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お願い、迎えに来てね #014 (2-2) 待ち伏せと、赤い自転車

    第1部 諦念編|第2章


    Hello, again.

    偶然なのか 必然なのか

    ぼくは 気づかないふりで 通り過ぎる
    きみの 必死な鼓動 置き去りにして

    赤い色が 離れていく
    赤い色で つながっていく

    きみの 残酷で ひたむきな はじまり


    こんなことで連絡したら、紗良さらちゃんにウザイと思われそうで、ずっと我慢していた。親友の紗良ちゃんにさえ、勇気をふり絞らなきゃ電話ひとつできない。

    紗良ちゃんは、貴樹たかきくんと同じ向陽こうよう市まで電車通学をしている。将来は食の道へ進みたいと、遠くても食物調理科のある高校を選んだからだ。紗良ちゃんなら、貴樹くんの様子を知っているかもしれない。

    瀬波野せなみの駅で電車が到着するのを待っている。5時14分着。後2分か。秒針がカチカチと時を刻む速度を、とうとう胸の鼓動が追い越した。もう心臓が破裂しそうだ。

    「もし貴樹くんが乗ってたら、猛ダッシュで改札抜けてくるから」

    そう約束した紗良ちゃんを信じていないわけじゃないけど、もし貴樹くんがいたら……

    ガタンガタン……電車がホームに入線する音が聞こえてきた。はぁ。緊張する。

    プルルル……発車ベル。いよいよだ。電車を降りた人の波が改札から流れてくる。待合室のベンチに後ろ向きで座ったまま、人の流れを気配で感じている。

    「月桜るな!」

    この辺りでは見慣れない制服姿の紗良ちゃんが笑っている。

    「残念! 貴樹くん、いなかったよ」

    ほっとした。逢いたかった。どっちなんだろう。とりあえず、ほっとした。

    隣接する駐輪場まで歩くと、紗良ちゃんが二階に案内してくれた。屋根付きの二階建ての駐輪場は、ざっとみて500台は停められそうな広さだ。

    「この辺だと思うんだよね。あった? 色、赤だっけ? きっと学校のステッカーとか貼ってあるよね?」

    紗良ちゃんによると、貴樹くんがこの辺に自転車を停めているのを見たことがあるとのこと。

    「あった! 見つけた! これだ!」

    「まだ帰ってきてないみたいね。どうする? 次の電車待ってたら逢えるんじゃない?」

    駅チカの古びた喫茶店で待機することにした。ここなら駅から駐輪場に歩く人が見える。

    紗良ちゃんの話では、学校から急いで駅に向かっても、これより一本前の電車には間に合わないそうだ。貴樹くんの学校も、その時間の電車には乗れないと思うと。

    今の5時14分か、次の5時57分。遅くて6時26分。三本のどれかで帰ってくる可能性大。朝は紗良ちゃんと同じ7時5分だって。

    「そんなに貴樹くんが好きなの?」

    「うん」

    「ふーん。月桜の気持ち。ぜんぜんわかんない。そんなに貴樹くんのどこがいいの?」

    どこがいいの?って……責められてるみたいで傷つく。泣きそう。

    「そんなに好きなら、貴樹くんに手紙、渡してあげようか?」

    ガタンガタン……プルルル……

    5時57分の電車が瀬波野駅を出発した。駅から出てくる人の群れに貴樹くんの姿は見つからなかった。

    「毎日、駅でストーカーしてれば貴樹くんに逢えるんじゃない? 手紙の件は、月桜が決心できたらいつでも連絡して」


    市立図書館の自習室で宿題を広げるも、ちっとも身が入らない。もうすぐ5時かぁ……何日こうやって、ウジウジ時計とにらめっこしているのだろう。

    ここから瀬波野駅までは一本道だ。
    今ならまだ間に合う。
    勇気出さなきゃ!
    慌てて教科書をカバンに放り込んで、自転車を走らせた。

    駅の東側に並ぶ電話ボックスの陰に身を潜めた。駐輪場は西側だから、こっちに来ることはないはず。

    プルルル……

    電車の発車ベルが鳴り響いている。もうすぐだ。もうすぐ改札から人の群れが流れてくる。この時間に降りてくるのは学生ばかりで、学ランはみんな同じように見える。この人も違う。あの人も違う……

    見覚えのある横顔が通り過ぎた。あの後ろ姿は、あの歩き方は、間違いなく貴樹くんだ。

    ここからじゃ駐輪場は遠くてよく見えない。少しだけ近づいてみる。

    駐輪場の二階から赤い自転車が降りてくる。貴樹くんだ!

    「貴樹くーん」

    大声で呼び止めたかった。
    駆け寄って話しかけたかった。
    でもできなかった。

    だって、これじゃわたしストーカーだ。射手座のB型だもの。待ち伏せしてたなんて貴樹くんに知られたら、きっと貴樹くんは怒るよ。もう口聞いてくれないかもしれない。貴樹くんに嫌われたくない。

    用事がなくても、貴樹くんに電話する権利がほしい。
    用事がなくても、貴樹くんと逢う約束ができる権利がほしい。
    逢いたいって言える権利がほしい。
    逢いたいって言っても許してもらえる女の子になりたい。

    待ち伏せなんてしたくないよ。
    もう我慢するのは嫌だよ。
    だって、貴樹くんがいない世界は、わたしにはもう……

    紗良ちゃんの言葉を思い出していた。

    「そんなに好きなら、貴樹くんに手紙渡してあげようか?」

    暗闇の中でたった一本だけ垂らされた「糸」を離さないために、紗良ちゃんに手紙を託した。

     “中学の頃からずっと、貴樹くんのことが好きです”


    「嫌われたくない」「逢いたい」どっちなんだろう。


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    なぜ、また出逢ってしまうの? 友だちでもなく、恋人でもない。手も握ったことさえないのに、離れても離れても、再びめぐり逢う……。 自分の感覚だけを信じて、見えない愛を徹底的に試された40年の軌跡。事実という骨組みに祈りを込めたオートフィクション。まずは固定記事からどうぞ。

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