
【もしもミュージアム】#11 ミニ展示『いつかの村』(前編)
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蒼い空からオオジシギが機械のような羽音を立てて落下した。向こうに大きな倉庫や工場敷地が広がってる。
果てなく続く工業用地に残る緑地帯には、春と秋になると、渡り鳥が集まる。多くの鳥類愛好家たちも、カメラや双眼鏡をもって集まってくる。
カオルも、その一人だった。
「何十年か前まで、ここは農家の集落だったんだよ」
偶然行き違った鳥調査団の一人が、カオルに教えてくれた。 太平洋戦争の後、移住した人々が集落をつくり、農業を営んでいたという。 やがて、国の政策で多くの土地が工業用地やダムになった。この場所もそうだったらしい。
「見てみたかったな」
広がる空を見上げ、カオルはつぶやいた。
「その集落が残っていた風景」
それから、記憶が少しだけおぼろげになった。
資料館・春
気づくと、カオルは資料館の前にたどり着いていた。古民家風の小さな建物の中に入ると、時代別に古い生活道具が並んでいた。
まだランプや井戸水を使っていた時の民具、電気が使われ始めた頃の家具、平成手前の暮らしものまで。
「小学生の社会科の授業でも使えるように展示しています。最近は、プッシュホンも使ったことの無い子が増えてますからね」
案内をしてくれた館長促されて、黒電話のダイヤルを回して電話をかける振りをしながら、カオルは我に返った。
「そういえば、どうしてここに」
館長がほほ笑んだ。
「貴方が望んだからです」
資料館・初夏
入口を通ると、右腕につけた再来館バングルが光った。強い光が収まると、真っ青だったバングルの三分の一が脱色したように白くなっていた。
館長が、ガラスの器に濃紺の小さな果実を山盛りにして持ってきた。
「いかがですか、ちょうど今、常連さんからお裾分けをもらったばかりです」
勧められて、カオルは匙で口に入れた。果実の薄い皮が破けると、舌がしびれそうな酸味と、苦みが口いっぱいに広がった。
「酸っぱかったら砂糖もどうぞ。今朝、畑の裏の林で採ってきたそうです」
資料館の窓から外を見渡した。辺りには広い畑や雑木林が広がり、民家が点々としていた。
「この辺りで食べられていた初夏の果実です。“そちら側”の世界では、ほとんど採れなくなったでしょう」
「たぶん、知ってる人も少ないと思います」
「でしょうね。こちらでも、気候の変化や野生鳥獣との関係で、自生地は減っていますから」
カオルは、砂糖をかけてそれをもう一口食べた。甘酸っぱくて、少しほろ苦かった。
(つづく)
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