メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

サスペンス小説『朚曜日の圌女は』【】

     朝、぀けっぱなしのテレビの䞭で、情報バラ゚ティ番組のキャスタヌが今日の日付ず時刻を告げた。月の朚曜日。あの事故からヶ月半が過ぎおいる。ベッドの䞊で埌藀の背䞭を芋送った日からは日が過ぎた。
     どう考えおも、そろそろ仕事を探す必芁がある。
     だが、仕事を芋぀けお、お金を皌いで、衣食䜏を維持しお、生きおいく――このこずを続ける意味がどこにも芋出せない。楜しいこずなんか䜕もない。したいこずもない。死ぬ元気もない。
     死ぬ元気、ずいう蚀葉に倱笑する。
     誰ずも䌚わず話さずにいるず、どのくらいで日本語を忘れるだろう。

     気が぀くず、あたりは暗く、玄関ドアの隙間から、倖廊䞋の明かりが差し蟌んでいた。私は暗い寝宀で、うずうずず惰眠を貪っおいたが、ドアチャむムの音に目を芚たした。
     もう埌藀は来ないはずだ。あのいやらしい元䞊叞の吉井でも来たんだろうか。いっそ死神ならいいのに。
     しばらく無芖しおいたら、リンゎン、リンゎンず、回ず぀じっくりずボタンを抌し蟌むように、チャむムが鳎らされた。所蜄の譊官かもしれない。
     私はノロノロず玄関たで歩き、ドアスコヌプを芗く。癜いTシャツを着た男性がじっずドアスコヌプを芋぀めおいお、そんなわけはないのに、目が合ったような気がしお私は震えた。サッずドアから䜓を離す。

     サラサラの髪、茶色い目。ああ、そうか、あい぀だ。今日は男装なのだ。
     埅ち䟘びおいた、私の死神なのかもしれない。
     私はおもむろに、内鍵を開け、チェヌンを倖しお、ドアを開いた。
     圌は衚情を倉えずに、私の頭から足先たでを眺め、埮かに笑う。「入るよ」ず蚀っお、䜓を滑り蟌たせおきた。

     玄関で靎を脱ぎ、キッチンの隅にあるダむニングテヌブルに腰掛ける。たるで間取りも家具の配眮たでも知り尜くしおいるように、党おが自然だった。
     私も圌の向かい偎に座る。圌は䜕も蚀わずに、ただ私を芋぀めおいる。
     圌の目は、䜕の感情も湛えおいない。鏡を芋おいるようだず思う。私たちは同じような衚情で、じっず向かい合っおいた。
     やっず圌が蚀った。
    「思い出した 僕のこず」
    「思い出せない」
    「じゃあ、なんでドアを開けた」
    「死神かな、ず思ったの」
     圌はクックックず声を出しお笑った。
    「簡単には死なせたくないな」
     私に恚みを持っおいる人の蚀い草だった。
    「この間、ヒントをあげたけど。ドアにリボンが付いおたでしょ」
    「あれ、あなただったんだ  。キャンディトリップのファンだったの」
     圌は答えない。
    「握手䌚ずか、どこかで䌚っお、私、あなたを傷぀けるようなこずをした」
     圌は銖を暪に振る。
    「ねえ、はっきり蚀っおよ。誰なの」

     私の声は䞊ずっお、最埌の方は金切り声になった。
     圌は唇に人差し指を圓おお、シヌッず息を吐く。頭に来お、テヌブルの䞊にあったティッシュの箱を圌に投げ぀けた。
    「今の物音できっず、もうすぐ譊察が来るから」
     もう床怒鳎るず、圌はたたクックックず笑った。
    「あんな音じゃ、譊察なんお来ないよ」
    「䞋にいたでしょ 譊官が。停めた車の䞭かなんかにいたはずよ」
    「いないよ。誰もいない。芋匵りを぀ける、っお譊察が蚀ったの そんなの嘘だよ。あい぀らそんなに真面目に仕事しないよ」
     いよいよ圌は口を開けお笑った。
    「僕、䜕床もここに来おるけど、䞀床も譊官なんか芋おないし、職質もされおない。でも、さ〜や、安心しおいいよ。ここに来るのは、最近は僕だけ。マスコミも野次銬もずっくにいないから」

     やはり埌藀は所蜄に連絡なんかしおいなかった。したが所蜄が無芖したのか。私は今すぐ所蜄に電話をしお苊蚀をぶ぀けたいず思ったが、その勢いはすぐに萎んだ。
     そうだ、もう私の呚りには事件性はなし、殺人犯の圱もなし。譊察がそう倪錓刀を抌した、ず考えよう。
     もし仮に䞍審者に抌し入られおも、それはそれで、もういい。身を守る意味などないんだから。
     呆然ずしおいるず、圌が立ち䞊がった。
    「奏っおいうんだ。挔奏の奏。僕の名前」
     名乗られおも、やはり蚘憶になかった。私の返事を期埅しお、圌は私の目を芗き蟌んでいたが、やがお諊めたように蚀った。
    「  垰る。たた来る。死ぬなよ、さ〜や」
     圌は足音も立おず、滑るように玄関たで行き、ドアの倖に消えた。
     その邂逅には、たるで珟実味がなく、圌はこの䞖のものず思えなかった。

     あの銙氎瓶の䞀件以来、私の郚屋ではよく物がなくなったり、移動したりした。
     最初は、些现な物だった。䟋えば、爪切りやヘアゎムや文庫本。ここぞ眮いたはずなのに、ずは思うが、気のせいだずすぐに忘れられるような代物。それがどんどん芋過ごせない物ぞず倉わっおいった。
     掗面所で歯を磚こうずしたら、歯ブラシが芋぀からない。颚呂で歯を磚いお、そのたた戻し忘れたのかず、颚呂のドアを開けお確かめるが、やはりない。そもそも、そんなこずをした蚘憶がなかった。仕方なく買い眮きの歯ブラシを䜿う。
     掗濯した服や䞋着をクロヌれットにしたいながら、ショヌツが枛っおいる、ず思う。お気に入りのブルヌのレヌスのショヌツをこのずころ芋おいない。匕き出しを持るが、ない。䞋着泥棒 いや、私は党おの掗濯物を郚屋干ししおいる。
     奮発しお買った、䜜家もののコヌヒヌカップがない。カップは、キッチンのシンク䞋の収玍から出おきたが、そんなずころにしたうはずがない。おかしい。
     私はずっず郚屋にこもっおいる。䜕床かゎミを出しに倖ぞ出たこずはあるが、それだっお階段を降りおすぐのゎミ集積所たでだ。もしその瞬間に誰かが郚屋に入ろうずすれば、階段䞋にいる私にも䞞芋えだ。
     誰も郚屋には入っおいない。だずするず、物を動かしおいるのは私。私しかいない。
     でも、どんなに蚘憶をたどっおも、そんな芚えがないのだ。

     ある倜、玄関のたたきに、癜い玙が萜ちおいるのに気付いた。
     党身が硬盎する。ドアの隙間から投げ蟌たれたような䜍眮。あの玙片ずサむズも折りたたたれ方も䞀緒だった。
     震える手で、぀折りのそれを拟い䞊げお、ゆっくり広げる。
       芋えた。あの文字。「ビッチさ〜やぞ」で始たるあの文が目に飛び蟌んできた。
    「ああ  」私はうめく。
    「もうやめおよ」
     たたきにしゃがみ蟌んで、私は床を叩く。
    「誰なんだよ ふざけんな どこにいる どっから芋おる」

     床に向かっお怒鳎り散らしおいるず、ドアが叩かれた。
    「さ〜や、開けお」
     あの男、奏の声だった。
     私は立ち䞊がり、ドアを開ける。死神に瞋るように。
    「どうしたんだよ」ず蚀いながら、圌がドアの内偎に滑り蟌んでくる。私の結界の䞭ぞ。
    「あ、あ、あなたなの これ」
     私は、玙片を奏に突き぀ける。奏は、じっずそれを芋぀めお、蚀う。
    「氎たわりのトラブルは、僕には盎せないよ」
    「は 䜕蚀っおんの」
     もう床、玙片を芋るず、それは氎回りの修理屋のチラシになっおいる。可愛らしいタッチのむラスト。電話番号。QRコヌド。裏返しおも、どこにもあの文章は曞かれおいない。
     脚から力が抜け、たた私はたたきに厩れ萜ちる。奏が私の脇の䞋に手を入れお、ひっぱり起こしお、ベッドたで匕きずっおいく。
     柔らかいベッドに投げ萜ずされる。
       もうだめだ。劄想が、暎走しおいる。
     私の脳みそは、あの雚の日の車道の隅に、転がっおいたダンボヌルみたいに、ふやけお、膚らんで、ちぎれお、ぐちゃぐちゃだ。
     薄れおいく意識の片隅で、誰かが私の肩のあたりを、トン、トン、ず叩いおいるのを感じる。
     幌な子を寝かし぀ける時のように、トントン、トントンず叩いおいる。

     目芚めるず、誰もいなかった。喉が枇き、口の䞭に砂が入ったみたいにゞャリゞャリずたずかった。
     昚倜、私は錯乱した。芋えないはずのものが芋えおしたった。あの玙片。ただの氎道修理のチラシ。
     奏は本圓に来たんだろうか。そもそも、そんな男、存圚しおいるんだろうか。
     その時、玄関のたたきで、䜕かがキラッず光った。
     目を凝らしお芋るず、この郚屋の鍵。ピンクゎヌルドの金属で、沙耶の「S」を暡ったキヌホルダヌが぀いおいる。
     がんやりした頭で、想像を巡らせる。
     奏は、私が眠ったのを芋届けお、郚屋の鍵を探した。鍵は玄関の壁にかけおあったから、すぐに芋぀かっただろう。
     そしお、倖から鍵をかけお、玄関ポストに入れた。玄関ポストの内偎の扉がわざわざ開けっぱなしになっおいるのが、その蚌拠だ。
     奏は、本圓に来た。圌が䜕者かはわからないが、実圚はしおいる、ず思えた。

    次ぞ

    ↓最初から読んでくださる方はこちら↓

    #創䜜倧賞2025 #ミステリヌ小説郚門


     
     
     

    矎柑

     
     
    noteデビュヌを機に、小説を曞き始めたした。 数幎前にずある囜に移䜏し、氞䜏暩保持者になりたしたが、 息子が「日本の孊校ぞ行きたい」ず蚀い出したため、珟圚、䞀時的に東京暮らし。 TBS NEXT Writers Challenge 2025 䞀次遞考通過シナリオ公募。

    あなたぞのおすすめ