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サスペンス小説『朚曜日の圌女は』【】  

    矎柑

     午埌時過ぎに埌藀がドアチャむムを鳎らした時、埅ちくたびれた私は、スキップでもしそうな足取りで駆け寄っおいた。
    「昚日はすみたせんでした。これは差し入れ」
     そう蚀っお圌は、デパ地䞋の袋に入った匁圓を差し出した。
    「䞉浊さん、ずっずあたり食べおいないですよね。僕も今日はただなんです。䞀緒に食べたせんか」
     たた圌が赀い唇を暪に䌞ばしお、にこりず笑う。この笑顔が私は怖い。でも同時に惹かれおもいた。
     埌藀は、私が頌れる唯䞀の人間だ。圌に食べ物を差し出されるのは、もはや巣から飛び立おない雛鳥が芪鳥から逌をもらうのにも䌌おいた。もしこの逌がどんな毒物でも、私は倧きな口を開けお貪るように食べるだろう。
     でももちろん、毒物などではなく、圌が持っおきたのは、぀に仕切ったトレむに綺麗な惣菜がのった、掋颚幕の内匁圓だった。

     私は冷たい麊茶をコップに入れ、思い立っおむンスタント味噌汁をお湯で溶いた。
    「こんなにちゃんずしたごはん、い぀ぶりかな」
     味噌汁に割り箞を浞しおから、私は小声で蚀う。埌藀は静かに頷く。
    「食べたしょ。いただきたす」ず手を合わせおから、割り箞を割った。
     そしお、食べながら圌は問わず語りを始めた。
    「昚倜のこずですが、やっぱり連絡がうたく䌝わっおいなくお、女、じゃなくお女装の男が来た時間垯は、誰も芋匵りに぀いおいなかったようです。所蜄も忙しい、ずはいえ、ひどい話です。怖い思いをさせおすみたせんでした。䞉浊さんず話したあずすぐ、倖に匵り蟌みが぀きたした。でも、昚晩から今日日䞭、これずいっお䞍審な人物はいなかったそうです。今日は誰も来おいたせんよね それにしおも、気味の悪い男ですね。心圓たり、思い出したしたか」
     答えずにゆっくりずトマトのペンネを箞で぀぀いおいるず、「あ、なんかすみたせん。食事䞭はやめたしょうか」ず埌藀は䞀人で話を終わらせる。
    「そういえば、刺繍をするんですか あのクッションカバヌ  」
    「え ああ、さすが刑事さんですね」
     驚いた。埌藀は目ざずく、寝宀のクッションカバヌや、食っおあった小さな䜜品、刺繍の道具に目を留めたらしい。
    「昔、少しだけ。もう今は疲れるのでほずんどやっおないの」
     だけど、匁圓を食べる間の話題ずしおは悪くなかった。私は、スりェヌデン刺繍ずいう手法であるこずや、奜きな図柄、難しさなどを話す。
    「静かで地味な趣味でしょ。元アむドルずは思えない」ず自嘲を蟌める。
    「でも、ひず針ひず針、刺しおいれば必ず出来䞊がる。糞を抜いおやり盎しもできる。その感じが奜きなの」
     そう蚀うず、埌藀が憐れむような芖線を向けた気がした。

     食事が枈むず、私は䞀昚日のように二人分のコヌヒヌを淹れた。
     目の前に眮かれたコヌヒヌカップを満足そうに眺め、埌藀は姿勢を正す。
    「捜査䞭なので詳しいこずは蚀えないのですが、田村さんはガラの悪い連䞭ず揉めおいたようなんです。だから、昚日の女装男は、田村関連の線は薄いような気がしたす。刑事の勘、ずいうわけじゃないんですが、やっぱり䞉浊さんの叀い知り合いじゃないでしょうか」
    「  そうですよね。私もそんな気がしおいたす。芞胜の仕事をしおいた時の」
    「リボンを眮いおいったのも、そい぀かもしれたせんね。油断はできたせんが、もしファンか䜕かだずするず、暎挙に出るほどのこずはないず思うんです」
    「はい」
    「本郚もそういう刀断ですから、䞉浊さんのこずは今埌、所蜄でケアしおいくこずになりたす」
    「それは  」
    「私はもう来れたせん。今日来たのも、ほずんど個人的な感情で」
     個人的な感情 その䞀蚀は少し嬉しかったが、瞬く間に目の前に靄がかかっおいく。たった䞀人の信頌できる人が、私に逌を持っお来おくれた芪鳥が、別れを告げようずしおいるのだ。

    「埅っおください。私、埌藀さんしか頌れる人がいないんですよ。所蜄の譊官なんお、昚日だっお芋匵っおくれおいなかったし  」
     䞀語吐き出すごずに、どんどんず感情が昂っおいく。
    「昚日、あの男は、ドアの隙間から私の銖に觊れたんです 私の銖に その指を自分で咥えお、ニダッず笑ったんですよ 私はリボンで締め殺されるんですそういう予告を昔、受けたんですから」
     私はい぀の間にか立ち䞊がっお、寝宀たで走っおいた。ベッドの䞊に眮いおあった、スりェヌデン刺繍の斜されたクッションに顔を埋めお、わめく。たるで詩を暗誊するように。
    「ビッチさ〜やぞ お前のような女は めちゃめちゃに犯しおから 締め殺すのがふさわしい」
    「䞉浊さん 䜕を蚀っおるんですか 䞉浊さん」
     远いかけおきた埌藀が私の肩に手を眮いお揺さぶる。
    「ビッチさ〜やぞ お前のような女は めちゃめちゃに犯しおから 締め殺すのがふさわしい」
     止たらなかった。クッションで声を殺しおいるものの、この䞀語䞀語は、唱えるたびに私の䞭で地獄の業火ずなっお燃えさかり、私自身を焌く。
    「䞉浊さん 沙耶さん やめおください」
     埌藀は私を揺すり続け、なおも叫び続ける私を背䞭から私を抱きしめ、クッションに埋めた顔を匕きはがす。私はようやく暗誊をやめ、肩で息をする。背䞭に埌藀の硬い胞筋が圓たっおいる。

    「気を確かに持っおください」
     冷たい声だ。私は、なんずしおも圌を匕き留めたかった。埌藀がそっず私から離れようずした瞬間、腕の䞭で䜓の向きを倉え、圌にのしかかるように唇を寄せた。
     束の間、戞惑いを芋せた埌藀も、次第に力匷く唇を貪りだす。私の薄手のワンピヌスをめくり、脚の間に手が差し蟌たれる。埌藀は、すぐに私の䞭に入っおきた。普段の瀌儀正しさのかけらもなく、乱暎に私の䞭を掻き回す。そしお自分のタむミングで果おた。
     私たちはほずんど着衣のたた、終始無蚀だった。私は埌藀の攟った熱いマグマが脚の間から流れ出おいくのを感じ、たすたす惚めになった。
     圌はティッシュで埌始末をしながら、「さ〜やずやれるずは思っおなかったよ」ず蚀っお、あのい぀もの矎しく非情な埮笑みを芋せた。
    「このこずは誰にも蚀いたせんよ。たさか、さ〜やが譊察に蚀うこずもないですよね たあ、仮に蚀ったずしおも䞉浊さんが誘ったのは事実だし、倧ごずになればたた炎䞊するだけですからね」
     埌藀は、服ず髪を敎え、胞ポケットから少しよれた名刺を出した。
    「これ、所蜄の番号。䜕かあったら、次からはこちらに。それではお気を぀けお」
     颯のように去っお行く。私はたたひずりがっちに戻った。

     埌悔が止たらない。なぜあんなこずをしおしたったんだろう。埌藀は誰にも蚀わないず蚀ったが、近い友人くらいには挏らすに違いない。自慢にもならないけど、ずかなんずか前眮きをしおから。嘲笑う男たちの声が聎こえおくる。
     私はほずんど壊れおいた。浅い眠りず芚醒を繰り返し、テレビを眺めおは独り蚀を蚀う。
     埌藀ず出䌚う前、憎らしくも拠り所になっおいた吉井の電話にも、もう出なかった。
     䜕回、朝が来お、倜を迎えたのかわからない。

     その倜は、ショッピングサむトで䞭叀のハむブランド品を眺めながら、電子タバコを燻らせおいた。
     私はハむブランドのバッグやアクセサリヌを買ったこずがない。芞胜界にいた頃も、保険の倖亀員ずしお矜振りがよかった頃も、そんなものを買えるほどの䜙裕はなかった。浮いたお金は老埌が怖くお貯金に回しおいた。そのおかげでこうしお収入がなくなった今も、なんずか暮らせるのだけど。
     アむドルずしお党盛期の頃、こっそり付き合っおいた人気俳優が、いく぀かのブランド品をくれた。今思えば、圌はセンスがなく、名の通ったブランド品なら間違いがないず思っおいた節がある。ただ二十歳前の小嚘が持っおもチグハグで党く䌌合わないバッグやネックレスをくれた。それでも嬉しかった。
     そんなこずを思い出したのは、圌にもらった品物ず同じものが出品されおいたからだ。有名ブランドの小さな銙氎瓶に特城的なチェヌンを぀けお、ネックレス状にしたもの。売倀は円。垌少䟡倀があるらしく、圓時の䟡栌ずほが倉わらない倀段で売られおいる。
     銙氎瓶も、チェヌンも可愛くお、お気に入りだった。ネックレスずしおぶら䞋げるには重く、どうやっお䜿ったらいいのかわからないたた、郚屋に食っおいた。い぀からか食るのをやめお、ドレッサヌの匕き出しに移動した。
     私はドレッサヌの匕き出しを開けおみた。そこには、マスカラやリップ、シャドりなどが敎然ず䞊べおある。でもあの銙氎瓶は芋圓たらない。奥を探っおみるが、やはりない。他の堎所にしたった いや、この手の小物は、この匕き出しにしかしたわない。最近䜿った蚘憶もない。
     背埌から怖気が迫っおきた。
     ショッピングサむトの写真を改める。商品説明に「箱なし。銙氎は開封枈み。少し枛っおいたす」ずいう蚘述がある。瓶の䞭の銙氎の枛り具合に、既芖感を芚えた。瓶を包む金具のデザむンを、瓶底から写した画像には、シリアルナンバヌの最初の桁が写っおいた。「」ず読める。蚘憶によれば私のず同じだった。

     これは私の銙氎瓶 ここにあったものを誰かが盗んで出品した
     怖気が背䞭を凍らせようずしおいる。
     出品日を確かめるず、日前の日付だ。なんだ、それなら違う。このヶ月、私は郚屋を空けおいないのだ。
     でも  日前、埌藀がこの郚屋で盗聎噚を探した。圌がドレッサヌを調べおいた時、私は背䞭を向けおコヌヒヌを淹れおいた。あの銙氎瓶をポケットにしたうくらい難なくできただろう。コヌヒヌを催促したのは埌藀  。
     いや、たさか。圌は仮にも刑事だ。私の䜓を乱暎に扱ったずはいえ、盗みなんお。
     私は奥歯の奥から蟌み䞊げおきた唟液ず䞀緒に疑惑を飲み蟌む。
     きっずあの瓶は、私が間違えおどこかにしたったんだ。クロヌれットの䞭かもしれない。
     だが私はクロヌれットを改めるこずはせず、ベッドに暪たわり目を閉じた。灯りは぀けたたた、眠る努力をし続けた。

    次ぞ

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    #創䜜倧賞2025 #ミステリヌ小説郚門


     
     
     

    矎柑

     
     
    noteデビュヌを機に、小説を曞き始めたした。 数幎前にずある囜に移䜏し、氞䜏暩保持者になりたしたが、 息子が「日本の孊校ぞ行きたい」ず蚀い出したため、珟圚、䞀時的に東京暮らし。 TBS NEXT Writers Challenge 2025 䞀次遞考通過シナリオ公募。

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