
【もしもミュージアム】#12 ミニ展示『いつかの村』(後編)
↓前回のお話
資料館・秋
カオルの撮ってきた写真が小さく展示された。工業用地と緑地、わずかに残る沼地でくつろぐ水鳥など、どれも“向こう側”の世界だ。
隣には、開発予定区域の図面と計画の取下通知、当時の白黒写真が展示されていた。『もし、この辺り一帯が工業用地になっていたら』という内容で、学芸員が企画したテーマ展の一部だ。
資料提供のお礼に、と、館長が資料館の周りを案内してくれた。資料館は集落の中にあり、学校や民家、小さなたばこ屋を改装した商店が隣に建っていた。裏手の小高い丘には、遺跡があるらしい。
「時々、役場の文化財担当者が確認に来ます」
カオルは、館長と一緒に藪漕ぎをして、丘に登った。頂には遺跡の名を刻んだ柱と、簡単な看板が建っていた。
「こっち側を見てください」
館長は、今来た道と反対側を指差した。 大きな沼地が広がっていた。水面は鏡のように凪いでいて、岸辺には小さなボートが停泊している。 ジュンサイを採る人もいるらしい。
「明け方と夕方、渡り鳥の群れが見られます。最近は個体の数も減ってきていますが」
「それは、向こう側と同じですね」
しばらくの間、二人は沼を眺めていた。
資料館・祭り
ミズナラの林が黄色に色づいていた。窓際には、ドングリでつくったコマと人形が並べられていた。この前、資料館の行事で子どもたちと一緒に作ったという。
三回目の再入館。カオルが再来場できるのは、これが最後の日だ。
館内に黄昏の光が射し込み始めた頃、祭囃子が聞こえてきた。
「お祭りですね」
「はい。この地域の豊穣を祝うお祭りです。夜になると和太鼓の演奏や、縁日も始まりますよ」
館長は、つぶやいた。
「このまま残れたら、見学できるのですが」
「それも楽しそうですね。でも……」
閉館時間のチャイムが鳴った。出口は夕陽でまぶしかった。
「帰らないと。まだ“向こう側”で、撮らないといけないものがありますから」
真っ白になったバングルを返しながら、カオルは尋ねた。
「また、会えますか」
答えずに、館長はほほ笑み返した。
「ご来館、ありがとうございました」
寂しそうに微笑みながら、カオルの姿はゆっくり消えていった。
祭囃子と、太鼓の音が次第に大きくなっていった。
祭りのあと
資料の掃除中、館長が何度も物思いにふけるのをベテラン学芸員は不思議に思った。
「館長、何だか元気ないよ。どうしたの」
「気のせいです。ほら、作業を続けて」
作業をしながら、館長は、ロビーの写真に目をやった。カオルの残した“向こう側”の写真を、今も何枚か残して貼っていた。
「そうだ、この前のテーマ展、画像が特に人気だったよ」
「それはよかったです。貴方の展示構成も興味深いものでした」
「館長に褒められたの、何年ぶりかな」
学芸員は上機嫌だった。カオルの写真は、こちらの世界では『もしもの世界を想像して作成した画像』ということになっている。来館者には好評だったらしい。
「そういえば、この前の来館者から、何を代償にもらったの。管理簿には『無形かつ音声、視覚に残らない資料ため、収集保存不可』としか書いてないなかったもので」
「さて⋯⋯他展示室でも、よくある事象だから忘れました」
館長は顔をそむけた。
カオルの使用済みバングルが作業着の胸ポケットに入っていること、学芸員たちには秘密にしている。
(ミニ展示 おわり)
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