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サスペンス小説『朚曜日の圌女は』【】 

     食べたり食べなかったり、寝たり起きたり。
     無意味な日々がのろのろず過ぎおいく。
     い぀から着おいるのかわからないTシャツの襟元は、脂でうっすらず光っおいる。掗濯でもしおみようか、ず立ち䞊がった時、リンゎン、ずドアチャむムが鳎った。ビクッず党身の筋肉が凍り぀く。
     皋なく、ドンドンずドアが叩かれる。力任せではなく、節床あるノックだった。
    「△△垂ガス局です。ガス噚具の定期点怜にたいりたした」
     ただ若い男の声に聞こえた。口調は劙に䞁寧で柔らかい。業者の小慣れた銎れ銎れしさがないのが嘘くさいず思った。
     黙っおいるずもう床、同じようにノックされる。
    「△△垂ガス局です。ガス噚具の点怜です。5分ほどお時間いただけたせんか」
     私は息を殺しお、男が立ち去るのを埅぀こずにする。3分くらいだろうか、スタスタず去っおいく足音が聞こえた。足音もおずなしい。䜜業甚の安党靎でも履いおいれば、もっずドカドカず匷い音がするはずだ。
     私は、ガス局の電話番号を調べ、電話をした。
    「あの、△△垂西町䞁目に䜏んでいる者ですが、先ほど、うちにガス噚具の定期点怜ずいう方がいらっしゃったんです。でも、今たでそんなこずは床もなかったので、おかしいなず思っお  。今日、そのような予定はありたしたか」
     電話に出た担圓者は、すぐに通話を保留にした。誰もがよく知るディズニヌ映画のメロディが、ワンコヌラス終わらないうちに電話口に戻る。
    「本日は特にガス噚具の点怜の予定はないようです」
     予想通りの答えだった。
    「ずいうこずは、点怜を装った匷盗、ずいう可胜性もありたすよね」
    「さようでございたすね。もちろん断定はできたせんが  」
     背䞭を冷たい汗が流れた。
    「譊察ぞ連絡した方がいいでしょうか   いえ、するべきですよね」
     私の声はうわずりながらも、どこか盞手を恫喝しおいるように匷かった。
    「は、はい、そうですね。ぜひお願いしたす。匊瀟も泚意喚起の方法を怜蚎いたしたす」
     
     私は、事故の担圓だった埌藀刑事に再び電話をかけた。
    「䞉浊さん どうしたした たた迷惑行為ですか」
     週刊むンパクトの蚘事が出た盎埌、蚘者や野次銬の無遠慮な来蚪を、私は埌藀に告げお助けおもらっおいた。もちろん、芋匵ったりパトロヌルしたりしおくれたのは、この近所の亀番勀務の譊察官だったが、指瀺を出しおくれたのは埌藀刑事だった。
     埌藀は、粟悍な颚貌をした捜査䞀課の刑事だ。ただ30代くらいに芋える。
    「お忙しいのにすみたせん。実は、少し気味の悪いこずが起こっお  」
     私は、先に停のガス点怜の話をしおから、数日前のリボンの件を付け加えた。最䜎限の盞槌を打ちながら聎いおいた埌藀は、時間埌に蚪問するずだけ告げ、いそいそず電話を終わらせた。
     そうか、さっさず埌藀に盞談すればよかったのだ。
     私が蜢いた男ヌ田村翔倪ヌが結果的に刺殺されたこずで、田村の事件は殺人事件ずなり、県譊の捜査䞀課が動いおいる。圌らにずっお私は、ひき逃げ未遂の元アむドルではなく、重芁参考人でもあるのだ。だから、䞍審者の連絡をすればわざわざ時間かけお事情を聞きにくる。
     浮き足立っおいる自分がいた。吉井にバカにされたように、「生身の人間ず察面しお話す」なんおい぀ぶりだろう。
     私は急いでシャワヌを济び、肩たでの髪を也かす。考えおから、肌に薄くクリヌムを塗り、眉を描いおチヌクでほんのりず頬の赀みを䜜った。劣化劣化ず蚀われおはいるが、無職のアラフォヌ独女ずしおは、それほど酷くはないんじゃないかず思う。郚屋着のワンピヌスに着替えお埌藀を埅った。

     ちょうど時間埌にドアチャむムが鳎る。玄関ドアのスパむホヌルから芗くず、埌藀は鋭い県差しで蟺りを芋回しながら立っおいる。ドアを開けた途端、「ああ、䞉浊さん、お久しぶりです」ず笑顔になる。
     郚屋に招き入れ、私は冷えた麊茶を出した。ペットボトルの麊茶がただ残っおいおよかった。
     倖が暑かったのもあっお、埌藀はゎクゎクず麊茶を飲んだ。喉仏が䞊䞋し、その銖筋に぀い目がいく。ワむシャツの癜い襟の間で、銖筋の汗がきらりず光った。
     麊茶を飲み干すず、埌藀が切り出す。
    「早速ですが、䞉浊さん、リボンやガス点怜を装っお蚪ねおくる人物に心圓たりはありたすか」
    「そうですね、リボンは  アむドル時代の衣装に䌌おいたので、ファンなのかな、ず思いたした。ガス点怜の方は、誰でもあり埗るずいうか  」
     思い出すだけで寒気がしお、私は䞡腕を抱きしめる。
    「実は䞉浊さん、通りの向こうの家、防犯カメラを぀けおいたんで、芋せおもらったんですけど。停ガス点怜らしき人物は映っおいたした。グレヌの䜜業着っぜいものを着お、垜子を目深に被っおいたので、幎恰奜は断定できたせんが、䞭肉䞭背の男  いや、女の可胜性も」
     なんの手がかりにもなりそうになかった。続けお、埌藀は驚くべきこずを蚀った。
    「それでね、リボンの方。䞉浊さんが蚀った日時に、それらしき人物は写っおいたせんでした。あ、リボンは保管されおいたすか」
    「ありたせん。気味が悪かったので、ドアノブから倖しお、倖に投げ捚おおしたっお  」
     そう蚀っお埌藀の顔を芋るず、巊斜め䞊を芋䞊げお䜕床も頷いおいる。
    「もしかしお、私の劄想だず思っおたす」
    「いえ、そんなこずは。カメラの死角もありたすし、動䜓感知タむプのカメラですが、たいしお粟密なものでもなかったから誀䜜動もあるず思いたすしね」
     埌藀は私の反応を探るように、真っ盎ぐに私の顔を芋る。私は背筋を䌞ばしお圌の目を芋぀め返した。劄想するような粟神状態を疑われおは困る。䞀瞬の睚み合いのあず、埌藀はフッず息を吐いお埮笑んだ。
    「怖い顔しないでくださいよ」
     笑うず、唇が暪に広がっお、その朱あかさが際立぀。敎っおはいるからこそ、どこか怖い顔だず感じる。
    「亡くなった田村さんの件、ただ手がかりがないんです。䞍甲斐なくお申し蚳ない。それで  、怖がらせたくはないんですが、䞉浊さんは田村ず最埌に接点があった人物です。犯人は、䞉浊さんが䜕か知っおいるかもしれないず疑っおいお、接觊しおくる可胜性が考えられたす」
    「぀たり、この぀の件は、殺人犯の仕業かもしれないず」
    「可胜性ずしおはあるず思いたす」
     思わず私はため息を぀く。なぜ私ばっかり  。䜕癟回ず唱えた呪詛の蚀葉が挏れる。
    「それでね、䞉浊さん。ガス点怜などを装っお䜏居䟵入する堎合、盗聎噚を取り付けたり、回収したり、ずいう目的であるこずもあるんです。少し郚屋を芋せおもらっおいいですか この事件ずは関係なく、以前取り付けられおいたものを回収しにきた、ずいう可胜性もありたすから」
     私が頷くず、埌藀は早速、垭を立っお、たずはキッチンのシンクの方ぞ行き、䞊䞋の棚を぀぀開けおいった。
     そんなずころに盗聎噚があったずしお、声を拟うんだろうか それほど高性胜なのだずしたら、どんな生掻音でも拟っおしたうだろう。䟋えば、トむレで甚を足す音やシャワヌの音、服を脱ぐ衣擊れの音、そしお時々私が自分を慰める時のあのおもちゃのモヌタヌ音も  。
     カッず頭に血がのがる。埌藀の埌ろに立っお様子を芋おいたが、私はテヌブルの方ぞ戻り、ぞたり蟌むようにむスに腰を䞋ろした。埌藀はシンク呚りから、玄関に移動し、靎箱の扉を開けお䞭を確認しおから、振り返っお蚀う。
    「奥の郚屋も芋せおもらっおいいですか」
     私は力なく「どうぞ」ず蚀う。
    「あ、䞉浊さん、コヌヒヌっおありたすか 私、ちょっず寝䞍足でしお。むンスタントでいいので、杯熱いのをいただけるずありがたいんですが」
     さっき埌藀が開けた棚には、コヌヒヌ豆ずミル、ドリッパヌが入っおいた。抜け目ない。私は、仕方なくお湯を沞かし、コヌヒヌ豆をミルに入れお、挜き始めた。
     奥の寝宀にいる埌藀を芋るず、本棚の棚板の裏を段ず぀、腕を入れお探っおいるずころだった。私は気が気ではない。本棚に眮いおある正方圢の黒い箱。元は高玚矎容クリヌムが入っおいた化粧箱だったが、䞍必芁に倧きくお、あのおもちゃを入れるのにお誂え向きだった。だから、あの箱には  。
     ミルのハンドルを回しながら、そちらを芋おいるず、埌藀は本棚の点怜を終えお、今床は小さなドレッサヌぞず目をやった。私はホッずしお、ちょうど挜き終わったコヌヒヌをドリッパヌに移し、コヌヒヌを淹れるこずにした。
     コヌヒヌ粉にお湯をそっず垂らすず、銙ばしい銙りが立ち䞊る。コヌヒヌを淹れる䜙裕などなかったから、ヶ月ぶりにこの銙りを吞い蟌む。生き返る思いがする。
     私は無心になっお、ドリッパヌからポタポタず垂れる琥珀色の液䜓を眺めおいた。
     杯分のコヌヒヌを萜ずし終わるず、埌藀がちょうど戻っおきお背埌に立った。かなり距離が近く、私は驚く。
    「あ、ごめんなさい あんたりいい匂いなもんで」
     錻をひく぀かせる埌藀が、たたあの笑顔を芋せる。私は自分の唇に觊れる。あたりに圌の唇が瑞々しく朱あかいから。自分の也いおささくれだった唇を隠したかった。
    「ずりあえず、䜕もなかったです。安心しおください」
    「ありがずうございたす」
     埌藀はむスにかけるず、マグカップを持ち䞊げ、コヌヒヌの銙りを嗅いでから、䞀口飲む。
    「ああ  、矎味しいですね。すみたせん、催促しちゃったみたいで」
    「いえ、わざわざ来おいただいお。感謝しおたす」
     劄想を疑われた時、埌藀に感じた埮かな嫌悪感はもう消えおいた。消えるず、別の感情が浮かぶ。矎しい者に匱いのは、男も女も䞀緒だ。コヌヒヌを味わいながら、埌藀が蚀った。
    「こんなこず蚀ったら嫌でしょうけど、僕、ファンでした。キャンディトリップの」
     私はどう反応しおいいのかわからない。蚀われるずい぀も感じる、嬉しさず忌々しさ。フラッシュバックが起きないように、圓時の情景を思い出すたいずギュッず目を閉じた。
    「やっぱり、嫌ですよね。すみたせん。䞭孊生だったんで、あの圓時  」
     䞭孊生  。䞭孊生の男子に、あの衣装やダンスはどう映っおいたんだろう。性的な察象になるこずを煜るようなそれら。私は䞭孊生だった埌藀が、䜕を芋お䜕を思い、䜕をしたのか、想像しおしたう。
     黙っおいるず、埌藀はそれ以䞊䜕も蚀わずに、急いでコヌヒヌを飲み干した。
     そしお垰り際に「たた䜕かあったら、すぐに電話をください。駆け぀けたすから」ず蚀っお、垰っおいった。

    次ぞ

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    #創䜜倧賞2025 #ミステリヌ小説郚門


     
     
     

    矎柑

     
     
    noteデビュヌを機に、小説を曞き始めたした。 数幎前にずある囜に移䜏し、氞䜏暩保持者になりたしたが、 息子が「日本の孊校ぞ行きたい」ず蚀い出したため、珟圚、䞀時的に東京暮らし。 TBS NEXT Writers Challenge 2025 䞀次遞考通過シナリオ公募。

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