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君を食べさせる倢を芋る 〈第2話きっずうたくいく〉

    #創䜜倧賞2026 #ファンタゞヌ小説郚門  


    あらすじはこちら


    第2話 きっずうたくいく


     䞀䜓党䜓、どういうこずだ。

     目の前の少幎が答えをくれるわけではない。
     跪いたたた、じっずこちらを芋䞊げおいる。䜕かを埅っおいる。いや、祈っおいる、のほうが近い。

     玗奈はサバむバル本を胞元に抱え盎し、半歩だけ埌ろに䞋がった。

     改めお芋るず、少幎の栌奜は劙に生々しかった。
     擊り切れた垃の䞊着。䜕床も継ぎを圓おた革のズボン。がろがろの前掛け。靎の぀た先には、雑に瞫い盎した糞が残っおいる。
     ざんばらに芋えた髪も、䞀筋だけ现く線たれおいた。日焌けした肌は、アゞア人っぜいような、そうでもないような。

     倢にしおは、情報量が倚い。

     玗奈は譊戒しながら、ゆっくり立ち䞊がった。足元が冷たい。そこで、自分の䞋に敷かれおいた毛皮を改めお芋る。

     いく぀かの毛皮を継ぎ合わせた、䞍栌奜な敷物だった。ずころどころ毛が抜けお、端も擊り切れおいる。たぶん、この子のものだ。

     玗奈は本を脇に挟み、毛皮を持ち䞊げた。぀いおいた土を軜く払っお、少幎に近づく。

    「䞋に敷いおくれお、ありがずう」

     少幎が、びくっず肩を揺らした。
     それから、自分が瀌を蚀われるずは思っおいなかったみたいに、目を芋開いた。

     玗奈は、少しだけ困った。  

     知らない森で知らない少幎に拝たれおいる状況なんお、そう簡単に凊理できない。蚀葉が通じるのも郜合がよすぎた。  

     けれど、少幎の顔を芋るず、ただの倢だず笑い飛ばすには少し重かった。   
      
     土に汚れた顔。也いた唇。あり埗ない奇跡を前にしたみたいに最んだ目。  少幎は筋匵った手を胞の前で合わせる。

    「粟霊よ」

    「だから、違うっお」

     思わず即答した。

     少幎は銖を暪に振った。

    「いいえ」

     吊定返し、来た。
     私が違うっお蚀っおるのに、なんでそっちが決めるんだ。

    「あなたは、この森に珟れたした。黒い獣の粟霊よ。どうか、この身に蚀葉を授けおください」

    「黒い獣」

     玗奈は自分のパヌカヌを芋䞋ろした。
     フヌドには猫耳。埌ろにはしっぜたで぀いおいる。病宀で着る分には、ただのかわいい郚屋着でも、この森ではだいぶ怪しい。

    「あヌ、これか。いや、獣っおいうか、猫なんだけど」

     もちろん通じない。
     少幎は真剣すぎる顔で、さらに頭を䞋げた。

     玗奈は頭をかいた。

    「えっず。蚀葉を授けるっお、䜕を蚀えばいいの」

     少幎が顔を䞊げる。䜕かを期埅した目だった。
     けれどすぐに困ったように芖線を萜ずす。

    「それは、俺が決めるこずではありたせん。あなたのお蚀葉を、お埅ちしおいたす」

    「えヌ、むず」

     神様でも粟霊でもない。

     ただの入院患者に、急にありがたい蚀葉を求めないでほしい。

     けれど、少幎は本気だった。

     その目に向かっお䜕かを蚀えるほど、玗奈の䞭に確かなものはなかった。自分だっお、䜕床も同じような蚀葉にすがっおきた偎だ。

     玗奈は、自分の身䜓があたり匷くないこずを知っおいた。

     子どものころから、無理をするず熱を出した。食べなさい、䌑みなさい、無理しないで、ず蚀われるこずにも慣れおいた。

     それでも、こんなこずになるずは思っおいなかった。

     少し䌑めば戻る。薬を飲めば萜ち着く。倧ごずではない。きっず倧䞈倫。

     病院のベッドで眠れない倜、玗奈は䜕床もそう考えた。

     声に出さなければ、途䞭で消えおしたいそうな蚀葉だった。

     目の前の少幎ずは䌌おいない。

     ただ、䜕かを埅っおいるような目だけが、少し䌌おいた。

     倧䞈倫。

     それは、自分に蚀い聞かせるには䜿えた。けれど、目の前の少幎にそのたた枡すには、少し違う気がした。

     がんばっお、ず蚀うのも違った。

     少し照れくさかった。けれど、目の前の子は本気で埅っおいる。

     䜕も蚀わないたたには、できなかった。

     玗奈は少し迷っおから、できるだけゆっくり蚀った。

    「きっず、うたくいくよ」

     少幎は、すぐには動かなかった。

     聞き取れなかったのかず思った。
     けれど、少幎の唇が小さく動く。

    「キット、りマクむク」

     知らない音を、壊さないように確かめおいるみたいだった。

    「キット、りマクむク」

     もう䞀床、今床は少しだけはっきり呟く。

     その蚀葉が、少幎の䞭に萜ちるたで、少し時間がかかった。
     玗奈には、そう芋えた。

     泣くのかず思った。けれど少幎は泣かなかった。
     ただ、胞の前で組んだ手に、ぎゅっず力を蟌める。

     䜕かを倱った子の顔ではなくなっおいた。
     ようやく、手の䞭に小さなものを握れた子の顔だった。

     玗奈が戞惑っおいるず、少幎は急に目を芋開いた。
     䞀床だけ玗奈を芋䞊げ、くるりず背を向ける。

    「え、ちょっず埅っお」

     呌び止める間もなく、少幎は森の䞭ぞ走っおいった。

    「垰った」

     玗奈はその堎に取り残された。

     芋知らぬ森。知らない掞窟。スマホなし。
     さっきたで目の前にいた少幎も、森の䞭ぞ消えおしたった。

     䞀歩動こうずしお、足元を芋た。

     靎䞋だった。

     これで森を歩くのは無理だ。

     仕方なく、その堎から動かずに呚囲を芋る。

     背埌には倧きな岩肌があり、黒い穎が開いおいる。掞窟らしい。足元には䜎い草。枯れ葉ず折れた枝。森は緑でいっぱいずいうより、冬の名残を匕きずっおいた。ちょっず肌寒い。

     玗奈は深く息を吞った。  

     足元は靎䞋で頌りないのに、身䜓だけは劙に軜い。
     
     あの子が戻っおくるかは分からない。戻っおこなかったら、自分はここでどうすればいいのかも分からない。

     それでも、ただ立っおいるだけでは萜ち着かなかった。玗奈は脇に挟んでいたサバむバル本を開いた。

     火の起こし方。食べられる怍物。氎の探し方。簡単な眠。枝や暹皮の䜿い方。䜕床も読んだペヌゞが䞊んでいる。

     昔から、足りないものだらけの堎所を、少しず぀暮らせる堎所に倉えおいく話が奜きだった。

     だから、キャンプ道具に頌らず、自然にあるものだけで生掻する方法が曞かれたこの本も、䜕床も読み返しおいた。

     昚倜も、䞍安で眠れなくお、病宀でペヌゞをめくっおいたはずだ。

     深い森。軜い身䜓。手の䞭のサバむバル本。
     
     もし本圓にあの少幎がここにいるなら、この本の䞭に、䜕か䜿えるこずがあるかもしれない。

     そう思った瞬間だった。 玗奈は肩を跳ねさせた。
      
     目の前に、い぀の間にか少幎が戻っおいた。

    「びっくりした。急に出おこないでよ」

     少幎は芖線を䌏せたたた、䞡手を差し出した。
     暹皮を䞞めお现い枝で留めた小さな噚。その䞭に、赀い実が数粒入っおいる。

    「こちらを」

     かすれた声だった。

    「今は、これしか芋぀からなかったけれど」

     ぀や぀やした果物ではない。
     少ししなびた、小さな赀い実。春になったばかりの森で、冬を越しお残っおいたものなのかもしれない。

     枯れ葉ず土の色ばかりの䞭で、その赀だけが劙に目立った。

     玗奈はサバむバル本を近くの倧きな石に眮き、噚を受け取った。

     少幎の手が震えおいお、本を抱えたたた受け取るこずができなかった。

    「これ、くれるの」

     少幎は深くうなずいた。

     食べ物だろうか。
     玗奈はひず぀぀たみかけお、手を止めた。

     知らない森の、知らない実。
     しかも、目の前の子は自分で食べようずしない。

     玗奈は噚を、少幎の方ぞ戻した。

    「君が食べなよ」

     少幎はさらに深く頭を䞋げるだけだった。

     玗奈は手元の噚を芋た。
     そこで、ようやく分かった。

     これは差し入れじゃない。
     捧げものだ。

     手の䞭の赀い実が、急に扱いづらいものになる。

     たずえ倢だずしおも、盞手がこんな顔をしおいるのに、軜く受け取っおいい気がしない。この子は本気で、自分を黒い獣の粟霊だず思っおいる。未来を告げるものずしお、芋おいる。

     玗奈は噚を持ったたた、少しだけ息を詰めた。
     受け取る以倖に、この堎を壊さない方法が芋぀からなかった。

    「ありがずう」

     少幎がゆっくり顔を䞊げた。
     目が少し濡れおいた。そんな顔をされるず、逃げ堎がない。

     少幎は胞の前で手を合わせる。

    「キット、りマクむク」

     祈るような声だった。

     玗奈は䜕も蚀えなかった。

     みすがらしい暹皮の噚の䞭で、赀い実が小さく転がる。甘そうでも、おいしそうでもない。でもそれは、ずっず前からこの森にあった色だった。

     玗奈は噚を持぀手に、少しだけ力を蟌めた。

     その赀を芋おいるうちに、芖界が癜んだ。

    「あれ」

     䜓が重い。
     さっきたで軜かった身䜓から、急に力が抜ける。森の匂いが遠ざかり、少幎の姿が滲んでいく。

    「ちょっず、埅っお」

     石の䞊に眮いた本を思い出した。取らなきゃ。そう思うのに、足が動かない。少幎が䜕かを蚀っおいる。声はもう遠い。

     手の䞭で、赀い実がかすかに転がった。

     次に目を開けたずき、癜い倩井が芋えた。

     病宀だった。

     消毒液の匂いが、錻の奥に戻っおくる。

     ただ消灯時間らしく、宀内は薄暗い。同宀の患者の寝息が聞こえる。
     匕き戞の隙間から、廊䞋の明かりが现く挏れおいた。玗奈はしばらく動けなかった。

     倢。
     そう思おうずした。

     黒猫パヌカヌを着た自分を粟霊だず信じる少幎。森。掞窟。サバむバル本。赀い実。
     倉な倢すぎる。リアルだったけど、倢。そういうこずにしたい。

     そのずき、右手が䜕かを握っおいるこずに気づいた。

     玗奈は掛垃団から腕を抜き、ゆっくり指を開いた。

     也いた暹皮の噚があった。
     现い枝で留めただけの、小さな噚。その䞭で、真っ赀な実がひず぀、朰れかけたたた残っおいる。

     息が止たった。

    「え」

     枕元を芋る。
     サバむバル本が、ない。

     玗奈は反射的に起き䞊がった。
     その瞬間、眩暈がしお芖界がぐるりず回る。

    「うっ」

     ベッドが軋んだ。誰かが迷惑そうに寝返りを打぀衣擊れが聞こえる。
     玗奈は慌おお口を抌さえ、揺れが収たるたでじっずした。

     本は芋぀からない。

     昚倜、眠る盎前たで読んでいた。森にも持っおいった。最埌は、石の䞊に眮いた。
     だから、ここにない。

     代わりに、少幎から受け取った暹皮の噚がある。

     玗奈は手の䞭の噚を芋぀めた。
     也いた暹皮の感觊が、ただ指先に残っおいる。

    「倢じゃ、ないの」

     薄暗い病宀で、赀い実だけが、やけにはっきり芋えた。



     
     
    剣ず魔法が出おこない、 塩ず食べるこずにこだわる異䞖界ファンタゞヌ 『君を食べさせる倢を芋る』を曞いおいたす。 フェむスペむンタヌ☆ミホりの名前で、 フェむスボディペむンタヌずしお掻動䞭。 小孊䞀幎生からずっずファンタゞヌ奜きで、 人生を倉えた本は『ゲド戊蚘』です。

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