
お願い、迎えに来てね #037 (7-4) 終わらせるための儀式
第1部 諦念編|第7章
Hello, again.
駅舎を彩る イルミネーション
きみは まるで孤高な月のよう
強く 儚く 美しく
深紅の蕾が 微かに揺れている
一歩ずつ 近づいてくる鼓動
敗北に 奇跡を隠して
紡利線の 冷たい風が
ぼくの覚悟に 吹き付ける
ベルベットの黒いリボンを
いま ぎゅっと結ぶ
どうやって、今日の約束を取り付けたのだろう?
確かに、夕べ電話したことは覚えている。だけど、そのときどんな会話をしたのか、緊張してたのか、貴樹くんの声のトーンはどんな感じだったのか、電話をすぐ切ったのか、まるで思い出せない。
よくよく考えると、なぜ、今日貴樹くんが逢ってくれるのか、貴樹くんの気持ちは皆目検討がつかない。
自分にベタ惚れの女の子。
誕生日前日の電話。
渡したいものがある。
これ、どう考えても誕生日プレゼントだよ。プレゼントを受け取ってもらえたら、その女の子は嬉しくなっちゃうよ。
俺のことは諦めてほしいと思っているのなら、電話の段階で断っちゃえばいいのに。ちゃんと逢って、直接話して、もう追いかけてこないように、納得できるような説明をしてくれるの?
貴樹くんは月桜をふる義務がある。
月桜は貴樹くんにふられる権利がある。
貴樹くんには義務があるはずなのに。
もう忘れちゃったの?
なかったことにしたいの?
それとも……決行してくれるの?
どうして逢ってくれるの?
今日は、貴樹くんは学校が早く終わるらしく、わたしが瀬波野駅に着く時間に合わせて、貴樹くんが駅まで来てくれることになっていた。
向陽駅のロータリーは、木々に巻き付けられたゴールドのイルミネーションが、恋人たちを祝福するように眩しく彩っていた。階段を登り、改札口を抜けて、わたしが向かう紡利線のホームは、その喧騒から遠く離れた、駅のいちばん端っこにある。
ゆっくりと列車が走り出すと、遠くに見えていた街の灯りは、光の帯となって後ろへ流れていく。車窓の藍色が深くなり、窓ガラスには、鏡のように「わたし」が映し出される。
……リボン、曲がってないかな。
髪に結んだリボンの端を、指先でそっと確かめる。
……変じゃないかな。
何度も直したはずなのに、窓に映る自分の影は、どこか心細そうに揺れている。
ガタン、ゴトン。レールの継ぎ目を刻む一定のリズムが、いつのまにか、わたしの早鐘を打つ心臓の音と重なっていた。
わたし、貴樹くんに、ちゃんと言えるかな。
プシュー、という気の抜けた音のあと、隣に立っていた誰かが重いドアを横に引いた。ガラガラと乾いた音を立てて開いた隙間から、十二月の鋭い冷気が一気に車内へなだれ込んでくる。瀬波野駅のホームに降り立って、わたしは、自分の肩を抱くように、コートの襟元を強く引き寄せた。
「絶対に泣かない」
そう言い聞かせて、改札へ向かった。もうすぐ待ち合わせの時間を迎えようとしている。
いつもは、こんな短いスカートなんて履かないのに。慣れない膝上を選んだのも、裾が揺れるフレアーを選んだのも、女の子だって気づいてほしいから。
いつもより少しだけ紅いリップを選んだのも、深紅のニットを選んだのも、女の子だって気づいてほしいから。
内巻きのセミロングに、黒いベルベットのリボンをつけているのも、女の子だって気づいてほしいから。
今日で終わらせるはずの恋なのに……
終わりを選んだはずなのに、始まりみたいに心がざわつく。
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