
腰痛って結局なにが原因? レントゲンやMRIだけでは分からない理由
こんばんは。整形外科専門医です。
今まで単純なQAを記事にしておりましたが、そろそろ各論にも手を付けようかなと思っています。
といってもすべてを網羅するのは難しいので広い切り口から少しずつ詳しい話が出来ればと思います。
この記事が腰痛に悩む方に何らかの良い影響を与えられればと願います。
知りたいことがあれば気軽にコメントくださいね、記事にしますので。
腰痛って結局なにが原因? レントゲンやMRIだけでは分からない理由
腰が痛くて整形外科を受診したのに、
「レントゲンでは大きな異常はありません」
と言われた。
あるいは逆に、
「骨が少し変形していますね」
「椎間板が傷んでいますね」
と言われたことがある人もいると思います。
そこで気になるのが、
「結局、私の腰痛の原因は何なの?」
ということ。
結論からいうと、腰痛は意外にも、
「ここが悪いから痛い」と1か所に原因を特定できないことが非常に多い症状です。
腰痛の約90%は「原因を1つに特定できない」

WHO(世界保健機関)は、腰痛の**約90%が「非特異的腰痛」**だとしています。
「非特異的」という言葉は分かりにくいですが、
骨折や感染症など、「この病気が腰痛の原因です」と明確に特定できない腰痛
という意味です。
「原因不明だから何も分かっていない」ということではありません。
腰には、
筋肉や靱帯
椎間板(背骨と背骨の間にあるクッション)
背骨の小さな関節
神経
周囲の軟らかい組織
など、痛みを発生させる可能性のある場所がたくさんあります。
そして実際には、これらの複数の要素が重なって痛みが出ていることもあります。
そのため、診察や画像検査をしても、
「痛みの80%はこの筋肉、残り20%はこの関節」
というようには分けられません。
では、「原因を特定できる腰痛」には何がある?
腰痛の約90%は、1つの病気や組織だけでは原因を説明できない「非特異的腰痛」とされています。
では逆に、病名や原因を比較的はっきり特定できる腰痛には何があるのでしょうか?
整形外科でよく問題になるものとして、たとえば次のような病気があります。
比較的よく聞く腰の病気
腰椎椎間板ヘルニア
背骨の間にあるクッション「椎間板」の一部が飛び出し、神経を刺激する病気です。腰痛だけでなく、お尻や脚の痛み・しびれを伴うことがあります。
腰部脊柱管狭窄症
神経が通るトンネルである「脊柱管」が狭くなり、神経が圧迫される病気です。歩いていると脚が痛くなったり、しびれたりして、休むと楽になる症状が代表的です。
腰椎分離症・分離すべり症
背骨の一部に疲労骨折のような状態が起こる病気です。特に成長期にスポーツをしている子どもでは重要な腰痛の原因になります。
腰椎すべり症
背骨が前後にずれる病気です。ずれそのものだけでなく、神経の圧迫を伴うことで症状が出ることがあります。
骨粗しょう症による脊椎圧迫骨折
骨が弱くなり、背骨がつぶれる骨折です。高齢者では、はっきり転倒していなくても起こることがあります。
頻度は高くないけれど、見逃したくない病気
脊椎感染症
背骨や椎間板に細菌などが感染する病気です。発熱を伴うこともありますが、必ずしも熱が出るとは限りません。
脊椎腫瘍・がんの骨転移
背骨そのものに腫瘍ができたり、別の臓器のがんが背骨へ転移したりすることで腰痛が出ることがあります。
脊椎関節炎
免疫の異常などによって背骨や骨盤周囲に炎症が起こる病気です。若い人の腰痛で、朝に強く、動いている方が楽になるような場合に考えることがあります。
馬尾症候群
腰の神経が強く圧迫され、脚の麻痺や排尿・排便障害などを起こす状態です。頻度は高くありませんが、緊急の対応が必要になることがあります。
さらに、
腎臓・尿管の病気や大動脈の病気など、腰そのもの以外の臓器から腰痛を感じるケース
もあります。
このシリーズでは今後、
腰椎椎間板ヘルニア
腰部脊柱管狭窄症
腰椎分離症
腰椎すべり症
脊椎圧迫骨折
危険な腰痛の見分け方
などについて、一つずつ詳しく解説していく予定です。
記事を公開したものから、ここにもリンクを追加していきます。
MRIを撮れば原因が分かる……とも限らない
「じゃあMRIまで撮れば、どこが悪いか分かるのでは?」
と思いますよね。
ここが腰痛の難しいところです。
MRIは非常に詳しく体の中を見ることができます。
しかし、
詳しく見えすぎるからこそ、“痛みとは関係ない異常”までたくさん見つかります。
有名な研究があります。
腰痛がまったくない3,110人の画像を調べた33研究をまとめたところ、椎間板の変性が見つかった割合は、
20歳:37%
40歳:68%
50歳:80%
60歳:88%
80歳:96%
でした。
ここでいう変性とは、簡単にいうと「年齢などに伴って、組織の水分が減ったり形が変化したりすること」です。
つまり、
50歳で腰が全く痛くなくても、10人中8人にはMRI上“椎間板が傷んで見える変化”がある
ということです。
さらに、椎間板が外側へ膨らんで見える「椎間板膨隆」も、痛みのない人で20歳の30%、80歳では84%に認められました。
画像に異常があることと、そこが痛みの原因であることは同じではありません。

じゃあレントゲンやMRIは意味がないの?
もちろん、そんなことはありません。
画像検査は非常に重要です。
たとえば、
背骨の骨折
感染症
腫瘍
強い神経の圧迫
背骨の大きな変形
などが疑われる場合には、レントゲンやMRIが診断に大きく役立ちます。
大切なのは、
「画像だけで腰痛を診断するわけではない」
ということです。
2025年に発表されたシステマティックレビューでは、腰痛で医療機関を受診した人のうち、重い背骨の病気が見つかった割合は、約0.8%でした。
一方、救急外来では2.1%、専門性の高い医療機関ではさらに高くなります。
つまり、多くの腰痛は危険な病気ではありませんが、
「少ないから無視していい」わけでもありません。
問診や診察から、詳しい検査が必要な人を見つけることが大切です。
腰痛は「画像」だけではなく「症状」を診る
外来では、
「MRIでここが黒くなっています。だからここが原因です」
と単純に決められる患者さんばかりではありません。
むしろ、
どこが痛むのか。
前に曲げると痛いのか、後ろに反ると痛いのか。
足まで痛みやしびれがあるのか。
いつから始まったのか。
安静でも痛いのか。
こうした情報と診察所見を組み合わせて考えることの方が重要な場合があります。
腰痛は、画像の1か所の異常だけでは説明できないことが多い症状なのです。
「ストレスで腰が痛い」は気のせいなの?
もう一つ、腰痛について知っておいてほしいことがあります。
特に長く続く腰痛では、
体の組織だけでなく、睡眠、ストレス、不安、仕事環境など、さまざまな要素が痛みに影響する
ことが分かっています。
これは、
「腰痛は気のせいです」
という意味ではありません。
痛みは脳と神経で感じるものなので、身体的な負担だけでなく、睡眠不足や心理的・社会的な状況によっても、その感じ方や長引きやすさが変化します。
現在の腰痛診療では、こうした複数の要素を含めて考えることが重要とされています。
もう少し知りたい人へ
腰痛を大きく分けると、
①原因となる病気を比較的はっきり特定できる腰痛
と、
②1つの原因に特定できない腰痛
があります。
WHOでは後者が約90%とされています。
ただし、「90%は原因不明だから検査しなくていい」という意味ではありません。
骨折、感染症、腫瘍、神経の重大な障害など、見逃してはいけない腰痛をまず除外することが重要です。
「では、どんな腰痛ならMRIまで撮った方がいいのか?」
これはまた別の記事で詳しく取り上げます。
【「腰痛ですぐMRIを撮るべき人は?」公開後リンクはここに】
外来の裏話
僕が腰痛の患者さんを診ていて難しいと感じるのは、
画像に異常がある患者さんより、“画像の異常をどう説明するか”です。
50〜60代以上で腰の画像を撮れば、多少の「年齢相応の変化」が見つかることは珍しくありません。
でも、それを見て、
「ここが潰れているから痛いんですよ」
と言い切ってしまうと、本当は痛みと関係の薄い変化まで「悪い場所」だと思わせてしまう可能性があります。
逆に、
「画像は大したことないから大丈夫」
だけでは、実際に痛くて困っている患者さんは納得できません。
だから僕自身は、
「画像では大きな問題はなさそう。ただし、画像に写らないものも含めて腰痛は起こるので、症状や診察も合わせて考えましょう」
という説明を意識しています。
腰痛では、画像を見ること以上に、
「その画像をどう解釈するか」
が大切だと思っています。
まとめ

腰痛は、
「画像で悪い場所を見つければ、原因がすべて分かる」
という病気ではありません。
WHOによると、約90%は特定の1つの病気や構造だけでは説明できない腰痛です。
さらに、腰がまったく痛くない人でも、年齢とともにMRI上の変化はかなり高い割合で見つかります。
だからこそ、
画像に異常があるかどうかだけではなく、「症状と画像が本当に一致しているか」を見ることが重要です。
次回は、
「どんな腰痛なら、レントゲンだけではなくMRIまで撮るべきなのか?」
について解説します。
参考文献
World Health Organization. Low back pain. WHO Fact Sheet.
Hartvigsen J, et al. What low back pain is and why we need to pay attention. Lancet. 2018;391:2356-2367.
Knezevic NN, et al. Low back pain. Lancet. 2021;398:78-92.
Brinjikji W, et al. Systematic Literature Review of Imaging Features of Spinal Degeneration in Asymptomatic Populations. AJNR Am J Neuroradiol. 2015;36:811-816.
Prevalence of serious spinal pathologies and nonspinal conditions in low back pain: a systematic review and meta-analysis. Pain Medicine. 2026;27:43-56.
※本記事は一般的な医学知識・目安としての情報提供を目的としています。医師法上、診察を行わずに個別の症状について診断したり、具体的な治療方針を指示したりすることはできないため、コメント等での個別相談にはお答えいたしかねます。
一方で、「こういう場合は一般的にどう考えるの?」「この治療にはどんな考え方があるの?」といった疑問があれば、コメントで教えてください。個別の診断・治療にあたらない範囲で、今後の記事としてできる限りお答えしていきます。
気になる症状がある場合や、症状が続く・悪化する場合は、医療機関を受診してください。