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チロル会音楽部~ロック青春記 第19話*出会いは1枚のハガキから

     その年の夏、鹿屋の日高君、川原君と知り合ったことによって、ギター、キーボード、ベースに、ドラマーが加わった。
     あと足りないのはボーカルだけだ。
     だが、中学生でロックを歌える子など、そうそういるものではない。十四、五歳では、大体において声が可愛すぎるのだ。
     音楽雑誌『ミュージック・ライフ』の募集欄に、鹿児島市在住の中学3年生の投稿ハガキが掲載されていたのは、高校入試が迫る12月のことだった。
     そこには、ローリング・ストーンズかレッド・ツェッペリン・スタイルのバンドでボーカルをやりたいと書いてあり、自分たちと音楽嗜好もピッタリで、皆、大いに関心を持った。 
     ― 他のバンドに横取りされちゃ困る。
       早く自分たちの仲間にしなきゃ! ―
     末原君、鮫島君と三人で自転車に飛び乗った。
     雑誌に載っていた住所だけが頼りだった。鹿児島市長田町。行ったことのない町だったが、迷いながらも、なんとかそばまでたどり着いた。
     さあ、いよいよ、これから一軒一軒探し回ろうとしたときのことだった。
     ふと見上げると、二階の窓からこちらを見下ろしている同い年ぐらいの男の子がいる。
     「もしかして、あの子だったりして…」
     というのは軽い冗談だったが、訊けば何か分かるだろうと思って、掲載されていた住所と南貞則という名前を伝えてみた。
     
     「僕が南ですけどー、ボーカルの話ですか~?」

     僕らは驚いて顔を見合わせた。

     「はーい、そうで~す!」
     「待ってましたぁ~。入り口は向こうで~す。そちらに回ってくださ~い」
     三人とも、狐につままれたような気分になっていた。
     「待ってたって…、何でオレたちが来るのがわかってたんだろう?」
     「うん、どう見ても、あれは待ち構えてたよね」
     「もしかして、ミュージックライフに載ってから、ずっとああして誰かが来るのを待ってたのかな?」
     「まさかぁ、いくらなんでもそれはないだろう…」
     木造のアパートの急な階段を上り、彼の部屋にたどり着いた。
     南君は南君で、なぜ僕らが訪ねてきたのか訳がわからない様子。ミュージックライフに自分のハガキが採用されたことさえ、知らずにいたのだ。 
     ますます訳がわからない。
     頭は混乱するばかりだった。

     あとで分かったことだが、南君は僕らを待っていたわけではなく、別件での尋ね人を待って、窓から見下ろしていたのだ。
     その別件というのが、何とまあ、偶然にも別なバンドでボーカルを担当するという話。卒業した先輩が、バンドのボーカルを探しているということで、待っていた。その約束の時間が、まさに僕らが訪ねて行ったその時だったのだ。
     ところが、訪ねてきたのは、その先輩ではなく、どういうわけか、何の面識もない三人の中学生たち。
     あまりのタイミングの良さに、てっきり先輩の代理できたと思い込んだ。
     その中の一人末原君は、県医師会館で行われたパイオニア主催のレコード・コンサートで姿を見かけて、覚えていた。彼が抽選で当たり、ステージに上がったとき、着ていたお洒落な服が、学生服姿の南くんにはまぶしかったのだ。
     それにしても、どこでどう繋がって、先輩の代りにそのときの男の子が訪ねてきたのか?
     南君の頭も、僕ら同様、混乱しまくっていた。

     まずあり得ないような偶然のいたずらによって、この出会いは、互いにとって何とも不思議な瞬間として、後々までしっかりと記憶されることになったのである。

     木造の狭い階段を一段一段踏みしめながら、彼の部屋に入って行くと、まず目についたのは、壁一面に貼られたミュージシャンの写真だった。
     雑誌から切り抜いたそれらの写真の中には、当時僕が憧れたキース・エマーソンの写真もあったのを覚えている。そんなロックに埋め尽くされたような部屋で、南君は、レコードに合わせて歌った録音を聴かせてくれた。

     周囲に音楽仲間もおらず、ラジオ番組などを頼りに、一人でロックを楽しんでいた。ローリング・ストーンズが好きで、以前からよく歌っていたが、レッド・ツェッペリンの『胸いっぱいの愛を』に感動し、その勢いのままに、ハガキを書いて送ったのだと言っていた。
     鮫島君も、レッド・ツェッペリンを知ったときは、衝撃のあまり学校を休んでしまったというが、同じように感動している中学生が、ここにもまた一人いたのだ。
     数日後、南君は、末原君の家へやってきた。
     そして、初めて僕らの音と合わせた。
     アニマルズの『朝陽のあたる家』での第一声が今でも耳に残っている。
     楽器を演奏しながらの自分たちの歌い方とは全然違っていて、「歌う」ことにこだわった強い表現欲求が感じられる南君のボーカルを、皆が歓迎した。
     こうして、バンドの形が整った。

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