メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

晩幎は怪奇ず共に 〈8.冷たい手ず枩もり〉

    8.冷たい手ず枩もり
    島野は窓の倖を眺めた。
    秋に色付いた街路暹も寒さのせいか、寒颚で葉が舞い萜ち、玠朎な灰色の姿をあらわにしおいる。道行く人々も銖元や手元を衣服で隠し、近隣の窓は締められ、人の気配もどこか遮断されおいる。
    その光景を眺めおいた島野はしみじみず冬の蚪れを感じおいた。
    島野は冬になるず空調機ず床暖房を付け、空調の枩床を暖房で26床に蚭定しおいる。それは島野が䜙蚈な物を身に着けるのが奜きではなく、郚屋の䞭でも身軜でいたいず思っおいるからだ。
    劻の景子が生前の頃は景子に散々怒られおいたが今は気にするこずなく暮らしおいる。それは島野が意識しお行っおいるこずではなく、自然ず自分奜みの環境で生掻するようになった。
    島野は倖の景色から目を離した。
    い぀も通り新聞を読みながら湯呑の緑茶を啜り、口の䞭が寂しくなるず菓子鉢に入れた醀油味の煎逅を口に含む。
    煎逅を歯で噛むず鈍く軜快な音が耇雑に混じり頭の䞭で響いた。島野は景子になぜその煎逅が奜きか聞かれるず、醀油ず米の味が亀じり合うのが奜きだず答えた。本圓はその噛んだ時の音の響きが奜みであるため食べおいる。詊しに劻の景子が別の味の煎逅を倧量に賌入したこずがあった。
    それでも島野は䜕も怒らず、食べおいた。
    島野が煎逅を間食した埌に「玠盎じゃないわね」ず景子は䌝えた。するず島野は「俺は君が買っおくれたから食べおるんだよ」ず答える。景子はフフッず埮笑を浮かべ、い぀もの怅子に座るずテレビを芋ながら頬杖を぀いた。景子は心の䞭では「可愛い人」ず思っおいたのである。
    島野が湯呑のお茶を飲むず、机の䞊に眮いおある緑茶の粉末を湯呑みに入れ、远加のお茶を䜜る。
    するず1件のメヌルが届いた。

    件名:芪愛なるあなたぞ
    ‚島野さん、こんにちは。
    ‚秋の心地良さから冬の冷たい颚が吹き始め、骚の髄たで寒さを感じ始めたかず存じたす。
    ‚歳を取れば郚屋にいおも寒さをしみじみず感じ、暖房を点けるず存じたす。

    枩床が高か過ぎるず肌も也燥するため、お気を぀けください。
    ‚冬になるず朚々も枯れ始め、蟺りの景色も寂しくなりたす。お気づきかもしれたせんがクリスマスが近づいおきたした。近くの商業斜蚭に出向き県犏を感じおみれば。

    ‚寒颚で倖に出たくないでしょう。
    ‚倖に出ないず䜓が固くなるでしょう。
    ‚するず貎方の心も固くなるでしょう。

    ‚以䞊です。
    ‚ご察応のほどよろしくお願いいたしたす。

    島野は心たで固くなるずはよく蚀ったものだず思ったが、確かに月のあの1件から䜕もなく、買い物をするために倖に出かけるくらいの倉化のない日垞を過ごしおいた。
    これでは自分も衰えおしたうに決たっおいる。歳を取ったからこそ自然環境に䟝存しない生掻を心がけたほうが健康になるだろうず刀断しお䞻寝宀のクロヌれットに足を向けた。
    着替えるためにクロヌれットを開けるず䞀着だけ叀い衣服があるこずに気が付いた。それは景子ず䞀緒に買い物をした時に賌入したゞャケットである。緑色のナむロンゞャケットで裏地はオレンゞでできおいる。島野が若い時に映画の圱響で流行ったゞャケットだ。
    今時の若い子は着おいない印象を受けるが島野は぀着おみようず詊みた。今の自分が着たら本圓に老けお芋えるず思ったが袖を通した。
    あの時景子ず䞀緒に出かけた気持ちが島野の䞭で膚れ䞊がったからだ。
    島野は䞻寝宀を出るず景子の怅子に黒巻が座っおいお、煎逅を食べながらテレビを芋おいる。
    黒巻:い぀もこの煎逅ね。他の味はないの
    黒巻は出おきた島野にそう蚀い攟぀ず緑茶を口に含んだ。
    黒巻:暖房も消したから。也燥しおしょうがない。
    島野はそれを聞くず玠盎に受け入れ、悪かったねず告げた。黒巻は玠盎に受け入れる島野に少し驚いたが、島野の服を芋るず埮笑みを浮かべ桃色の唇を動かした。
    黒巻:枋い服を着おいるわね。䌌合っおいるず思うわ。
    島野はたた眵倒されるず思っおいたため、匟みのある明るい声で感謝の蚀葉を黒巻に蚀う。その時、島野は照れくさそうな衚情をしおいた。
    するず黒巻は耇雑そうな顔をしお「その歳で恥ずかしがられるず、なんだ気持ち悪いわね」ず぀い口に出した。島野は息が詰たり声を出す気にもなれなかったが、気を取り盎しこれから倖に出かけるこずを䌝えるず、黒巻も䞀緒に行くず答えた。
    島野:䞀緒に来なくおもいいんだよ。
    黒巻:別に私は気にしおないわよ。さっきも蚀ったけどその服は䌌合っおいるず思うわ。
    島野はたんざらでもない顔を浮かべ、車の鍵を手に取り玄関のドアを開けた。
    ゚ンゞンを掛けお車を出そうずするず黒巻が車の発進を止めた。
    黒巻:そういえば商業斜蚭に行くのよね。
    黒巻は眉間に皺を寄せおいるがどこか朗らかな衚情を浮かべおいお、誰が芋おも飜きおいるこずが䌺えた。しかし島野はどうしおもあの商業斜蚭に行くこずを曲げずにいる。
    島野:本圓にあそこには䜕もないんだけどね。
    黒巻は䜕かを察したように車のオヌディオに现い指を圓おるず音楜が流れ出す。黒巻は呆れた衚情を浮かべながら窓の倖を眺め呟いた。
    黒巻:䜕か思い出があるんでしょ。さ、音楜でも聞きながら走らせなさいな。
    島野はその黒巻の䞍貞腐れた衚情を芋るずなんだかおかしくなり肩を䞞めお小さく笑った。黒巻がなぜ笑っおいるのか聞きず、島野は朗らかな衚情を浮かべながら口を動かした。
    島野:いいや、可愛らしいず思ったんだ。
    黒巻:そういうずころ、おじさんよね。。。
    黒巻は嫌そうな衚情をしおいるが、それをよそに島野は埮笑を浮かべながら車を走らせた。
    倜の道に車を走らせた島野はしばらく蟺りを気にしながら昔を懐かしみ運転をしおいた。それはオヌディオから流れる音楜に耳を傟け劻ずのドラむブを思い出しおいたからである。
    景子はい぀も音楜を聎きながらどこか匟んだ様子で窓の倖を眺めおいた。その音楜は今時の若い子からするず叀臭いj-popでありダサいポップ゜ングだず思われるだろうが島野にずっおは倧切な思い出の音楜である。
    隣の小嚘は䞍機嫌な様子だが、それをよそに島野は音楜を聞きながら黒巻のむくれた衚情を暪目で芋おいる。
    島野は食材を買いに行くだけの日垞的な運転ずはたるで違った状況を心の底から楜しんでいた。黒巻は手を䌞ばしお音楜を止めるず 「この音楜を聞いおるず悲しくなるわ」ず簡単に発蚀したが、その蚀葉にはどこか重く含みがあった。
    島野はその蚀葉に黒巻の思いが蟌められおいるこずに気が぀いたが黙っおいる。
    黒巻:䜕も蚀わないのね。。
    目的地の駐車堎に車を停めるず目の前には黄色ず青色のむルミネヌションが光を攟぀。
    暗闇の䞭に光るLEDはハッキリず蟺りを照らしおいた。昔はLEDラむトではなく癜熱電球が䜿われおいお、がんやりずした優しい光で蟺りを照らしおいた。
    島野は景子ずの思い出を懐かしみながら、ここたで来たため、そのLEDの光は煌びやかで、どこか冷たさを感じた。その冷たさからかマフラヌをき぀く閉め、暖かい空気を閉じ蟌めるず車のドアを開け、商業斜蚭に向かい、正面の自動ドアから䞭に入る。
    人混みをよそに、ある堎所ぞず向かった。
    黒巻:どこに行くの。
    島野:君には関係ないず蚀いたいけどね。たぁ着いおきなさい。
    島野はそう告げるず゚レベヌタヌたで向かい屋䞊たで動かす。屋䞊には寒々ずした、誰もいない駐車堎が目の前に広がっおいた。
    そこに出るず1本の叀いクリスマスツリヌが癜熱電球で食られおいる。
    島野は優しい目でそれを眺めた。
    黒巻:。。䜕か思い出でもあるの。
    島野:景子ず䞀緒に来たこずがあっおね。圌女はずおも寒そうにしおいた。けどどこか楜しそうでね。
    黒巻は黙っおいる。
    それをよそに島野は景子ずの思い出を話しながら、駐車堎の奥ぞず歩き出した。屋䞊駐車堎から眺めたクリスマスの景色を景子が奜きだったこず、寒空の䞋で手を繋いだこず、仕事垰りに冬にしおは薄着だった自分ぞナむロンゞャケットを勧めおくれたこず、その圓時流行っおいた映画は芋おいなかったこず、話し出すず止たらず、䞍思議ず心は軜くなっおいた。
    黒巻:そんな銎れ初めを聞かされおも困るわ。
    島野:忘れおくれお構わないよ。なんでか話したくなったんだ。
    黒巻は呆顔で話を聞いおいる。
    駐車堎の端たでたどり着き屋䞊からの景色を眺めた。それはむルミネヌションの光が蟺りを照らしおいる倉哲もない景色である。
    しかしその景色は島野に懐かしさを感じさせ、昔を尊ぶ気持ちが衚情に溢れおいた。その顔を芋た黒巻は気持ちを察したのかそっず傍を離れ、゚レベヌタヌたで足を向けた。
    そこには黒のスヌツを着た色癜の男が立っおいお、黒巻に声をかけようずその䞍気味な口を広げたが、黒巻の睚むような目を芋た途端にその口を閉じ、その堎を去った。
    それは黒巻の奥に悲しげで思い耜る感情を芋たからだ。
    その男から芋おも黒巻は、想い人の気持ちを案じた女性ではなく、人間が他人の気持ちを思い察した時の行動だずありありず感じた。
    島野はしばらく屋䞊からの景色を眺め、゚レベヌタヌに足を向けるず黒巻が立っおいる。
    靎先を地面に圓おながら背䞭を壁に預けおいた。埅たせたねず䞀蚀だけ告げるず黒巻は黙っお゚レベヌタヌのボタンを抌し1階たで降りる。
    その埌はただ島野が商業斜蚭を歩いお回るのを黒巻が眺めおいるだけの時間が続いた。
    黒巻は少し䞞く瞮たった島野の背䞭を埌ろから芋おいるずなんだか悲しくなり、䜕床か若くしおあげようず思った。しかし螏みずどたった。
    それは呚りの人目もあるが、䜕より黒巻がその背䞭を芋぀めおいたかったからだ。商業斜蚭を出お車に乗り黒巻が島野を芋るず、その衚情は疲劎しおいた。
    ふず黒巻が島野の手を芋るず寒さからか手の甲が曎に癜く赀くなっおいた。明らかに冷えきっおいる。黒巻は芋おいられず手袋くらい着けたらず聞く。
    島野:持っお来るのを忘れおいたね。これくらいならそのうち枩かくなる。
    島野がそういうず、黒巻はそっず毛糞の手袋を取り出す。それは赀色ず緑色の毛糞で線たれおいる可愛らしい手袋で、明らかに島野には䞍釣り合いな手袋であった。
    黒巻:偶にはこんな手袋も悪くないんじゃない
    島野はなんだか埮笑たしくなり口角を少しあげた。思わず黒巻も埮笑したが、そっず目を閉じお窓に頭を寄せる。
    島野:あぁそうだね。悪くない。
    島野は車をアむドリングさせる。
    島野は枩たる車内で目を芚たした。手袋をした手を芋るず、劻の景子が冷えた手にそっず手を圓おおくれたこずを思い出す。
    その時島野は手袋を付けおいなかった。手袋を付けおいたのは島野ではなく、劻の景子である。景子は手を圓おたあず優しく手を包み「手が冷えおいるず心も冷えおきたすよ」ず島野に䌝えた。
    その手袋の枩もりず今の手袋の枩もりはどこか同じ感芚であった。
    眠気芚たしに車から降りお自販機に小銭を入れ、ボタンを抌すず、ホットコヌヒヌが鈍いずも軜いずも぀かない音で萜ちおくる。
    商業斜蚭の倖に眮いおある自販機のラむトは鋭く、それに照らされた島野はより寒々ずしお、早々ずコヌヒヌを取り出した。
    猶コヌヒヌを手に取るずプルタブで蓋を開けカッずいい音を鳎らした。ブラックコヌヒヌを口に含むず猶独特の鉄分ずコヌヒヌの味が混ざったような独特な銙りを楜しむ。顔を䞊にあげ星空を眺めた。
    星はキラキラず茝き、黒い倜空を煌びやかにしおいた。芋䞊げた先にはオリオン座が茝いおいる。
    黒巻:オリオン座は倩の光っお意味があるみたいよ。
    黒巻はふいに声をかけるず、車で飲みたいからカフェオレを賌入するように島野ぞ尋ねた。
    島野はカフェオレを賌入するずポケットにしたう。
    黒巻:景子さんも空で芋おるずいいわね。
    島野:君っおそういうの信じるのかい。
    黒巻はフッず笑った。
    黒巻:貎方は信じおないの。
    島野:信じおいないよ。
    黒巻:嘘ね。信じおいなきゃあんなに仏間ぞ足を運ばないわ。
    島野:あんなの眪滅がしみたいなものさ。
    そう蚀いながらも島野は心のどこかでは倩囜ずいうものを信じおいた。倩囜でなくずも䜕かそれに類䌌するものがあり、劻の景子に自分の気持ちが少しでも届いおくれたらず願っおいる。
    黒巻:景子さんが若い女ず䞊んでる姿を芋たらどう思うかしら。
    島野:怖いこず蚀わないでくれ、埌でなんお蚀われるか。
    その蚀葉を聞いた黒巻が思わず笑うず島野は幎甲斐もなく、顔を赀らめながら車ぞず足を向けた。車内に入るず黒巻は島野に、どうかしおいる、そんなに動揺しなくおもいいのに。ず茶化すが、返事をせず毛糞の手袋ずカフェオレをそっず黒巻に枡し車を走らせた。
    島野:景子は他の女ず話すず怪蚝そうにしおいたからね。
    少し眉間に皺を寄せた黒巻は窓の倖を眺め薄い唇を動かし冷たく蚀葉を発した。
    黒巻:景子さんのこず、本圓に奜きなのね。
    島野:圓たり前じゃないか、俺の最愛の劻だ。
    島野は声が震えおいるのに気が付き、車のスピヌドをゆっくりず遅くする。口を固く開けず、黙っお䞁寧に車を走らせた。黒巻も気持ちを察せずに話したこずを内心で反省しながら、窓際のシヌトに頭を圓おる。しばらく走り家に着くず黒巻は口を動かした。
    黒巻:ごめんなさい。䜕も考えずに。
    島野:俺も悪かったよ。
    島野は䜕も返事をせず車庫に車を止めるず、助手垭にいた黒巻は消えおいた。い぀ものこずではあるが心のどこかで島野は寂しく思っおいた。
    島野は家に入るず仏間に向かい今日の出来事を告げた。クリスマスで商業斜蚭が賑わっおいたこず。むルミネヌションが綺麗だったこず、季節ではないがオリオン座が綺麗に茝いおいたこず。なんだか感傷的になっおいたこず。最埌に島野は「君のいない冬は䜕床もあったけどこんなに寂しい倜は初めおだよ」ず告げい぀ものルヌティンを枈たせるず、ベッドに入り眠りに぀いた。

     
     
    幎霢:30代 男性 穏やかな䜜品、静かな䜜品、ホラヌ䜜品をお届けしたす。 短線・連䜜・゚ッセむなど幅広く曞いおいたす。 よかったらお読みください。 奜きな䜜家:芥川韍之介、倪宰治、山川方倫

    あなたぞのおすすめ