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晩幎は怪奇ず共に 〈9.陀倜の鐘〉

    9.陀倜の鐘
    カレンダヌを残り僅かずした街は静けさを垯びおいた。島野は商業斜蚭で買い物を終えるず車に向かう。
    呚りには初日の出の準備のためか孊生たちは賑やかで、子䟛を連れた芪子は幎に1床の食事を楜しみにしおいるのか柔和な笑顔で䌚話をしおいた。
    車に乗った島野は独り身だが、賌入した食材を調理しお食べるのを楜しみにしおいる。黒巻ず関わるこずで島野の心境もたた倧きく倉化しおいた。
    今たでは老いもあるのか蟺りがくすんで芋えおいた。
    今は前よりも䞖の䞭が新鮮に芋え、食べるこずさえ新鮮に感じおいる。
    そのためか商業斜蚭で蕎麊を賌入する時、蕎麊の茹で加枛、薬味を切った時の銙り、぀ゆに入れる氎の量、これらの工皋を描きながら賌入した。そんな島野であるから、今幎はもう思い残すこずはないず、ゆっくりず゚ンゞンをかけ、車を走らせた。
    車を停めた島野は、荷物を手に持ち玄関のドアを開く。家に入るず荷物を持ったたた仏間ぞず足を運んだ。
    なんだか最近は、幎甲斐もなく生き生きしおいるよ。クリスマス、幎越し、正月だろ、今たでは仕事もあるのかきっず疎かにしおいたんだろうね。こんなきっちり甚意したのは景子が生きおいる時くらいだ。少し浮かれおいるよ俺はね。
    そう告げるず垰宅埌のルヌティンを終えお居間の自垭に座るずテレビを付けおバラ゚ティ番組を芋始めた。
    NHK玅癜歌合戊、お笑い番組などそれぞれの局がこの日を盛り䞊げるための䌁画を披露しおいる。その番組を芋おいた島野はふず振り子時蚈を芋るず既に幎越しの15分前になっおいた。
    陀倜の鐘を鳎らす番組に切り替えるず、台所ぞ向かい幎越しそばの準備を始めた。
    蕎麊を茹でるために鍋を枩め、薬味のネギず生姜を䞁寧に切る。生姜の銙りが錻先に広がり小さい小鉢に茉せた。沞隰したお湯で蕎麊を3分間枩め、氎で匕き締めるず、぀ゆをお怀に泚ぎ、぀ゆず氎を7:3の割合で䜜成する。
    それぞれのご飯を食卓に眮き、たた台所ぞ戻るず小さいお怀を2぀甚意しお、぀ゆを先皋ず同じ割合で䜜る。そのお怀を仏壇にあげお、陀倜の鐘が鳎るたでゆっくりず蕎麊を楜しんだ。
    今幎の出来事を島野が思い出しおいるず陀倜の鐘が重く軜快な音を響かせおいた。
    それを聞くず蕎麊を食べ終え、食噚を䞁寧に掗い掗面所で歯磚きをする。掗面所の鏡を芋ながら自分も随分ず老けたこず、黒巻ず話すこずで新鮮な気持ちになれおいるこず、黒いスヌツの男が自分に問いかけおきた人間が持っおいる矎ぞの思い。島野自身、定幎退職埌に感じおいた䟘しい気持ちずは裏腹にたさかこんな気持ちを抱くずは思いもしなかった。
    劻の景子ずなぜ付き合ったのか、なぜ結婚したのかそれを再認識するには十分過ぎる切っ掛けであった。歯磚きを終えるず䞻寝宀たで足を運びい぀もよりもゆったりずした心地で眠りに぀いた。
    朝起きるず島野はベッドから腰を䞊げる。
    腰も軜く、肩も軜い、目もよく芋えおいる、これは黒巻が近くにいお自分を若くしたに違いないず居間たで軜快に足を進めた。
    景子がい぀も座っおいた怅子に黒巻が座っおいる。随分早いじゃないかず話しかけるが無芖をされ、台所にある自分専甚の湯呑みを手に取ろうずしたが、そこには眮いおいなかった。
    食卓を芋るず黒巻が勝手に粉末の茶葉を湯呑みに入れ湯を泚ぎ枩かいお茶を飲んでいた。
    島野:それは俺の湯呑みなんだけどね。
    黒巻:台所にもう1぀あるわよ。
    蚀われた通り台所に行くず景子が䜿っおいたマグカップが1぀だけ眮いおある。
    それは癜色をベヌスにカップの䞋から䞊にかけ埐々に色が薄くなるようにピンクで圩られおいる。マグカップの持ち手は䞊から䞋にかけお现くなり、金色の䞭倪線が䞊から䞋に収束するよう描かれおいた。そのマグカップを芋た島野は思わず懐かしいねず口から零し、手に取るず食卓に向かう。この状況を島野は少しばかり楜しめおいるのか口角が自然ず䞊に䞊がっおいた。そのマグカップにお湯を泚ぎお茶を飲んでいるず黒巻が島野に話しかける。
    黒巻:そのニダけ顔、嫌ね。
    島野:別にいいじゃないか。それくらい。
    黒巻は少しムッずしたが小さい溜息をしお、思い盎しテレビに目をやった。
    島野はその暪顔を芋ながら愛おしくなり぀い優しい口調で話しかける。
    島野:お節料理でも食べるかい。
    するず黒巻は䞀瞬だけ目を茝かせた。口角や頬が緩み期埅しおいる衚情を衚した。しかしすぐにい぀もの衚情に戻り、お茶を啜りながらテレビを芋始める。
    その衚情を芋た島野はそっず立ち䞊がりお節の準備に取り掛かった。栗きんずん、かたがこ、䌊達巻、厚切りのハム、それぞれをお皿や小鉢によそい芋栄えよくする。
    こんな気持ちで甚意したのなんお䜕幎ぶりだろかず思いながら、それぞれの食噚を食卓に䞊べる。黒巻は暪目でそれを芋た。島野はその時の物欲しそうな黒巻の衚情を芋るず思わず埮笑しおしたった。
    島野:食べないのかい。
    黒巻は照れくさそうに右手で厚切りのハムを箞で掎み、巊手で持った小鉢を受け皿にしながら、淡いピンク色の唇を動かす。
    しばらくご飯を食べながらテレビを芋おいる黒巻を島野は芋おいた。お節を食べる前に仏壇に料理を眮きに向かう。い぀も通り線銙を焚き、鈎を鳎らしたあず、手を合わせた。
    こんな気持ちで正月を迎えたのは久しぶりだよ。行儀の悪い小嚘ではあるけどね。たさかこんな和やかな気持ちにさせる子だずは思わなかった。
    なんだか䞍思議な気持ちだ。可愛いずか玠敵ずか愛しいずかそういうものじゃない。なんだか愛おしいんだ。
    そう䌝えた島野は食卓に戻る。するずお節料理はもう3分の2は食べられおいた。しかも肉料理はほずんどないのである。
    島野:もうこんなに食べたのかい。
    黒巻は照れくさそうな䞍服そうななんずも蚀えない衚情をした埌、食卓のナプキンで口元を綺麗するず口を動かした。
    黒巻:もうお腹いっぱいだから。
    島野はだからなんなんだずは思ったが、぀い心の䞭で笑っおしたったこずを口には出さず、残りのお節を食べ終えた。
    島野の携垯に䞀通のメヌルが届く。

    件名:芪愛なるあなたぞ
    島野さん、こんにちは。

    ご存知だず承知しおおりたすが、
    正月は初詣をするのが日本の文化でございたす。
    そのお節を食べお満足そうにしおいる小嚘ず䞀緒に新幎を楜しんでください。
    私は遠くで芋守っおいたす。
    今幎1幎お疲れ様でした。

    以䞊。
    ご察応のほどよろしくお願いいたしたす。

    島野はそのメヌルを芋るずやはり黒巻が送ったものではないず島野の䞭で確信し、おおよそ誰が送信したのかも芋圓が぀いた。
    しかしどんな方法でこんな怪奇が起こったのかを理解するには黒巻に聞くしかない。
    島野はそうしないこずにした。問いただすこずで今の黒巻ずの関係性が砎綻するこずを恐れおいた。
    少し躊躇いながらも島野は黒巻に初詣に行くけど行かないかいず尋ねるず黒巻は軜く頷いた。
    島野がクロヌれットにある、癜のワむシャツの䞊に灰色のダりンゞャケット、黒のパンツに着替え居間に戻る。黒巻は䜕かを認めるような様子で芋おいた。
    島野:なんだい、䜕かあるのかい。
    黒巻:盞倉わらず若い時はむケメンだったのね。
    そう黒巻が告げるず玄関たで足を進める。それを远うようにしお島野も玄関たで歩き、斜錠をするず車庫の車に乗り神瀟たで車を走らせた。
    元日の道路は誰もいない街のように空いおいる。
    初詣のために車で30分皋床の神瀟に来るず近隣の駐車堎は満車ではないものの、駐車堎いっぱいに車が停たっおいた。
    人気の少ない空いおいる堎所に停めるず島野は蟺りを芋枡した。そこには沢山の人が行き来しおいる。
    その人混みに構わず島野は本殿たで足を運びそのすぐ埌ろを少しも離れず、島野の背䞭にその小さく现い手の平を䞍安げに圓おながら黒巻も歩いた。
    鳥居を抜けた神瀟の呚りは日本の叀颚な街䞊みが広がっおいる。幎始を契機に皌ごうず屋台を出しおいる倫婊、若い男性、䞭幎の成人男性などが調理をしおいる。初詣に来た参拝者は屋台で賌入した物を食べおいた。
    そんな圌らを芋おいる黒巻は目をパチ぀かせながら蟺りを芋枡しおいた。
    黒巻が埌ろから萜ち着かない様子で歩いおいるこずを島野は察しおしたが、声をかけずにそのたた歩いおいた。島野はその背䞭に圓たる手のひらのか匱さに、䜕か心が救われたような気がした。
    頭でふず自分に嚘がいたらこんな感芚だったのかずも考えた。そんな倢は自分にはおこがたしいず思い盎し本殿に足を進める。
    本殿には本坪鈎の䞋に賜銭箱が眮いおあり、賜銭箱に5円玉を入れ本坪鈎を鳎らすず2瀌2拍手1瀌で参拝を行う。黒巻は暪目でそれを黙っお眺めおいた。
    その目は父を慕うような暖かな目だった。
    参拝した埌の島野ず目が合うず黒巻は少し戞惑う玠振りをした。島野は朗らかな衚情をしながら本殿を埌にし、埡守りなどが眮いおある売店に足を向けた。
    その売店には瞁結び、健康祈願、亀通安党、など様々な埡守りが眮いおあり、島野は瞁結びを賌入する。
    するず売店の巫女から想い人ですか、ず質問される。島野ず黒巻は同時に違いたすず返事をした。もちろん売店の巫女さんには黒巻が芋えおいないため、島野1人だけ慌ただしく返答した圢になった。その島野を芋た売店の巫女は少しおかしそうに埮笑しながら島野に話しかけた。
    売店の巫女:冗談ですよ。他に賌入されたすか。
    そう尋ねられた島野は劻の景子ず参拝した時に賌入した健康祈願を摘むが、そっず眮いた。
    売店の巫女:賌入されないんですか。
    島野:いいんです。もう必芁ないので。
    売店の巫女:お若いのに気にされおたんですね。
    島野は少し躊躇いながらもたぁそれなりにはず返答しその堎を立ち去った。
    車を停めた駐車堎たでの道を歩いおいるず、盞倉わらず屋台が軒䞊み䞊んでいる。
    本殿に向かう時よりもその道は空いおいお、島野ず黒巻は暪に䞊んで歩いおた。その暪顔はどう芋おも屋台の料理を食べたそうにしおいる。
    そのため島野は手に持おるだけ、買っおあげるこずにした。黒巻に買おうか、ず尋ねるず黒巻は现い人差し指を䌞ばし次々に指瀺を出す。じゃがバタヌ、唐揚げ、たこ焌き、最埌にケバブ、手にいっぱいの食事を持ちながら車ぞず歩く。
    島野は黒巻から持ち切れるはずもないのに、買っおずせがたれるが断り、車に入った。
    島野:君ねぇ無茶蚀わないでくれよ。そんなには持おない。
    黒巻は眉毛を眉間に寄せた䞍服そうな衚情をした。
    黒巻:だっお食べたかったんだもの。
    島野はその衚情を芋るず自分が想像しおいたより、黒巻がこの初詣を楜しんでいたこずに驚き、顔には出さないが倧倉嬉しく思っおいた。
    島野:食べないのかい。
    黒巻:こんな堎所だけどいいの。
    島野:人気のない堎所だ、食べおも誰も芋おないよ。
    そう蚀われるず黒巻はじゃがバタヌを熱そうにホクホクしながら小さい口を倧きく開けお照れ臭そうに頬匵る。
    島野はタバコを吞うために、倖ぞ出た。
    そういえば景子も屋台が奜きだった。じゃがバタヌを頬匵る姿は普段の景子からは想像が぀かないほどに小さな口を倧きく開けお頬匵っおいたね。そういったずころもなんだか䌌おいるんだよ。この小嚘はね。
    それをよそに黒巻は倢䞭になっお食べおいる。島野も黒巻を芋おいるず自分も食べたくなり、手を぀けおない唐揚げを個食べるずそれは意倖に矎味しく、䞭から脂が染み出おきた。
    島野:この唐揚げも矎味しいよ。
    黒巻はい぀の間にか、じゃがバタヌを食べ終えおいるのか次の唐揚げに突入した。唐揚げを食べながらたこ焌きに手を䌞ばす。島野はそれを眺めおいるばかりであった。
    黒巻:お腹いっぱい。
    そういった頃にはじゃがバタヌ、唐揚げ、たこ焌きは食べ尜くされおいた。残りはケバブであるが黒巻は食べられないため島野が口を぀けた。
    黒巻:ちょっずちょうだい。
    島野はただ食べるのかず思いながら、自分が口を぀けおない方を枡す。その小さな口で食べるず黒巻は満足そうにケバブを島野に返した。
    島野:もういいのかい。
    黒巻が無蚀のたた静かに頷くず、島野はその気持ちを察したのか、黒巻にケバブを譲り、車の゚ンゞンをかけお自宅ぞ出発した。
    垰る途䞭の道では気持ち良さそうに巊の窓に頭を預けながら黒巻は眠っおいた。その姿を芋た島野は車の速床を緩めおゆっくりず自宅ぞ向かう。
    自宅の車庫に停めるずただ黒巻が寝おいるこずに気づき、起こそうかず思った。島野はその寝顔に景子の面圱を芋おいた。運転垭のドアを開けお自宅に向かう頃には黒巻は消えおいお、心のどこかで安堵するず家の䞭ぞ入った。
    島野は屋台のゎミを捚お、手に瞁結びの埡守りを持ち、仏壇ぞ向かう。仏壇の前に着くず島野は正座をした埌、その埡守りを仏壇に眮き、線銙を焚くず鈎を鳎らした。
    今日は小嚘ず初詣に行ったよ。䞭々楜しかった。景子ず参拝した時は健康祈願を買っおいたけど今回は買わなかった。䜕せもう歳だ、健康に気を䜿っおもどこかしらダメになる。なんだか䟘しい気持ちだよ。あず幎寄りの䞖迷蚀だず思っお聞いおくれ。メヌルを出しおたのは君なんだろ。
    するず蝋燭の火が突然、消える。
    それを芋た島野はゆっくりず立ち䞊がり、垰宅埌のルヌティンを枈たせ、新聞ずテレビを芋ながら残りの日を過ごした。

     
     
    幎霢:30代 男性 穏やかな䜜品、静かな䜜品、ホラヌ䜜品をお届けしたす。 短線・連䜜・゚ッセむなど幅広く曞いおいたす。 よかったらお読みください。 奜きな䜜家:芥川韍之介、倪宰治、山川方倫

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