
この腰痛、放っておいて大丈夫? MRIを急いだ方がいい5つのサイン
こんばんは。整形外科専門医です。
私の勤務形態は若干特殊で土曜日は仕事、日曜日・月曜日が休みです。(何もなければ)
今日は慢性期の患者さんのリハビリを指導したり、理学療法士と方針を確認して指示出しを行う日でしたので、比較的ゆっくりとした時間が流れていました。
noteの内容も少し考えておいたので今日はスムーズに文章が書けました。 では早速。
この腰痛、放っておいて大丈夫? MRIを急いだ方がいい5つのサイン
腰が痛い。
しかも、なかなか良くならない。
そんなとき、
「これ、本当にただの腰痛?」
「MRIまで撮らなくて大丈夫?」
と不安になることがあると思います。
結論からいうと、
腰痛があるからといって、全員がすぐMRIを撮る必要はありません。
一方で、症状によっては早めにMRIなどの詳しい検査を考えた方がいい腰痛もあります。
整形外科医が特に気にしているのは、
①見逃してはいけない病気が隠れていそうか
②神経が強く障害されていないか
③MRIを撮ることで治療方針が変わるか
の3点です。
今回は、「自分の腰痛は大丈夫かな?」と気になっている方に向けて、MRI
を考える代表的な5つのサインを紹介します。
この後の記事を読んでいただければご理解いただけると思いますが、大体すぐに気付けるものなので、知っているだけで少し不安が和らぐのではないでしょうか。
先にまとめた画像をどうぞ。

そもそも、普通の腰痛ならすぐMRIを撮るわけではない
MRIは、椎間板(背骨の間にあるクッション)や神経、骨の中などを詳しく見ることができる非常に優れた検査です。
でも、
詳しく見える=全員撮った方がいい
ではありません。
重い病気を疑う所見がない腰痛患者1,804人をまとめた研究では、レントゲンやMRIをすぐ撮った人と、すぐには撮らなかった人を比較しても、痛みや体の動きやすさに明らかな差はありませんでした。
NICE(英国の診療ガイドライン)でも、一般的な腰痛では画像検査を routine に行わず、「画像の結果によって治療が変わる場合」に検討するという考え方が示されています。
ACR(米国放射線学会)でも、危険なサインのない急性腰痛では、MRIだけでなくレントゲンも初期検査として「通常は適切ではない」とされています。
つまり、
MRIを撮らない=ちゃんと診てもらえていない
というわけではありません。
① 尿や便がおかしい・股の周りがしびれる
これは特に重要です。
腰の神経が非常に強く圧迫されると、**馬尾症候群(ばびしょうこうぐん:腰にある神経の束が強く圧迫される状態)**を起こすことがあります。
例えば、
尿が出にくい
尿が漏れる
便を我慢できない
股やお尻の中心付近の感覚がおかしい
両脚に強いしびれや麻痺がある
といった症状です。
馬尾症候群は多くありません。
2026年のメタ解析では、腰痛で医療機関を受診した人のうち**約0.3%**でした。
ただし、見逃した場合の影響が大きい(不可逆:もう元に戻らない事 リスクが高い)ため、こうした症状があれば早急な評価が必要です。
緊急手術、なんてこともあり得ます。
皆さんご存じの腰椎椎間板ヘルニアなどで、最初は下肢の痺れ・痛みだけだったのに、気づけばこのような馬尾症状が生じていることもあります。
ヘルニアについては以下で詳しく説明しています。
② 足の力が落ちてきている
「腰が痛くて足もしびれる」
だけなら、必ずしも緊急MRIとは限りません。
椎間板ヘルニアなどではよくみられる症状だからです。
一方で、
「つま先が上がらなくなった」
「歩くと足がガクッとする」
「昨日より明らかに力が入らない」
など、筋力低下が強い、あるいは進行している場合は話が変わります。
神経がどこでどの程度圧迫されているのか、MRIで詳しく確認する必要性が高くなります。
大事なのは、
しびれがあるかだけでなく、“神経の働きが落ちていないか”
です。
③ がんや感染症を疑うサインがある
腰痛のほとんどが、がんや感染症というわけではありません。
2026年のシステマティックレビューでは、腰痛で受診した人に重い背骨の病気が見つかった割合は全体で2.9%、一般的な診療所などのプライマリケアでは**0.8%**でした。
同じ研究では、
悪性腫瘍:約0.5%
脊椎感染症:約0.7%
と報告されています。
頻度は高くありません。
ただし、
がんの治療歴がある
発熱がある
免疫が大きく低下している
安静にしていても強く痛む
症状がどんどん悪化する
などがある場合には、感染症や腫瘍なども考えて詳しい検査を検討します。
ACRでも、がん・感染症・免疫低下が疑われる腰痛ではMRIが適切な初期検査とされています。
④ 転倒した・骨粗しょう症がある
高齢者や骨粗しょう症の方では、強い事故でなくても背骨を骨折することがあります。
代表的なのが、**脊椎圧迫骨折(背骨が押しつぶされるように折れる骨折)**です。
「ちょっと尻もちをついただけ」
でも起こることがあります。
特に、
高齢
骨粗しょう症がある
転倒した
長期間ステロイド薬を使用している
といった場合は注意します。
まずレントゲンを撮ることも多いですが、初期の圧迫骨折などはレントゲンだけでは判断しにくいこともあります。
(前後屈のレントゲンで評価すると分かることもあります。)
この場合は症状や診察に応じてMRIやCTを追加します。
⑤ 治療しても改善せず、手術や処置を考える
これは「緊急」という意味ではありません。
ただ、MRIを撮る意味が大きくなるタイミングです。
例えば、
「お尻から足までずっと痛い」
という坐骨神経痛があり、薬やリハビリなどを続けても改善しない。
そして、
「次はブロック注射や手術まで考えようか」
という段階になったとします。
この場合、どこで神経が圧迫されているのかを詳しく確認する必要があります。
ACRでは、適切な治療を約6週間行っても症状が続く、または悪化していて、手術や処置を検討する場合にはMRIが適切とされています。
つまり、
MRIの結果によって次の治療が変わる
のであれば、検査をする価値が高くなります。
「すごく痛い=MRI」ではない
これは患者さんからすると少し意外かもしれません。
腰がものすごく痛くても、
発症してまだ数日
麻痺がない
転倒していない
発熱がない
がんなどの背景がない
のであれば、まず治療しながら経過を見ることも珍しくありません。
逆に、
腰痛そのものはそれほど強くなくても、
「最近つま先が上がらなくなった」
という患者さんなら、MRIを急ぎたくなることがあります。
つまり、
MRIが必要かどうかと、痛みの強さは必ずしも比例しません。
「危険なサイン」が1つあればヤバい?
ここも注意が必要です。
医療では、重大な病気が隠れている可能性を示す所見を**レッドフラッグ(危険な病気を疑うためのサイン)**と呼びます。
各項目は先の画像に記載していますのでご確認ください。
ただし、
1つ当てはまっただけで重大な病気が確定するわけではありません。
例えば年齢、夜間痛などは、それだけで病気を診断できるものではありません。
実際の外来では、
年齢、病歴、外傷の有無、神経症状、発熱、既往歴、診察所見
などを組み合わせて判断します。
チェックリストではなく、患者さん全体を見ることが重要です。
もう少し知りたい人へ
MRIは、
椎間板
神経
神経が通る脊柱管
骨の内部
腫瘍
感染
などを見るのが得意です。
しかしMRIは詳しく見えるからこそ、
痛みとは関係のない「年齢相応の変化」もたくさん見つけます。
前回の記事で紹介したように、腰がまったく痛くない50歳でも、約80%に椎間板の変性が確認された研究があります。
だから、
「MRIを撮れば腰痛の原因が全部分かる」
とは限りません。
MRIを撮ることそのものより、
「何を確認するために撮るのか」
をはっきりさせることが大切です。
外来の裏話
外来で、
「先生、MRI撮らなくて大丈夫ですか?」
と聞かれることはよくあります。
僕がそのとき考えているのは、
「MRIを撮ったら、今日の治療が変わるだろうか?」
です。
例えば発症3日目。
かなり腰は痛いけれど普通に歩ける。
麻痺もない。
発熱も外傷もなく、診察しても危険な所見はない。
そこでMRIを撮って、
「椎間板が少し傷んでいます」
と分かっても、結局まず痛み止めと経過観察なら、今日撮る必要性はそれほど高くありません。
逆に、
「痛みは少しマシだけど、最近どんどん足首が上がらなくなっている」
と言われれば、MRIを撮りたくなります。
痛みが強い人から順番にMRIを撮っているわけではありません。
検査結果によって治療方針が変わるか。
見逃したくない病気がないか。
そこを考えて決めています。
まとめ
腰痛でMRIを積極的に考える代表的なサインは、
①尿・便の異常や股周囲のしびれ
②足の筋力低下や進行する麻痺
③がん・感染症を疑う背景
④転倒や骨粗しょう症など、骨折を疑う状況
⑤治療しても改善せず、手術や処置を考える段階
です。
一方で、危険なサインがない一般的な急性腰痛では、すぐにMRIを撮っても治療成績が良くなるとは限りません。
大切なのは、
「MRIを撮れるかどうか」ではなく、「MRIを撮ることで何が変わるのか」
です。
今後の腰痛シリーズでは、
腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、圧迫骨折、分離症、すべり症
などについても、一つずつ詳しく解説していきます。
参考文献
American College of Radiology. ACR Appropriateness Criteria®: Low Back Pain.
NICE. Low back pain and sciatica in over 16s: assessment and management. NG59.
Chou R, et al. Imaging strategies for low-back pain: systematic review and meta-analysis. Lancet. 2009;373:463-472.
Reginato LS, et al. Prevalence of serious spinal pathologies and nonspinal conditions in low back pain: a systematic review and meta-analysis. Pain Medicine. 2026;27:43-52.
※本記事は一般的な医学知識・目安としての情報提供を目的としています。医師法上、診察を行わずに個別の症状について診断したり、具体的な治療方針を指示したりすることはできないため、コメント等での個別相談にはお答えいたしかねます。
一方で、「こういう場合は一般的にどう考えるの?」「この治療にはどんな考え方があるの?」といった疑問があれば、コメントで教えてください。個別の診断・治療にあたらない範囲で、今後の記事としてできる限りお答えしていきます。
気になる症状がある場合や、症状が続く・悪化する場合は、医療機関を受診してください。