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瞁切堂の憂鬱 #11

瞁切堂の悔恚 

 湿床を含んだ暑さをうっすらず感じる。
 駅から瞁切堂たでのい぀もの街䞊み。
 街路暹が色づきはじめおいるこずに、私の心は小さく螊る。
 季節が緩やかに移っおゆく感じが、私は奜きだ。
 ようやく寝苊しい毎日から解攟されるず思うず、歩みも少し軜くなる。
 
 出勀前に「近江屋」さんでレヌズンサンドを買い、脇道に入る。
 瞁切堂さんは、気に入っおくれるだろうか
 い぀ものように行列ができおいる「やぶ蕎麊」さんの前をずおり、架橋をくぐる。
 区画進み、角を曲がる。

 そうするず、店を圧し朰しおしたうのではないかず思うほどの「瞁切堂」ず曞かれた看板が、目に留たる。
 今日もいい倩気だ。
 什は、鞄の䞭に忍ばせた本を䞊からポポンず軜く叩き、店ぞず向かう。

「クリ、今日も楜しんでいこうね」
 匟む声が、空の蒌に吞い蟌たれおいった。
 
 ïŒŠïŒŠïŒŠ
 
「だから 䜕床、蚀わせるんですか 少しはお店の片づけを手䌝っおください この本も売り物なんですからね」
 始業早々、怒鳎っおしたった。
 たあ、い぀もの颚景だず蚀えばそうなのだが、盞倉わらず瞁切堂さんは怅子に座り本を読むばかりだ。
 店内に所狭しず山積みにされた叀本を分類し、棚に入れおいく。
 それが私の日課でもあり、業務だ。
 たあ、これで䞀般䌁業䞊みのお絊料を貰えおいるず思えば、臎し方ないが  。
 
 什は瞁切堂の埮動だにせず、本を読む姿に錻を鳎らし、うずたかく積み䞊げられた本を䞀぀ひず぀確認しおいく。
 この本䞀぀ひず぀に私ず同じように䜜者は自らの想いを乗せ、曞いおいる。
 そう思うず、なんだか宝物を扱っおいるのではないかずすらずいう感情が湧いおくる。
 それは、私自身が「クリずの思い出」を蚘した著者になったからだろうか
 

 「瞁切堂」の叀本屋ずしおの売り䞊げは少ない。
 圓たり前に聞こえるかもしれないが、そうそう叀本は売れるものではない。
 日に倚くおも冊売れお、5,000円の売り䞊げがあればいい方。
 、日、たったく本が売れないこずなんおざらだ。
 
 じゃあ、なんで「瞁切堂」ずいう叀本屋が継続できおいるのか

 それは、裏皌業である「瞁切の儀」を聞き぀けた人が定期的に蚪れるからだ。
 裏皌業ずいっおも、アブないものではない。
   倚分  。
 
 「瞁切の儀」ずは、人生においおどうしおも「忘れられない人」や「想いを䌝えられなかった人」ず最埌の刻を持぀もの。
 それにより、その「瞁」に瞛られた自分を解攟するずいうのが「瞁切堂」の裏皌業である。
 玹介者の無い飛び蟌みの客は、断る。
 しかも、内容によっおも、お断りをする。
 什和の時代、この東京のド真ん䞭で、こんな裏皌業があるだなんお、いささか信じられない。
 
 だが、私は䜓隓しおしたった。
 「瞁切堂」の「瞁切の儀匏」を。
 私のもっずも愛した愛猫クリずの最埌の邂逅。
 それが、思い悩み、ふさぎ蟌んでいた私に、新しい䞀歩を螏み出す勇気をくれた。
 もっず倚くの人に「瞁切の儀匏」を受けおもらい、立ち盎るきっかけずしおほしいず私は思うのだが、瞁切堂さんはそれを頑なに拒む。
 䜕でも、「この儀匏は、本来であれば重芁機密」なのだそうだ。
 ゚ラい儀匏を私は受けおしたったものだず、口の端が緩む。
 
 「瞁切の儀匏」を受けたいず盞談に来る客は、月に人から人皋床だ。
 その䞀人ひずりから、玄䞇円もの儀匏料を取っおいる。
 先月も、先々月も、この儀匏を人づおに聞き、蚪ねおきたのだ。

 その誰もが、「瞁切 Qの儀匏」を終えたのちに、涙を流し、感謝を䌝え去っおいく。
 人のためになっおいるずは思い぀぀も、少しばかり「最埌の刻」にも疑問が無いわけではない。
 この䞖の理を曲げ、死者ずの最埌の察話をする。
 それは本圓に今を生きおいる人を成長させるものなのだろうかず。

 たあ、私もそれに救われた䞀人なのだ。
 詮玢しない方が、䞀番なのだろうず、什はフッず笑う。
 このあばら家のような叀本屋が継続できおいるのも玍埗ができる。

 そんなこずを什は考えながら、積み䞊げられた本をより分けおいく。
 単玔䜜業ず思案は意倖にも盞性がいいらしい。
 アレコレず自分の䞭に浮かぶ考えを敎理しながら、手を動かしおいるずあっずいう間に時間は過ぎおいく。
 たあ、これで瞁切堂さんも手䌝っおくれお、反応もよかったら申し分ないんだけど。
 
「ちぃっす 兞枅、什、元気しおるか」
 積み䞊げられた本の䞭には決しお飲み蟌たれないような、明るい声が飛んでくる。
 少しだけ、この仕事に飜きを感じおいたずころだ。
 ナむスタむミングだず、私は店舗の入り口に向かう。

「詩 久しぶり 元気しおた」
 友人のい぀も通りの満面の笑みがそこに埅぀。
 自分勝手で、自由。
 だけど、倧切な人を絶察に裏切らない。
 元気が䞀番のトレヌドマヌク。
 そんな圌女も瞁切堂さんの「瞁切の儀匏」にお䞖話になったらしい。
 
「おぉ 什も『さた』になっおんじゃんかよ 叀本屋の女将っお感じがするぜ。っおいうこずは、あの奥手な兞枅に手籠めにされたか  」
 たったくこの子は盞倉わらず、ノリで話を進める。
 そんな芪友の冗談ずも぀かない話を軜く受け流す。

「そんなこずはないわよ。私から、あんな熊みたいな人はお断り。ムスッずしお、䞀日䞭、本を読んで『ああ』ずか『うん』ずしか蚀わないんだもん」
 私は久しぶりの芪友にちょっずしたボダキをこがす。
 ブラック䌁業に勀めおいたころに比べ、私の愚痎がこんなにも小さくなっおいるこずにはじめお気づく。
 私、今、楜な状況で仕事ができおいるのかも。
 そう思う私の蚀葉を詩は遮る。
 
「いいね。惚気か 什も随分、倉わっおきたな ほい。『近江屋』のこれ、ショヌトケヌキな。埌で兞枅ず食べおくれよ。兞枅は奥か ちょいずお邪魔するよ」
 そう蚀っお、小さな箱を私に無理やりに枡すず、詩は店内にずんずんずその歩を進める。
 盞倉わらず、自由だ。
 たあ、「近江屋」さんのショヌトケヌキが食べられるのだから、いいけど。
 
 詩が持っおきたショヌトケヌキを皿に取分け、玅茶を入れる。
 今日はアヌルグレむがいいだろう。
 熱いお湯を玅茶葉の入った急須に泚ぐ。
 淡いベリヌのような銙りが郚屋䞭に立ち䞊り、䞊質な空間を䜜り䞊げおくれる。
 
 銙りずは䞍思議なものだ。
 嫌なこずがあっお、萜ち蟌んでいたずしおも、銙り䞀぀で気分は倉わる。
 肩の力が抜け、安心する銙り。
 なんだかやる気が満ち溢れおくる銙り。
 ちょっず色気を感じる銙り。
 人の心をこうも倉えおしたう銙りずいうものは、ある意味で力を持っおいるのではないかず感じる。
 たあ、よくはわからないけどね。
 
 お盆にケヌキず玅茶を乗せ、錻歌亀じりに瞁切堂さんず詩の元に向かう。
 今日は私の倧奜きな人たちず䞀緒に、矎味しいものを食べ、時間を過ごす。
 こんなにも幞せなこずはないのでは、ないだろうか

 倧奜きな人
 いや、いや。
 瞁切堂さんは倧奜きな人ではない。
 ただの雇甚者ず埓業員の関係だ。
   倚分  。
 そんな、ほんのりず枩かい想像をしながら、什は母屋に向かう。
 
 
「  だっから、マゞであい぀、どの面䞋げお連絡しおきたのよ 絶察にここは、譲らないでよ 兞枅、ちゃんず聞いおる ある意味で、あい぀は私たちの仇なんだよ」
 詩ちゃんの怒声にも䌌た声が響く。
 瞁切堂さんは、詩ちゃんの前で少し項垂れ、その蚀葉を受け止めおいる。
 䞀䜓、䜕が起こったのだろうか

぀づく

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