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創䜜倧賞2025参加  神の噚 特別線「幻燈の通」【第話】「深闇の抱擁」

    桜子

    ↓第1話はこちら


    【登堎人物】

    神䟝 兞圊25
    語り手。独特の感性を持぀春䞀を敬慕。電力䌚瀟勀務。

    神䟝 春䞀26
    兞圊の兄。神々しい矎貌ず異胜を持぀倩才。

    間宮 真32 
    元刑事の職業探偵。兞圊を助手に孀軍奮闘。


    【前回のあらすじ】

    遺䜓発芋から時間。連絡手段が党お断たれ、土砂厩れで道は寞断された。通報も救助も絶望的、完党なるクロヌズド・サヌクルが完成した事実を、党員が共有する。



    【第話】深闇の抱擁兞圊芖点


    「秘密は閉ざされおいない。資栌ある者には開かれる。」


    海底宮殿の真珠

    リビングから出た春䞀を远いかける。俺が重厚な朚補のドアを抌し開けるず、ひんやりずした空気が流れ蟌んできた。

    通内は電気が通っおおらず、灯りは、雪野から枡された猶入りのアロマキャンドルだけだ。゚ントランスは、ひどく暗かった。倧きなシャンデリアは、か぀おの茝きを倱っお鈍く沈んでいた。

    挆黒の空間。
    俺には、春䞀はたるで真珠のように浮かび䞊がっお芋えた。


    俺の姿をその透き通った瞳で芋぀けるず、春䞀は仄かに埮笑んだ。
    「ねえ兞圊。このグランドホヌルは、ずおも麗しいね。寓意は海底の宮殿かな」

    春䞀は昔から俺ず「玠敵なもの」を共有するこずが奜きだ。圌の芋぀ける玠敵なものたちは、今たで俺の生きおきた堎所にもあったのだろう。

    けれど圌を倱っおいた幎間、目の前にあっおも䜕䞀぀気づくこずなく生きおきた。圌の瞳はタンザナむトのように煌びやかだ。矎しいものを芋出し、矎しいものを映す瞳なのだ。

    「あの、マホガニヌに刻たれた倩井装食」
    春䞀は、おもむろに倩井ぞず俺の芖線を促し、ゆったりず語り始めた。
    「䞭倮から攟射状に䌞びおいるのが珊瑚の枝。その隙間にあるのは、星ず泡の浮遊暡様。䞭倮や角に貝殻の浮圫が配眮されおいるのが芋えるそのたわりの氎草はゆらゆら挂うみたいで」

    圌の瞳が䜕かを捉え、その矎しさに觊れるたび、空気が柄んでいくのがわかった。

    「たるで海流に揺られおいるみたいだよね」
    海底宮殿を静やかに歩く春䞀は、祈るように語り続けた。その声には、䞍思議ず心を萜ち着かせる力があった。

    春䞀が俺に莈っおくれる䞖界は、い぀だっお玠敵なものだけが存圚しおいる。どんな堎所でも、どんなずきでも、それは倉わらない。

    この碌でもない状況でも、䞖界ず他者を、心の底から慈しむこずができる。それを匷さず呌ばないのなら、䜕を匷さず呌ぶのだろう。

    「ああ、そこの䞉叉槍は、海の神トリトンを象城しおるんだ。玄関に圌を描いたアカデミック絵画があったでしょう。兞圊、人魚の絵なのに女性じゃなくお筋肉質な男性だったから、びっくりしおたね」

    俺に向かっお悪戯っぜく埮笑みかけおから、春䞀は解説を続ける。

    「  この邞宅自䜓は、ゞョヌゞアン様匏のカントリヌハりス建築で、これは巊右察称ず、叀兞的な神話が題材ずなった端正な装食が特城ずされおいるんだよ。けど、調床品は優矎なルむ䞖様匏が倚いね」
    この寂れた通に察する、教逊ず優しさに裏打ちされた気高い肯定。

    正盎耳慣れない甚語も倚いが、䞀぀だけはっきりずわかった。幜霊屋敷、事故物件なんお蚀葉で、この通を衚珟されるこずが、春䞀にずっお苊痛だったのだろう。

    「そっちの、艶を抑えたマホガニヌ材の芳音扉。海草の浮圫现工や泡を暡した癜蝶貝の象嵌が控えめに斜されおいお、ずおも、綺麗でしょう。あの扉の向こうにはね、この家の音楜宀があるんだ」
    ゚ントランスの右手にある䞀぀の扉に、すぅっず春䞀の芖線が動く。タンザナむトの瞳が色を倉え、䜕かを隠し持぀かのように深遠な茝きを攟った。

    語る春䞀に、博芧匷蚘ずいう蚀葉が頭に浮かんだ。生来、聡明な人だずは分かっおいたが、その现やかな感性ず博識ぶりには流石に舌を巻く。

    春䞀は、平日に週日喫茶店で働き、人ず觊れ合う経隓を積んでいる最䞭だ。そしお残りの日を近堎の区立図曞通で過ごしおいる。

    朝時の開通から倜時の閉通たであらゆるゞャンルの本を読み耜っおいるらしい。今は、ずにかく知識を埗るこずが楜しいようだ。

    小説から宗教孊、建築、数孊、薬孊、医孊、神話、哲孊、矎術史、癟科事兞、倩文幎鑑、蟞曞や掋家具のカタログたで、圌の興味の赎くたたに。

    迎えにいけば、目映いばかりの笑顔で嬉しそうに話しおくれる。話から察するに、䞀日で数十冊あるいはそれ以䞊に読んでいる。

    春䞀の読曞は、情報の収集ではない。分厚い専門曞であっおも、现かい脚泚にも目を止めお、曞き手の思考を䞹念に远っおいく。図曞通で過ごす時間は、圌にずっおは、孊びであり、遊びであり、生きる喜びの䞀぀ずなっおいるみたいだ。

    たずえ倧量の難解な専門曞から埗た知識であっおも、俺が理解できるかたちに萜ずし蟌めるのは、優しい春䞀らしい孊び方だった。話を聎くだけで、俺も、たるでその日その日で、新たな䞖界を旅しおいる気分になれた。

    䞖界史ず、数孊ず怍物孊図鑑を繋げお話す春䞀の頭の䞭は、党おの知識が星座のように繋がっおいるらしい。


    沈黙を匷いられおいたあの村から連れ出せお以来、春䞀が知識を吞収しおいく様子を芋るのが、俺は䜕より嬉しかった。



    悪意の気配


    春䞀の矎しい話に耳を傟けながら、窓に近づいたのも、その鍵に觊れたのも、すべお䜕気ない行動だった。

    カシャン、ず鍵は軜く倖れた。だが窓自䜓は、たるで壁の䞀郚のように埮動だにしない。
    「  開かないな」
    手応えはあった。明らかに、どこかが匕っかかっおいる感觊だ。

    もう䞀床、今床は少し力を蟌めお抌す。だが、たるで内偎からがっちりず固定されおいるかのように、ビクずもしなかった。

    なぜだ、鍵は倖れおるのに。

    近くにきた春䞀が、俺の手元に小さなラむトを向ける。俺は窓枠の䞋郚ず偎面を䞁寧に撫でる。するず、指先にわずかに硬質な感觊が䌝わった。朚材ではなく、金属の感觊がある。
    「春䞀、ここ芋おくれ。これ、枠の裏に金属が仕蟌たれおる」

    朚補の窓枠に芋えおいた箇所の内偎に、僅かな金属の瞁取りが芗いおいた。
    それは、装食には芋えなかった。ガラス郚分を枠の内偎から挟み蟌むように、補匷金具らしきバヌが走っおいる。

    「建お付けの補匷ずしおは、劙だな。普通、倖から芋える郚分にわざわざ金属は䜿わないはずだ。なんだこれ」
    蚀葉に詰たった瞬間、春䞀が軜く瞬きをした。その瞳には、深海のような冷たさず優しさが同時に宿っおいた。

    春䞀が指を滑らせお止めた。
    「  ここ、゚ポキシ暹脂でネゞ穎が埋められおる。  内偎から接着されおるんだ。これ、倖れないよ」

    ゚ポキシ暹脂党く知らない単語だが、よく芋れば、窓の固定甚ず思しきネゞのいく぀かに、透明な暹脂のようなものが充填されおいる。衚面は䞁寧に敎えられおいるが、よく芋れば光の反射が違う。

    「゚ポキシ暹脂っお」
    春䞀に蚊ねるず、い぀も通りの優しい口調で䞁寧な答えが返っおくるが、その内容は想像を遥かに越えた。

    「゚ポキシ暹脂はね、  えっず、化孊的に硬化する接着剀っお蚀えばいいのかな。匷床が極端に高くお、耐久性、防氎性、耐薬品性を備えるんだ。だから、珟圚の技術だず、䞀床硬化するず絶察に取り倖せないず思っおいいよ」

    それは明らかに、老朜化でも、台颚察策でもない。あたりにも匷烈に、䜕者かの意図を感じさせる现工だ。

    「絶察に  」
    呆然ず呟くず、春䞀は、この犯行がいかに狂気的であるかを、より詳しく俺に教えおくれた。悪気はない。春䞀は、垞に正しい人なのだ。

    「あ、ごめんなさい。あのね、理論䞊はね、数癟床の熱や匷アルカリ溶剀で暹脂自䜓を壊せば倖れるよ。でもここでそんな機材や薬品は甚意できないから  。えっず、ここを開けたいなら、硝子窓を割るしかないず思う」

    恐ろしい事実を教えおくれた春䞀の瞳は、柄んだ氎面のように揺れおいる。

    「ほかの窓もか」
    思わず尋ねおしたう。

    銖を傟げる仕草は慎たしく、どこか優雅だった。
    「俺の〝芖た〟限り、党郚かな」

    こうなるず、通信も、照明も、非垞電源すらも。すべおが沈黙しおいる珟状すら、人為的なものではないかず、確認せざるを埗なかった。

    であるならば、どこかに埩旧の可胜性が残っおいるのではないか。俺は春䞀に「いっおくる」ず䞀声かけ、すぐ間宮のいるリビングに駆け出した。

    「気になるこずがありたす。どう考えおも、電気系統の䞍具合にしおは腑に萜ちない。断線や過負荷では説明が぀かない䜕かがある」
    リビングから連れ出した間宮に盞談するず、圌は顔を顰めながら、「行くぞ」ず䜎い声で蚀った。

    俺たちは管理人宀ぞず再床、向かった。

    郚屋の隅、配電盀ぞ続くケヌブルダクトに目をやるず、金属補の蓋がわずかに浮いおいた。通垞、専甚工具なしでは開けられないはずの堎所だ。それなのに、開いおいる。薄暗がりの䞭にも、それははっきりず芋えた。

    懐䞭電灯の光を圓おるず、切断されたケヌブルが目に飛び蟌んできた。明らかに、意図的な断線だ。しかも雑ではない。工具で狙いすたしたように、きれいに切られおいる。

    隣で間宮が呟いた。
    「これは  明らかに人為的に芋えるな」

    「俺もそう思いたす。こんな奥なら、普通たず気づかない。それを狙ったのかもしれない」
    光を断裂郚に圓おながら蚀葉を継ぐ。
    「しかも、切られおるのはメむンじゃなく、非垞電源の方です。これは偶然じゃない。狙っお切っおる。専門知識のある人間の仕業ずしか思えたせん」

    間宮が短く肯く。ふたりの間に沈黙が萜ち、倖で降り続ける雚音すら遠く感じた。

    俺は再び、配電盀そのものを点怜するこずにした。
    ドアを開くず、倩井から垂れ䞋がる叀い配線。錆びたブレヌカヌが䞊び、油ず金属の臭いが錻を぀く。間宮に枡された手袋をはめ、䞀぀ず぀ブレヌカヌを入れ盎しおいくが、反応はない。照明も電話も、通電の気配すらない。

    焊げ臭さはないし、遮断噚も萜ちおいない。異垞枩床の譊告灯も、点く気配がない。たるで、最初から電気など流れおいなかったかのように。

    念のため、非垞電源ぞの切り替えスむッチも確認する。接觊䞍良や焌損の圢跡はない。だが、切り替わっおいる様子もない。
    芋た目には正垞だ。だからこそ、䞍気味だった。

    配電盀の異垞を確かめた埌も、䜕かが匕っかかっおいた。
    誰かが、意図的にこの建物の機胜を止めようずしおいる。その事実が確かになった今、俺の䞭に別の疑念が芜生える。

    もし、電気や通信だけじゃないずしたら
    物理的な出入り口そのものも、塞がれおいたずしたら

    これは事故じゃない。意図的な遮断だ。
    俺たちは、䜕者かによっお、倖の䞖界ず断たれおいる。だずすれば、他も  。

    「  間宮さん。ちょっず、裏口、芋おみたせんか」
    圌も同じこずを考えおいたのか、すぐに頷いた。

    厚房の奥、通甚口ぞず続く现い廊䞋を抜ける。倖ぞ繋がる唯䞀の勝手口には、叀い鉄補のドアが嵌められおいる。だが、ノブを回しおも、たったく動かない。
    内鍵がかかっおいるのかず思ったが、䜕か様子がおかしい。鍵穎に工具を差し蟌んでみるず、内郚でガリ、ず異様な音がした。

    歯車が噛み合っおいない。いや、壊されおいる。
    「  鍵、折られおるな。内偎からだ。ピンが削れおる」
    間宮がしゃがみ蟌み、懐䞭電灯を照らしながら呟いた。

    俺も芗き蟌む。ドアノブの内偎から、機構が朰されおいた。たるで䞭から砎壊しお、開かなくしおしたったように芋える。
    これは、倖からの䟵入を防ぐためではない。

    「これ、偶然ず思いたすか」

    「いや  誰かが、脱出手段を朰しおる」
    悪寒が走った。倖は嵐。通信は絶たれ、非垞電源は遮断され、出入口は物理的に砎壊された。

    これはもう、自然の封鎖じゃない。
    俺たちは、仕組たれた〝檻〟の䞭にいる。






     
     
     

    桜子

     
     
    珟圚は無理せずノンビリ投皿。小説「間宮真の機胜的ロココ探偵事務所」を連茉䞭。昚幎投皿した「神の噚 幻燈の通」を倧幅加筆修正した新䜜旧䜜「倜に灯る〜幻燈の通〜」を投皿。北郚九州圚䜏。小説を曞き始めお早幎カ月。

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