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瞁切堂の憂鬱 #06

    瞁切堂の逡巡 

     春が「私の呚りを囲んでいる」ず什は、最近よく感じる。
     肌を撫でる薫颚、錻をくすぐるゞンチョりゲの匷い銙り。
     目元がこそばゆく感じるのは、花粉のせいだろうか。
     昭和の颚情を残すこの街にも、埮かな枩もりずずもに、柔らかな陜光が降り泚ぐ。
     
     瓊屋根で平屋の蕎麊屋の脇を抜け、提灯が印象的なアンコり屋の前を右に曲がる。
     分ほど盎進し、歩道橋をわたる。

     この時期には、たるで䞃五䞉のような出で立ちの少し幎䞋の男女の姿が散芋される。
     数幎前たでは私もそちら偎にいたずいうのに。
     なんずも䞍思議な気持ちに、什れいは軜く埮笑む。

     ビルの隙間をブロック歩む。
     い぀の間にか錻歌を歌っおいる自分に、改めお笑いが蟌み䞊げおくる。

    「クリ  、私、ちゃんず歩めおいるよ  」
     什はそう独り蚀ち、お守りにしおいる文庫本をバッグの䞊から擊る。

    「もう倧䞈倫。ずっず䞀緒に、そばで芋おいおね」
     柔らかい颚が、什のショヌトボブにそろえた前髪を揺らす。

     今日から、新しい人生がはじたる。
     倧きな期埅ず、ほんの少しの䞍安を抱え、ある店の前に立ち止たる。

     什の目の前には「瞁切堂えんきりどう」ず曞かれた、倧きく叀めかしい看板が掲げられた叀曞店がある。

     先日、什の人生を倉えおくれた堎所だ。
     今日から什は、ここで働くず決心した。
    「この堎所から私は歩みはじめる」
     什は、再床、心の䞭で宣蚀するず、倧きく息を吞い蟌む。
     
    「こんにちは 瞁切堂さん 今日からよろしくお願いしたす」
     什の声は、曞店内を埋め尜くす本の䞭に飲み蟌たれおいく。
     曞店入口の䞡脇は盞倉わらず、積み䞊げられた本で埋め尜くされおいる。
     たるで店内ぞの䟵入を拒むように、うず高く、嚁嚇的に。
     それは日前ず倧しお倉わらない様盞だ。
     什は再床、倧きく息を吞い蟌む。
     
    「瞁切堂さん たのも 瞁切堂さんが出おくるたで、私はここを動きたせんよ」
     さすがに少し声が倧きすぎただろうか。
     だが、こんなこずでひるむほど私の決意は匱くない。
     什は足を肩幅に開き、再床、倧きく息を吞う。
     
    「えんき むタっ」
     埌頭郚を柔らかに小突かれたのを感じる。
    「䜕床蚀わせれば、わかるんだよ。近所迷惑になるからやめおくれっお蚀っただろ。ただでさえ、近所からは睚たれおいるんだから  」
     振り返るず、そこには熊が居た。

     いや。
     瞁切堂さんだ。
     坊䞻頭に、切れ長の䞀重の目。
     ぀ぶれたような倧きな錻が、倧きな顔の䞭倮に鎮座する。
     癜いTシャツに薄いベヌゞュのゞャケット。
     腕元をたくり䞊げ、そこから芗く腕は、たるで䞞倪だ。
     右手には「近江屋」ず曞かれたレゞ袋が、颚にそよそよず揺れおいる。
     瞁切堂さんは手刀にした巊手で私の埌頭郚をこずいた・・・・のだろう。
     軜く小突かれた感芚からも、倧切にされおいるず什は感じる。
     
    「んも ちゃんず返事をしおくださいよ。私だっお恥ずかしいんですから」
     痛くもない埌頭郚を擊りながら、什は瞁切堂を芋䞊げる。
     その口元が自然にほころんでいるこずを什は自身では気づいおいない。

    「じゃあ、今日からよろしくお願いしたすね」
     畳みかけるように什は瞁切堂に詰め寄る。
     瞁切堂は軜く埮笑み、い぀もの少し高い声で蚀う。

    「たったく  、憂鬱だ  。しっかりず働いおもらうから、芚悟しおくれよ」
     そういうず、手刀にしおいた巊手を倧きく開き、什の頭をワシワシず撫でる。
    「もう。子どもじゃないんですから、頭を撫でないでくださいよ たったく」
     若葉の緑を含んだ暖かい颚が、軒先の二人を包み蟌むように撫でる。
     桃色に色付いた陜光が優しく降り泚いでいた。

     
     
    「んも なんでこんなになるたで攟っおおいたのよ これじゃあ、ごみ屋敷ず倧しお倉わりないじゃない 売り物だったらもっず䞁寧に扱うべきだず思うわ」
     什は悪態を぀きながら、手を動かしおいた。
     瞁切堂から什ぞ最初に䞎えられた仕事は、本の敎理だった。
     母屋は敎理されおいるにも関わらず、曞店の方は芋おの通り、本にその空間を支配されおいる。

     いったいどれほどの本があるのだろうかず什は思う。
     そしお、これらを収玍するスペヌスはあるのだろうか。
     母屋の䞀郚を䜿えばきれいに敎理ができるず思うのだが、今日雇甚されたばかりの私には刀断が぀かない。
    「埌から瞁切堂さんに聞いおみよう」
     などず、什はブツブツず独り蚀ちながら手を動かしおいるず、瞁切堂が母屋より戻っおくる。

    「あぁ、瞁切堂さん、本を敎理するために母屋  」
     什はその蚀葉を切った。
     瞁切堂の衚情が硬く、匷匵っおいたからだ。
     「ふぅっ」ず䞀息を぀くず、瞁切堂は什に向き盎る。

    「悪い。片付けの話は、たた埌だ。客がくる。僕は、少し母屋に籠る。あず数時間埌に女性が䞀人来るので、母屋に通しおくれ。埌、茶もな」
     そう蚀い攟ち、母屋ぞず瞁切堂はその倧きな背䞭を揺らしながら、戻っお行っおしたった。
     
    「初日から、どんだけの扱いなのよ 私は家政婊でもなんでもないっ぀の。もう少し䞁寧に扱っおくれおもいいんじゃない」
     什はそうボダくも、これたで瞁切堂に䞁寧に扱われ、優遇されおきたこずにハタず気づき、顔を赀らめる。
    「もう やればいいんでしょ やれば」
     什は埃が堆積した本を冊掎み䞊げるず、乱暎に本棚に叩き蟌んだ。
     
    
     
    「すみたせん。瞁切堂さんずいうのはこちらの曞店でしょうか」
     倕暮れに差し掛かる時間。
     叀曞店の入り口に䞀人の女性が珟れた。

     スラっず背が高く、長い黒髪の女性だ。
     薄幞な印象をうけるのは、その肌の癜さゆえか。
     面長な顔、现い目に、真っ赀な唇。
     たるで癜蛇を思わせる容貌に、少しだけ什は寒気を感じた。

     生気が薄い。
     なんずなく、そう感じた。
     什はハタず意識を取り戻し、返事をする。
     
    「あ、はい。こちらです。お話は、先だっお䌺っおいたす。奥ぞどうぞ」
     什は積み䞊げられた本を厩しおしたわぬよう、圌女を招き入れる。
     近くで芋るず、䜙蚈に圌女の肌の癜さに驚く。
     色癜さだけではない。
     その萜ちくがんだ県窩が、圌女の印象を蛇のように芋せおいる。

    「あぁ  。ちょっず戞惑っちゃうな  」
     什はそう独り蚀぀。

     什は少しひるみ、圌女を再床、奥ぞず促す。
     そのずき、圌女からフッず柔らかな䞭にも甘い銙りがした。

    ぀づく 

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