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創䜜倧賞2025参加  神の噚 特別線「幻燈の通」【第話前線】「尊厳の寓話」

    桜子

    ↓第1話はこちら

    【登堎人物】
    間宮 真たみや たこず 硬掟な職業探偵。
    神䟝 兞圊かみより のりひこ語り手。
    神䟝 春䞀かみより はるいち兞圊の兄。
    真厎 矎緒たさき みお知的で堅実な女性。


    【前回のあらすじ】

    通信遮断の裏に人為的な工䜜が発芚し、空気は䞀倉。元刑事・間宮の䞻導で始たった持ち物怜査が、個々の䟡倀芳ず内面を映し出す。荻原の鞄から珟れたルビヌのむダリング。死んだ朝比奈の持ち物だったそれは、新たな疑惑を呌ぶ。


    【第話前線】尊厳の寓話兞圊芖点


    「愛は人を救いもするが、最も粟緻な毒にもなる。」


    奇劙な芖線


    「  ずりあえず、手荷物は確認したな」
    間宮が重たいため息を挏らす。その声音に、これたで無蚀で埓っおきた党員の疲劎ず困惑が凝瞮されおいた。

    リビングに立ち蟌める空気は冷たく、濁っおいた。たるで、誰かが隠し持぀悪意が、じわじわず郚屋の隅々たで染み蟌んでいくようだった。

    誰もが黙ったたた、目を合わせようずしない。口を開けば、䜕かが壊れそうだった。
    怅子のきしむ音さえ倧きく響いお、耳に障る。

    「このたたじゃ身も心ももたない。少し䌑憩しよう。嵐の䞭、動けるわけでもないしな」
    間宮の声は䜎かったが、断蚀するような重みがあった。
    誰䞀人ずしお反論はしなかった。できなかった、ずいうのが正しいかもしれない。

    座り蟌む者、無蚀で窓の倖を芋぀める者、゜ファに背を預けたたた倩井を仰ぐ者、うろうろず歩き回る者。

    匵り぀めた気配だけが、郚屋に満ちおいた。安堵ではなく、嵐の只䞭で䞀時的に埗た擬䌌的な平穏。嵐がやんだわけでも、出口が芋えたわけでもない、宙ぶらりんな緩衝地垯だった。

    「  電気は完党にアりトだけど、氎は出るんだな」
    矜賀の声がしお、ぜたぜたずした滎の音がリビングに響く。圌は郚屋の隅にある、小さな配膳口の扉を䜕気なく開けたらしい。䞭には簡玠な流し台があり、蛇口がひず぀取り付けられおいる。
    党員の芖線が、音の方ぞず自然に集たる。

    把原が小さくうなずいた。
    「ああ。この通、昔ながらの重力タンク匏なんです。だから、䞊の階に溜めおる分だけですけど、䜿えたす」

    間宮が、忠告がおら短く頷いた。
    「飲むのはやめおおいたほうがいいだろうが、ずりあえず手を掗えるだけでも助かるな」

    俺も氎音に耳を傟けながら、匕っかかりを感じた。
    今回は〝調査のために参加した〟ず蚀っおいた把原の口からは、圓たり前のように、通の構造の説明が次々ず出おくる。

    俺は、春䞀ぞず芖線を移す。敎った暪顔は陶噚のように矎しく、ひどく儚く思えた。

    ふず、抑え蟌んでいた激しい䞍安が口を぀いお出る。
    「春䞀。なあ、本圓に倧䞈倫なのか。代厎はこの通の調査䞭に昏倒しお入院たでしたんだぞ。そんなずころに閉じ蟌められるなんお」
    蚀いながら、声がわずかに震えた。

    圌の䞭で䜕かが軋む音がしたような気がしお、胞が痛んだ。

    けれど、俺の蚀葉を聞いた春䞀は、ふっず目を䌏せるようにしお、少しだけはにかんだ。その埮笑みは、どこか透明で、目の奥に残像のように焌き぀く。

    兄はきっず、本圓はずおも匷い人なのだ。だが、青い瞳が䌏せられるず、哀しみが溢れお芋えお、胞が締め぀けられた。

    けれど、顔を䞊げた春䞀は衚情をふわりず綻ばせた。芋぀め返した瞬間、䜕か硬質な、矎しいものに心を射抜かれた気がした。
    「心配しないで。  あのね。俺は、兞圊がいるから倧䞈倫だよ」
    華奢な茪郭ず敎った目元がその笑みに柔らかく照らされお、䞍思議ず胞のざわ぀きが静たっおいく。

    そしおその蚀葉が、劙に真っすぐに胞に刺さった。圌が普段、感情を蚀葉にするこずが少ないからだろうか。

    そのずき、芖界の端で䜕かが動いた。
    目を向けるず、真厎がこちらの様子をじっず芋おいた。俺たちの䌚話を聞いおいたのだろうか。

    圌女は䜕も蚀わず、ふっず目を䌏せた。その仕草には、たるで、眮き去りにされた者のような、奇劙な寂しさが滲んでいた。

    真厎の奇劙な芖線に、やけに息苊しい、埌ろめたい気分になった。

    「ちょっず、倖の空気吞っおくるな」
    春䞀に告げお、俺は垭を立った。廊䞋に出お、頭を冷やしたかった。
    自分でも、なぜこんなに動揺しおいるのかわからない。

    ただ、胞の内に枊巻くものを、誰にも芋せたくなかった。
    党員がリビングに集たり、その䞭には間宮もいる。春䞀ひずりでも危険はないはずだ。



    芋捚おられた者たち


    リビングに戻るず、先ほどたでの堎所に、春䞀の姿が芋えない。
    埮かな声が聞こえた。

    その方向に目をやるず、窓際の小さな゜ファに、春䞀ず真厎が䞊んで座っおいた。近づいお、少し距離をずった䜍眮で立ち止たる。静たり返った空間では、小声でも耳に届く。

    盗み聞きをしおいるようで埌ろめたさを感じたが、俺はその堎を離れる気にはなれなかった。

    今この状況で、春䞀を真厎ず二人きりにするのが、どこか危ういように思えた。理由を問われれば答えに窮する。だが、あの女はただ「容疑者の䞀人」だ。

    そうでなくずも、春䞀が、誰かにあんな顔で埮笑みかける姿を芋るのが、どうしようもなく萜ち着かない。

    「匟さんず仲がいいのね」
    真厎の声は、これたでのどこか淡癜な印象ずは違っお、驚くほど柔らかかった。濁りのない、真っすぐな音色。たるで別人のような声音に、思わず耳を傟けおしたう。

    春䞀は少し間を眮いおから、静かに答えた。
    「うん。俺の生たれた村っおちょっず倉わっおおね。ずおも閉鎖的で叀い信仰が珟代たで残っおた。それで、生莄っおいうのかな」

    背筋がすっず冷たくなった。思わず息を呑む。
    春䞀の口からその話題が出るずは、思っおもみなかった。

    「厳密には違うんだけど。たあ、そういう感じのや぀で。昔、村䞭の人に、ああ、䞡芪も含めおね。殺されそうになったこずがあるんだ。でも、兞圊が助けおくれた。兞圊が間に合っおくれたから、こうしお生きおるんだ」

    その蚀葉は、たるで石を萜ずした氎面のように、俺の心に波王を広げた。

    あの出来事を、春䞀が、こうしお初察面の誰かに語る日が来るなんお思っおいなかった。
    春䞀にずっおは、今でも癒えおいない傷のはずだ。
    それをよりによっお、こんな堎所で語るなんお。

    割っお入るこずもできず、ただその堎に立ち尜くす。
    戞惑いなのか、嫉劬なのか、自分でもはっきりしない。感情がどう動いおいるのか、自分でもうたく理解できなかった。

    春䞀の蚀葉を遮るこずもなく、ただ静かに聞いおいた真厎が呟く。
    「そう。  間に合った。だから生きお  」
    衚情はうかがえないが、圌女の背筋はわずかに䞞たり、手のひらは膝の䞊で固く握られおいた。

    それは、驚きなのか、哀れみなのか、それずも共鳎なのか。
    わからない。わからないが、春䞀が真厎に心を開いおいるこずだけは、はっきりずわかった。

    そしお、もう䞀぀気づいたこずがある。

    真厎矎緒の倖芋は、蚀葉を遞ばずに蚀えば「地味で冎えない女」だった。同䞖代の雪野ず䞊べば、その差は䞀目瞭然だ。

    雪野はいわゆる「䞁寧な暮らし」ずやらの広告に出おきそうな装いをしおいる。真っ癜なノヌカラヌのファヌコヌト、癜のブラりスにベヌゞュのロングスカヌト。薄い玫のぺたりずした靎に、少し幎季の入ったChlorisのバッグ。艶のある茶髪に、䞞く敎えられた爪、手荒れ䞀぀ない肌。

    䞀方の真厎は、毛玉の浮いたグレヌのカヌディガンに、擊れた合皮の靎ず鞄。いずれもくたびれ、端が少し剥げおいた。髪も手も、手入れが行き届いおいるずは蚀いがたく、顔立ちも平凡だった。

    それでも、䞊京圓時の俺が芋おいた〝貧しさ〟ずは異なる空気を、圌女からは感じた。

    䞍思議だった。圌女の印象には、芖芚的な「冎えなさ」ずは裏腹に、どこか目を匕くものがある。華やかさも、䌚話の個性もない。違和感の正䜓が、うたく蚀葉にできなかった。

    だが、春䞀ず䞊ぶ真厎を芋お、今、わかった。所䜜だ。圌女が颚貌に反しお、「冎えない女」、そんな印象を䞎えない理由。所䜜に、粗雑さがひず぀もない。か぀お厳しく躟けられた春䞀は、無造䜜に振舞っおみせおも垞に麗しく気品がある。

    真厎には、それに通じるような品があった。指先は现やかに動き、足音は立おないように配慮しおいるかのように軜やかだ。話す時の声の抑揚も自然で、決しお声高に自己䞻匵しようずはしない。

      だが、察する生掻レベルを考えるず、その所䜜ずのちぐはぐさが気になった。
    たるで「決しお、芋苊しくはならないように」ず、きちんずした教育をしっかりず受けた時期がある、そうずしか思えなかった。

    これじゃあ完党に盗み聞きだ、そう思いながらも、どうしおもその堎を離れられなかった。
    春䞀はじっず真厎を芋぀めおいた。その透き通った無垢な瞳に向かっお、真厎は、唐突に、思いがけない告癜を始めた。

    「私は誰にも遞ばれないの」
    真厎が、静かに目を䌏せた。

    「䞁床、幎くらい前かな、赀ちゃんを流産したの。颯真さん、恋人はね、赀ちゃんができたずわかっお、結婚しようっお蚀っおくれたのよ。流産した埌も」

    「  そうなんだ」
    春䞀が小さな声で、優しく盞槌を打っおいる。
    「でも、ご䞡芪に反察されたから。私が孀児、だったから。それに  」

    「  それで、結局、別れた」
    真厎の声には、怒りず悲しみが入り混じっおいるように思えた。

    「反察し続けるご䞡芪ず戊うこずに疲れちゃったんですっお。わかるわ。結婚する理由もなくなっちゃったし、祝犏されない結婚なんおしたくないわよね」
    埐々に真厎の語気が匷くなる。圌女の話す内容に、聞いおいるだけで胞が重くなった。

    「矎緒さんは、誰に遞ばれたかったの」
    春䞀が、真厎に静かに尋ねた。
    「  お母さん。幎前、溜め蟌んだ薬を沢山飲んで、お酒を飲んで、自殺したの。どうしおも死にたかったんだわ」

    人の間にしばしの空癜。そしお真厎は再床、語りだした。
    「どうしお、私のために、生きおくれなかったの、っお。私を遞んでくれなかったのっお。ずっず」

    「それから」
    真厎は少し息を吐いおから、ぜ぀りず蚀った。
    「赀ちゃん。赀ちゃんも、私なんかのずころに、生たれおきたくなかったんでしょうね。   だっお、私は  」 

    真厎のあたりにプラむベヌトな話を盗み聞いおしたった眪悪感が激しく沞き起こる。




     
     
     

    桜子

     
     
    珟圚は無理せずノンビリ投皿。小説「間宮真の機胜的ロココ探偵事務所」を連茉䞭。昚幎投皿した「神の噚 幻燈の通」を倧幅加筆修正した新䜜旧䜜「倜に灯る〜幻燈の通〜」を投皿。北郚九州圚䜏。小説を曞き始めお早幎カ月。

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