品性という言葉を知らない(第20話)連載小説
SNS社会の生々しさや、主人公の人格のゆがみに迫る現代サスペンス
栗山杏奈は歯科クリニックで働くいわゆるキラキラ女子を演じているが
実は夜職の顔がある
――――さらには2つのSNSで使い分ける顔
恋愛・友達・仕事・家族――――
杏奈には、既婚者の佐々木と瀬戸、彼女持ちの良平という3人の男がいる
与えてくれる男
自分を求めてくれる男
杏奈はそういう関係こそが、自分にとって都合のいいものだと思っていた
――しかし
杏奈自身うまくいっていると思っていた
仕事も、人間関係も、男との関係も、
「上から見下ろしていた」はずの世界が少しずつ狂い始めていったある日
2つのSNSで使い分ける顔が少しずつ明るみに出ていく――――
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翌朝 クレール山手デンタルオフィス 朝礼
ゆうべ一睡もできず、杏奈は立っているのが精一杯だった。
「ね、栗さま顔真っ青だけど」
「あれじゃない?丁寧な暮らしでキャンドル見てて寝不足?ハハ」
「槙野さん、河田さん、朝礼中ですよ!」
高坂課長が琴美とゆいに注意する。
2人のコソコソ話は杏奈の耳には届いていなかった。
「杏奈さん!杏奈さん?」
「え?はい!何?」
「どうしたんですか?お昼休みの時間ですよ?」
「あ、ゆいちゃん、ありがとうね。」
そう言って杏奈はふらふらとロッカーに向かって歩いていく。
「ねぇ、あれ完全にどうかしちゃってるよね?」
杏奈の後ろ姿を見ながらゆいが言う。
「いつものトイレ休憩なかったじゃん?それも不気味だったよね。
でもさ、ひなが見つけたInstagram見てたら
“いつもキラキラです”って感じよね?昨日も見た?」
「あぁ…高級キャンドルって、うちの給料でどうやって買ってるわけ?」
「あはは!ひどーい!ゆい言いすぎじゃない?」琴美が笑いながら言った。
「さ、栗さまのことはいいから!今日何食べよっかー」
カフェの1番奥の席で杏奈はカフェラテを飲む。
今日はご飯を食べる気にもならないし、休憩室にもいたくない。
とにかく1人になりたい。
できることならこのまま帰りたいけど、家に帰るとスマートフォンを触ってしまいそうな自分が怖い。
ゆうべ、佐々木のことをXに書いた。ほんの軽い気持ちだった。
佐々木が支援してくれなくなったけど、選ばれるんじゃなくてこっちが選んでる。
もともと不能だった佐々木を出来るようにしたことは感謝して欲しいとか、
会社に晒してやりたいとか。
でも、全部本当のこと。
それを書いて何が悪いの?意味が分からない。
それに、そうゆうこと書いてるの、私だけじゃない。
スマートフォンの通知は鳴りやまないし、
一晩で12万人の人に見られたことが怖くて、
アカウントに鍵をつけた。
きっとこれでもう大丈夫。
スマートフォンを手元に置く。
いつもなら常に開いて、見たり、投稿したりしているのに
今は触るのも少し怖い。
Étoile(エトワール) の店長にメッセージを送る。
「店長すみません。今日、体調が悪いのでお休みします。」
「了解!杏奈が休むの珍しいな!お大事に!」
仕事が終わって駅に向かう途中、LINEの通知があった。
良平だ。
「おつかれ!今日って店出てる?」
「ううん。今日はやすみ」
「おお!めし行こ!」
杏奈は少し考えた。
こないだの瀬戸とブッキングした時、瀬戸と話すわたしを見る良平の顔。
帰ることを言わなくていいって店長に言って、そっと帰ったこと。
それより、最初に彼女とのこと悩んでるみたいだったよね。
それより今日は1人でいたくないかも…
「いいよ!どこ行く?」
杏奈は返信をした。
駅のトイレで鏡を前にする。
「うわぁ…クマできてるし…自慢の涙袋が…
目も真っ赤だし…でもまぁいっか。」
そう言いながら、軽くメイクを直し始めた。
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