌日、二人に改めて礼を言い、天翔グリルへ向かった。
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