
坐骨神経痛って、結局なに?実は「坐骨神経が悪い」とは限りません
こんばんは。整形外科医 Nです。
noteを始めてからほぼ毎日更新していますが、義務感とかではなく、単純に楽しいからです。
自分の知識の整理になりますし、書いていてあれ?これどうだっけ?みたいなのを調べて新しい知見を得られたりします。
読んでくださっている方にも最新の情報をお伝えできるのでwin-winですね。
さて、今日は誰しもが聞いたことがある坐骨神経痛についてです。
坐骨神経痛って、結局なに?
実は「坐骨神経が悪い」とは限りません
「お尻から脚にかけて痛い」
「太ももの裏がビリビリする」
「坐骨神経痛ですね、と言われたけど……結局なに?」
整形外科の外来でも、本当によく聞く症状です。
最初に結論から。
坐骨神経痛は、ひとつの病気の名前ではありません。
お尻から脚にかけて出る痛みやしびれをまとめて呼んでいる、いわば「症状の名前」です。
(上の書き方、今日覚えたので早速使ってみました。見やすいですかね?)
なので、
「坐骨神経痛だから、この治療をすれば治る」
とは言えません。
大事なのは、
「なぜ坐骨神経痛のような症状が出ているのか?」
を考えることです。
そもそも「坐骨神経」って?
坐骨神経は、腰から出てきた神経が集まり、お尻から太ももの後ろを通って、足の方へ向かう非常に太い神経です。
そのため、腰の神経に問題が起こると、
お尻
太ももの後ろ〜外側
ふくらはぎ
足の甲や裏
足の指
などに痛みやしびれが出ることがあります。
これを日常診療では広く「坐骨神経痛」と呼ぶことがあります。
ただし、ここで一つ重要なポイントがあります。
痛い場所が坐骨神経の通り道だからといって、坐骨神経そのものが傷んでいるとは限りません。
むしろ整形外科では、
腰から出る神経の根元(神経根)が刺激されている
ケースをよく診ます。
坐骨神経痛を起こす代表的な原因
若い人〜中年で多いのが、
腰椎椎間板ヘルニア
です。
背骨と背骨の間にある「椎間板」というクッションが飛び出して、その近くの神経を刺激します。
ヘルニアについては以下でまとめています。
一方、高齢になると多くなるのが、
腰部脊柱管狭窄症
です。
加齢などにより神経の通り道が狭くなり、歩いていると脚が痛くなったり、しびれたりします。
ほかにも、
腰椎すべり症
腫瘍
感染
骨折
腰以外での神経障害
などでも似た症状が出ることがあります。
つまり、
「坐骨神経痛ですね」は診断のゴールではなく、むしろ原因を考えるスタート地点
というイメージです。
もちろん、坐骨神経が直接障害されることもあります。
例えば「梨状筋症候群」などです。
これはまた疾患説明の記事などでお話させていただくかもしれませんので、お待ちください。
忘れていたらコメントなどで指摘してください。
きっとすぐ書きますので。笑
ここからが少し面白い話です
「ヘルニアが飛び出している=ずっと神経を圧迫する」は違う
MRIを見て、
「こんなにヘルニアが出てる……」
と不安になる方は少なくありません。
たしかに神経を強く圧迫していれば、かなり痛いことがあります。
でも、
飛び出したヘルニアは、そのまま一生残るとは限りません。
むしろ体の中で少しずつ吸収され、小さくなることがあります。
2023年に報告された31研究・2233人のメタ解析では、保存治療を行った腰椎椎間板ヘルニアの約70%で自然吸収が確認されました。
70%ってすごいですよね。
さらに興味深いのが、その「形」です。
膨らんでいる程度のタイプ:約13%
突出したタイプ:約38%
さらに飛び出したタイプ:約67%
椎間板の一部が完全に離れたタイプ:約88%
という結果でした。
「より外に飛び出したヘルニアほど、逆に吸収されやすい」
という、一見すると直感と反対の現象が起こります。
これは、飛び出した椎間板組織が体から「異物」のように認識され、炎症反応や免疫細胞によって処理されるためと考えられています。
もちろん、
「大きいヘルニアなら放置していい」
という意味ではありません。
筋力低下などの神経障害が強ければ、手術を検討することもあります。
しかし、
MRIでヘルニアが大きい=絶対に手術 ではない。
ここはぜひ知っておいてほしいポイントです。

「痛いなら安静」が正解とも限らない
坐骨神経痛が強いと、
「動いたらもっと神経を傷めるんじゃないか」
と思ってしまいます。
気持ちは非常によく分かります。
ただ、現在の腰痛・坐骨神経痛の診療では、
必要以上の安静を続けるより、可能な範囲で日常生活を続ける
ことが基本的に推奨されています。
NICE(英国国立医療技術評価機構)のガイドラインでも、腰痛・坐骨神経痛の患者には通常の活動を続けるよう勧めることが推奨されています。
これは腰痛とも似た考え方ですよね。
もちろん、
激痛なのに無理やり走る必要はありません。
僕が言いたいのは、
「痛い=寝て治す」ではない
ということです。
痛みに合わせながら、
歩く、立つ、家事をするなど、できる範囲の活動を少しずつ維持していく。
この考え方が大切です。
「神経痛だから神経痛の薬」は、実はそこまで単純ではない
これも少し意外かもしれません。
坐骨神経痛に対して、
プレガバリン(商品名はリリカ)などの「神経障害性疼痛に使われる薬」
が処方されることがあります。
「神経が痛いんだから効きそう」
と思いますよね。
ところが、209人を対象に行われた有名なランダム化比較試験では、
プレガバリンはプラセボと比べて、坐骨神経痛を有意に改善しませんでした。
一方で、副作用はプレガバリン群で多くみられました。
そのためNICEも現在、坐骨神経痛に対してガバペンチノイドを routine に使用することを推奨していません。
もちろん個々の患者さんで「効いた」と感じることはあります。
しかし、
「坐骨神経痛=とりあえず神経痛の薬」 ではない。
このように単純化できるほど、エビデンスは強くありません。
これも実際の診療では知っておきたいところです。
じゃあ、坐骨神経痛はどうやって治療する?
原因や重症度によって変わりますが、多くの場合はまず保存治療を行います。
具体的には、
痛みに合わせた活動の維持
鎮痛薬
運動・リハビリ
日常生活の調整
などです。
症状が非常に強い場合には、神経の周囲に局所麻酔薬やステロイドを入れる硬膜外注射や神経根ブロックなどを検討することもあります。
2025年のAmerican Academy of Neurologyのレビューでも、硬膜外ステロイド注射は腰仙部の神経根痛に対して、主に短期的な痛みや機能改善が期待できる治療という位置づけです。
つまり、
注射でヘルニアそのものを治すわけではありません。
痛みを軽減し、
「自然に改善してくるまでの期間を乗り切る」
ために使う側面があります。
手術した方が早く治る?
ここも少し複雑です。
椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛では、
手術をすると痛みが早く改善する
傾向があります。
一方、発症から6〜12週程度の患者を対象とした研究では、時間が経つと保存治療群も改善し、長期的な差は小さくなっていきました。
つまり、
手術の大きなメリットのひとつは「治るまでの時間を短くすること」
とも考えられます。
ただし、4か月以上強い坐骨神経痛が続いている患者では、手術の方が保存治療より良好だったというランダム化比較試験もあります。
なので、
「ヘルニアは全部保存」
でも、
「痛ければすぐ手術」
でもありません。
症状の強さ、期間、生活への影響、筋力低下、MRI所見などを合わせて判断します。
ただし、これは早めに受診してほしい
坐骨神経痛の多くは緊急疾患ではありません。
ただし、次のような症状がある場合は別です。
急に脚の力が入りにくくなった
足首や足の指が上がらない
筋力低下がどんどん悪化している
両脚に強い症状がある
股の周囲の感覚がおかしい
尿が出にくい、尿や便を漏らすようになった
特に、
排尿障害+股周囲の感覚障害+両脚症状
などがある場合には、馬尾症候群という緊急性の高い状態の可能性があります。
この場合は、様子を見ず医療機関を受診してください。
整形外科医として「痛みの強さ」以上に気にするもの
坐骨神経痛で受診された患者さんを診るとき、
「どれくらい痛いですか?」
もちろんこれも大事です。
でも、それ以上に重要なのが、
神経の機能が落ちていないか
です。
例えば、
「かかと立ちができるか」
「つま先立ちができるか」
「足首や足の指に力が入るか」
「感覚が左右で違わないか」
「反射に左右差がないか」
などを確認します。
痛みが10点満点で10でも、神経機能が保たれているケースがあります。
逆に、
「痛みは少しマシになりました」
と言っていても、筋力低下が進んでいるケースもあります。
だから、
痛みが減った=必ず順調 とは限らない。
これも整形外科で診察を受ける意味のひとつだと思います。
まとめ
坐骨神経痛について、ぜひ覚えてほしいのはこの5つです。
① 坐骨神経痛は「病名」ではなく症状の呼び名
② 原因として多いものに、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などがある
③ ヘルニアは自然に小さくなることがあり、むしろ外に飛び出したタイプほど吸収されやすい
④ 痛いからといって、長期間安静にするのが正解とは限らない
⑤ 痛みだけでなく、筋力低下や排尿障害がないかが非常に重要
「坐骨神経痛だから一生付き合わないといけない」
「ヘルニアが出ているから手術しかない」
そんなことはありません。
原因と重症度をきちんと評価し、時間を味方につけながら治療できるケースも非常に多い病態です。
もう少し知りたい人へ
ここから少し専門的な話です。
実は医学的には「坐骨神経痛」という言葉自体がやや曖昧です。
神経根が刺激されて脚に放散する**radicular pain(神経根性疼痛)**と、
筋力低下・感覚障害・腱反射低下など、神経機能そのものの障害を伴うradiculopathy(神経根症)
は厳密には同じではありません。
さらに、お尻や脚が痛くても、神経根とは無関係な関連痛のこともあります。
つまり、
「脚が痛い=全部坐骨神経痛」ではない
ということです。
そして椎間板ヘルニアによる痛みも、単純な「物理的圧迫」だけでは説明できません。
髄核組織によって起こる炎症反応やサイトカインなど、化学的な神経根炎も痛みに関与すると考えられています。
だからこそ、
MRI上の圧迫の大きさと、患者さんが感じる痛みの強さが必ずしも一致しません。
画像だけを見るのではなく、
症状・神経学的診察・画像を合わせて判断する。
これが坐骨神経痛を診るうえで非常に重要です。
参考にした主な文献・ガイドライン
・Zou T, et al. Incidence of Spontaneous Resorption of Lumbar Disc Herniation: A Meta-analysis. 2023.
・Mathieson S, et al. Trial of Pregabalin for Acute and Chronic Sciatica. N Engl J Med. 2017.
・Peul WC, et al. Surgery versus Prolonged Conservative Treatment for Sciatica. N Engl J Med. 2007.
・Bailey CS, et al. Surgery versus Conservative Care for Persistent Sciatica Lasting 4 to 12 Months. N Engl J Med. 2020.
・American Academy of Neurology. Epidural Steroids for Cervical and Lumbar Radicular Pain and Spinal Stenosis. 2025.
・NICE. Low back pain and sciatica in over 16s: assessment and management.
※本記事は一般的な医学知識・目安としての情報提供を目的としています。医師法上、診察を行わず個別の診断・治療方針を提示することはできません。症状が強い場合や長引く場合、筋力低下・排尿障害などがある場合には、医療機関での診察をおすすめします。