椎骨動脈解離で入院して No.11|自分の命を、先生に預ける
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※この記事は回想録です。
2020年7月12日。
1週間後に予定されたカテーテル手術に向けて、薬が始まった。
クロピドグレルとバイアスピリン。
そして7月17日。
運命の――
いや、入院してからこんなことばっかり言っているけれど――
カテーテル手術に臨むことになった。
手術について、先生から詳しい説明を受けた。
私の血管には、大きく膨らんだ部分がある。
そこにステントという網状の筒のようなものを入れ、さらにコイルを使って治療するという説明だった。
実物のステントとコイルも見せてもらった。
初めて見る医療材料。
コイルはプラチナ製で、とても高価なものらしい。
ステントもコイルも、思っていた以上に弾力のある触り心地だった。
自分の身体の中に、これが入るのか。
そう思いながら触っていた。
当時の画像は、今見てもゾッとする。
よく何事も起きなかったものだと思ってしまう。
病気について多少知識があることが、かえって恐怖を大きくすることもある。
知らなければ想像しなくて済むことまで、想像してしまうからだ。
私は先生に、本音も伝えた。
「重い障害が残るようならば、死にたい」
それくらい、後遺症が残ることが怖かった。
仕事に戻らなければ。
そして、
まだ親を見送らなければならない。
そんなことを考えていた。
先生は、私の血管の状態と治療方法について、さらに説明してくれた。
ステントを入れ、コイルをどのように使うのか。
周囲の血管への影響も考えながら治療すること。
治療そのものにも、いくつものリスクがあること。
素人の私には、聞けば聞くほど不思議だった。
網のようなものを血管の中へ入れて、本当に大丈夫なのか。
コイルを入れて、それで本当に血液の流れをコントロールできるのか。
頭の中では、いろいろな想像が膨らんでいく。
以前、胃潰瘍について、
「胃に穴が開いたら、食べたものが穴から出てきちゃうんですか?」
と真剣に質問してきた後輩がいた。
そのときは面白いことを考えるなぁと思ったけれど、
今の私は、たぶん同じだった。
わからないものを、
自分が知っている何かに置き換えて、
必死に理解しようとしていた。
先生からは、手術中に起こり得ることについても説明された。
血管の中の状態は、実際に治療してみなければわからない部分があること。
血栓によって脳梗塞が起こる可能性。
治療中に血管が傷つく可能性。
もちろん先生は、最悪の場合も含めて説明してくれていたのだと思う。
でも患者の私にとっては、
その「最悪の場合」も、
これから自分に起こるかもしれない未来だった。
そして私は、妙なことを考えていた。
たとえ医師とはいえ、赤の他人に、自分の命の天秤を握らせてしまっていいのだろうか。
もちろん、先生に任せるしかない。
自分では何もできない。
それなのに、
自分の命を先生に預けることに、なぜか罪悪感のようなものまで感じていた。
先生は、歯に衣着せぬ物言いをする人だった。
怖いことも、わりとざっくばらんに話してくれる。
不思議だけれど、それが私には合っていた。
曖昧に「大丈夫ですよ」と言われるより、
何が起こる可能性があるのかを話してくれたほうが、
私は納得できた。
良い先生に当たったものだ。
そして私は、
手術によって重大な合併症や後遺症が起こる可能性があること、
命に関わる可能性もあることについて説明を受け、
手術同意書にサインした。
怖くなくなったわけではない。
大丈夫だと思えたわけでもない。
それでも、
この先生にお願いしよう。
そう思えた。
――でも。
同意書にサインをしたからといって、不安が消えるわけではなかった。
入院してからもう1か月。
カテーテル手術を受けることが決まってから、私はまた病気についてネットで検索するようになった。
調べれば安心できるかもしれない。
でも調べるほど、新しい不安も見つかる。
そんなことを繰り返していた。
その中で、脳神経外科の医師が書いているウェブサイトを見つけた。
思い切ってコメント欄から、自分がこれから受ける治療について質問してみた。
ありがたいことに返事をいただいた。
もちろん、診察を受けたわけではない。
本当の意味でのセカンドオピニオンでもない。
それでも当時の私には、
主治医でも、家族でも、友人でもない専門家の言葉
が必要だったのだと思う。
その言葉を読んで、
私は勝手に少し安心した。
主治医を信用していなかったわけではない。
先生に任せようとも思っていた。
それでも、怖かった。
だから、
「大丈夫かもしれない」
と思える材料を、私は必死に集めていた。
手術を受ける覚悟というのは、
説明を聞いて、同意書にサインをした瞬間に完成するものではないのかもしれない。
少なくとも私は、
手術の日まで、ずっと覚悟の途中にいた。
