メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

創䜜倧賞2025参加  神の噚 特別線 「幻燈の通」【第話前線】「蒌ざめた女」

    桜子

    ↓第1話はこちら


    【前回のあらすじ】

    神䟝春䞀は芋知らぬ男の〝死〟の予知倢を芳る。匟の兞圊、倩城調査事務所の間宮ず、問題の掋通ぞず向かう。道䞭、霊芖占い垫・雪野志桜里ず出䌚い、同行するこずに。霧深い林道の先に䜇む掋通には、過去の匷烈な蚘憶、死のビゞョンがあった。



    【第話前線】蒌ざめた女兞圊芖点

    「沈黙も蚌蚀ずなりうる。だが、死者は嘘を぀かない。」


    静謐の掋通


    山の朚立を抜けるず、芖界がふっず開け、癜い通が芋えた。門は開いたたただった。車を進めるず、砂利の音を吞うように湿ったアプロヌチが続き、その先に通が珟れた。

    どこかの成金が趣味で建おたずいう先入芳から、もっずけばけばしい装食の「なんちゃっお掋通」を想像しおいた。

    だが、実際に珟れたのは霧のなかに沈む静謐な建物だった。成金趣味ずは皋遠い。ペヌロッパの邞宅に察する、匷い敬意が感じられ、どこか気品のようなものを纏っおいる。

    けれどその静謐な通も、今では荒れ果お、今ではほずんど廃墟同然の姿をさらしおいた。

    車を降り、掋通を改めお眺める。

    玄関たで通路は石畳で、苔が広がっおいる。癜い挆喰の倖壁は、ずころどころに黒ずみや剥がれを芋せ、堎所によっおはひび割れもある。

    巊右察称に組ず぀均等に䞊んでいる1階の窓。その癜い朚枠の塗装は、颚雚に晒され剥げかけ、ささくれた質感を芗かせおいた。

    屋根の庇には萜ち葉が積もっおおり、長く掃陀された圢跡はない。扉脇の半月圢の窓にも、䞊郚にある明かり窓にも蜘蛛の巣が薄くかかり、蔊が這っおいる。

    建物の向こうに芋える庭らしき空間は雑草に芆われ、か぀お怍えられおいたであろう䜎朚の茪郭もがやけおいた。

    明らかに長期間攟眮されおきたこずは吊定できない。
    しかし、幎ずいう歳月を経おなお、党䜓の茪郭は厩れおいない。

    建おた者の矎意識の名残。ペヌロッパの田園颚景に心を寄せた人物が、それにふさわしい䜏たいを慎重に仕䞊げた。そんな印象を受けた。

    だからこそ、この通が心霊スポットずしお隒がれおいるこずに、どこかちぐはぐな違和感が぀きたずう。

    通を芋䞊げた間宮は、心底嫌そうにため息を぀いた。
    「  たったく、しょうもない」
    そしお軜く舌打ちをしおから、続ける。

    「オカルトマニアに肝詊し、果おは配信目的のバカどもたで。こんなもんが〝名所〟扱いされちゃ、近所もたたったもんじゃない。譊察も頭を抱えおるらしい」
    そしお肩をすくめ、冷笑を浮かべる。

    この矎しい通が荒らされる。その理由は単玔で、この屋敷が「幜霊屋敷」ずしお知られおいるからだ。

    今回の集たりのために、鍵は倖されおいたらしい。俺は玄関のドアに手をかけ、そっず抌し開けた。重い蝶番が、わずかに軋む。

    空気の密床が倉わるのを、肌で感じた。䞭はどこかひんやりしおいお、閉ざされた空間特有の、倖界から切り離された匂いが挂っおいる。

    玄関は広々ずしおいたが、決しお華矎ではない。正面には、奥ぞず延びる石匵りの床が広がっおいる。か぀お客を迎えるために敎えられた空間は、今ではその圹目を終え、ひたすら沈黙を守っおいた。

    手入れの行き届いた時期もあったのだろう。だが今は、あちこちに薄く埃が積もり、床にはかすかな足跡が点々ず残されおいる。

    ドアの䞡脇には、楕円圢の窓がひず぀ず぀。磚りガラスを通しお曇った光が差し蟌み、僅かな淡い光が玄関にがんやりずした明るさを䞎えおいた。その光の䞋で、埃がゆっくりず舞っおいる。

    右偎の壁には、叀びた鏡がひず぀掛けられおいた。俺はふずその前で足を止める。鏡には、叀びた宀内ず自分の姿ががんやりず映っおいた。


    この静謐な通が、か぀お「家」であったずいうこず。その事実だけが、空間に残されたすべおだった。


    正面にある、通の広間ぞず続くらしき重厚なドアを開ける。冷たい空気が胞元を撫でた。通の入口から繋がるそこは、゚ントランスホヌルず呌ぶにふさわしい、広々ずした空間だった。

    倩窓から萜ちる光が、斑暡様の圱を倧理石の床に描いおいた。石はずころどころひび割れ、叀びた赀い絚毯には過去の足跡がうっすらず残る。

    だが、それは空間を損なうどころか、むしろ䞍思議な颚栌を添えおいるようにも思える。

    倩井には、おそらく海をモチヌフずしたらしき繊现な装食が圫り蟌たれおいた。揺れる氎草や綺麗な貝殻のような暡様が、緻密に配眮されおいる。この通が珟圹だった頃には、きっずこの倩井単䜓でもアヌト䜜品ず呌べただろう。

    階ぞず続く階段は広く、艶のある重厚な朚材が滑らかなカヌブを描きながら䞭倮の螊り堎に続き、そこから巊右に分かれおいた。

    脇にある倧きな窓から光が差し蟌み、浮かび䞊がるように埃が宙を舞っおいる。たるで映画のワンシヌンに出おきそうな颚情だった。

    壁には矀青色の絹が匵られおる。ずころどころに耪せが芋られるが、圓初は盞圓に莅沢な仕立おだったのではないだろうか。

    アンティヌク調の怅子がぜ぀ぜ぀ず眮かれ、赀銅色のランプスタンドが、たるでただ客を迎える぀もりでそこに立っおいた。



    虚食の矀像


    壁際では、招かれた面々が円を描くように立っおいた。男も女も、どこか萜ち着かない様子だった。

    互いに目を合わせるのを避けながら、ちらちらず呚囲の人間を䌺っおいた。なにやら劙な緊匵感が挂っおいる。

    誰かが咳払いした。ホヌルの空気がわずかに揺れる。
    「  あヌ、ではたず、順に自己玹介でもしおおきたしょうか」
    宇田川が蚀ったが、沈黙が返っおきた。

    䞀拍眮いお、朝比奈がかすかに錻で笑う。
    「なにそれ、合コンじゃないんだから」

    「あ、じゃあオレから  」
    矜賀が咳払いしおから、口を開いた。

    着おいるグレヌのスヌツは、少し色耪せお草臥れおいるが、枅朔な癜シャツずのコントラストで䞍朔な印象は䞎えない。
    「枅颚出版の矜賀宗䜑です。うちの雑誌『月刊ゞャスティス』は、裏瀟䌚や未解決事件を远っおたしおね。こういう〝曰く付き〟の物件、そそられちゃうんですよ」

    矜賀は軜薄そうな笑みを浮かべおいたが、芖線は誰よりも鋭敏に動いおいる。内心では、すでにこの堎を蚘事に倉換する蚈算を始めおいそうだ。

    次に答えたのは、ふっくらずした䜓型に飄々ずした笑みを浮かべる男、宇田川だった。

    キャメル色のゞャケットにベヌゞュのスラックス、オフホワむトの開襟シャツ。小奇麗だが、襟元から芗く金のネックレスに倚少の䞻匵を感じる。そのせいか、どこか〝芋栄えを気にする人〟ずいう印象だ。

    「りェルステヌト䞍動産の宇田川ず申したす。この掋通の珟オヌナヌでしお  ああ、電気が぀かないのはですね、぀い先日たでは問題なく点灯しおいたのですが、どうも蚭備が叀いせいですかね、調子が悪いようで  。今日は日䞭ですし、窓から光も入りたすので、そのたたご案内を続けさせおいただければず思いたしお」

    そう前眮きしおから、圌はにこやかに続ける。
    「たあ、こちら、曰く付きの物件ずいうや぀ですな。なかなか売れなくお困っおおりたしお。今回は目途が立ったので、売買に備えお、雪野先生に䟛逊をお願いしたわけです」
    蚀葉の終わりに、たるでこの堎に集たった党員に感謝するかのような笑みを浮かべたが、その目は笑っおいなかった。

    「朝比奈瑀子。ルシファビュラスのCEOよ。〝矎しさこそ女の䟡倀〟っおいう信念でここたできたわ。ビゞネスの䞖界じゃ、信念を持぀者が勝぀もの。  嫌味に聞こえたなら、そう思っおおけばいいわ」
    ピンヒヌルの音を響かせ䞀歩前に螏み出した。完璧にセットされた髪ず赀い口玅。その瞳は冷培な光を宿し、䜕かを探るように、わずかに现められおいた。芖線が俺に向けられたずきには、思わず身を匕きそうになった。他の参加者を芋䞋すように䞀通り芳察した埌、埮かに唇を匕き結んだ。

    次々に名乗りを䞊げる面々の蚀葉を聞きながら、俺は心のどこかで、そっず溜息を぀いおいた。軜薄な蚘者に、胡散臭い䞍動産屋、自意識の塊のような実業家。どうしおこうも癖の匷い人間ばかりが、この通に匕き寄せられるのか。いっそ、この集たりが䜕かに呪われおいるずでも思いたくなる。

    次に口を開いたのは、ブラりン系ツむヌドのゞャケットにワむンレッドのネクタむを締めた男だった。胞元には同系色のチヌフが差し蟌たれ、どこか〝芋せるこず〟を意識した装いだ。
    「山路靖。元は譊察OBでね、今は枅明倧孊の法孊郚で教えおいるよ。こういう堎は慣れおる぀もりだが。たあ、実に  雰囲気がある屋敷だな」
    そう蚀いながら、その目は無遠慮なほどに参加者たちを芋回しおいる。どうも〝なにかを探るような芖線〟に思えた。その芖線が、俺にも䞀瞬だけ止たった。芋知らぬ盞手を芋る目にしおは、どこか  含みのある、疑うような色があった。

    「荻原貎叞ずいいたす。あの  『ひかりの園』っおいう犏祉斜蚭で  たあ、それはいいか。ずもかく、子どもたちにずっおこういう建物が  うん、いや  」
    児童盞手の仕事をしおいるからだろう、時蚈の文字盀が内向きなのが印象的だった。その語尟の䞍自然な硬さが耳に残る。衚面は善良そうだが、卑屈な印象を䞎え、時折その目に暗い圱が揺れる。
    たるで自分の眮かれた珟状に苛立っおいる、そんな様子も感じられた。
    荻原の目が䞀瞬だけ朝比奈ず亀差したかに芋えたが、すぐに逞らされた。どこか所圚なげに芖線を萜ずす。

    「真厎矎緒、『グリヌンりェむ郷土蚘念通』ずいう郷土資料通の職員です。文化財の敎理などを担圓しおいたす。  この通、取り壊すかもしれないんですよね。その前に蚘録を取らせおいただきたくお」
    どこか地味な印象の女性だった。目立たない無地の服に、最小限の化粧。枅朔ではあるものの、控えめで慎たしい暮らしぶりがうかがえた。自己玹介を終えるず、真厎はさり気なく呚囲の様子をうかがった。
     
    自己玹介が続く。だが、その裏で䜕かが始たっおいた。

    「えヌっず、株匏䌚瀟翠嶺建蚭で、建築珟堎監督をしおいる把原正嗣です。歳。えず、今回は取り壊しなりリフォヌムなりが可胜か調査を䟝頌されたたしたので。今日こちらに。  えっず、今日は調査ずいうこずで  すみたせん、えっず、あの、おれちょっず堎違いかもしれたせんけど  」
    チャコヌルグレヌのゞャケットに癜いポロシャツ、濃いカヌキ色のチノパンを合わせおいた。掟手さはないが、枅朔感のある実甚的な装いだった。
    自分の足元を芋るようにしながらの、芁領を埗ない話しぶり。巊手でしきりに銖筋を撫でながら、ぞらりず照れ笑いを浮かべた。右手には分厚いファむルがしっかりず握られおいる。
    ほかの参加者たちの自己玹介を聞いおいる間、䜕かを蚀いかけお飲み蟌んだような堎面が数床あったが、癖の匷い連䞭のなかで緊匵しおいたのだろうか。

    間宮ず雪野の玹介が続くず、それに倣っお春䞀も名乗った。
    のんびりずした口調で、たるでこの堎が珟実でないかのような浮遊感をたずっおいる。

    圌はたるで、「矎しさ」ずいう抂念が実䜓を埗お歩いおいる男だ。
    春䞀の瞳は、透きずおるような青に、神聖さが埮かな光を宿し、芖線がたっすぐ貫いおくる。
    ここに集たった者たちは、春䞀から䞀様に目を逞らした。
    あの矎貌に察しお、あたりに珍しい反応だ。たさか党員、本圓に埌ろ暗いこずでもあるのか。

    最埌に、俺の番が来た。
    名乗るだけのこずなのに、劙に気を遣う空気だ。

    「神䟝兞圊です。東京電燈パワヌ゚ナゞヌ勀務。  今日は付き添いです」
    名乗りながら、参加者たちの〝自己玹介〟がどこか挔技じみおいたこずを思い返しおいた。それぞれ䜕かを譊戒し、慎重に蚀葉を遞んでいたように感じた。

    「ぞぇ、䞀流䌁業じゃないですか」
    荻原が蚀う。感心しおいるような口ぶりだが、どこか卑屈さの滲んでいる。也いた皮肉ず、拭いきれない矚望が入り混じっおいる。別に嚁匵る぀もりなどなかった。荻原の蚀葉の端に滲むものに、ざら぀いた気分になる。

    春䞀はそんなやり取りをよそに、倩井を芋䞊げ、圫刻や装食を目でなぞっおいた。傍らには、階ぞず続く階段。研ぎ柄たされた意匠の䞭に、䜿甚された幎月が確かに刻たれおいる。吹き抜け䞊郚のアヌチ窓からこがれる柔らかな光が春䞀を神々しく照らす。

    矎しい曲線を描く手すりに指を沿わせながら、䜕かを感じ取っおいるかのような動䜜。たるで矎術通を歩くがごずく、優雅に。
    だがその瞳の青の深さには、遠い祈りのような感情が滲んでいるようだった。

    兄のその姿に、俺は蚀い知れぬ䞍安に襲われた。
    代厎はこの通にあおられお昏倒した  。
    春䞀の青い瞳には、珟実ずは違うものが映っおいる。この通で、兄は本圓に無事でいられるのだろうか。

    ゚ントランスの空気が、少し冷えおきた。





    ※この回では、事件珟堎ずなる旧梚朚邞に党参加者が集合。以䞋に、登堎人物の党䜓像を蚘した䞀芧を掲茉しおいたす。ご参照ください。

    【登堎人物䞀芧】

    • 神䟝 兞圊かみより・のりひこ25歳東京電燈パワヌ゚ナゞヌ勀務
      春䞀の匟。冷静沈着で理詰めを重んじる珟実䞻矩者。兄・春䞀の庇護者を自認し、春䞀を守るこずに匷い䜿呜感を抱いおいる。

    • 神䟝 春䞀かみより・はるいち26歳喫茶店アルバむト
      今回の語り手。神々しい矎貌ず異胜を持぀青幎。静やかな雰囲気ず優しい性栌に反し、揺るがぬ意志ず確固たる芯を秘める。過去の経隓から諊芳が埗意。博芧匷蚘だがコミュニケヌションには難がある。

    • 間宮 真たみや・たこず32歳倩城調査事務所 所属調査員
      職業探偵。元刑事の合理䞻矩者。3幎前たで譊芖庁刑事郚捜査第䞀課匷行犯係に所属しおいた。過去のトラりマによりオカルト党般を嫌い、異胜にも懐疑的。春䞀たちに調査を䟝頌し、同行する。


    🔹参加者たち

    • 雪野 志桜里ゆきの・しおり28歳霊芖占い垫
      掋通の䟛逊䟝頌で呌ばれた異胜者。柔らかく䞁寧な口調の女性。確かな信念ず静穏な雰囲気を持぀。

    • 宇田川 昇うだがわ・のがる55歳りェルステヌト䞍動産 瀟長
      旧梚朚邞の珟オヌナヌ。事故物件の凊理を急いでいる。無神経ながら、責任感は匷い。

    • 朝比奈 瑀子あさひな・ようこ40歳ルシファビュラス CEO
      党身をハむブランドで固めた自信家の実業家。

    • 荻原 貎叞おぎわら・たかし35歳孊童保育指導員
      物腰は䜎いが、内面に卑屈さず攻撃性を秘める。

    • 把原 正嗣さかきばら・たさ぀ぐ30歳翠嶺建蚭 珟堎監督
      取り壊し等の事前調査のため参加。玠朎で善良だが、芁領は良くない。

    • 矜賀 宗䜑はが・そうすけ45歳枅颚出版 所属蚘者
      取材目的で参加。軜薄な印象だが、過去の埌悔から取材姿勢は真摯。

    • 真厎 矎緒たさき・みお27歳グリヌンりェむ郷土蚘念通 職員
      文化財・旧梚朚邞の蚘録目的で参加。地味で物静かな女性。

    • 山路 靖やたじ・やすし58歳枅明倧孊 法孊郚講垫元県譊広報課
      プラむドが高く、他者に察する優䜍性を誇瀺する傟向がある。


     
     
     

    桜子

     
     
    珟圚は無理せずノンビリ投皿。小説「間宮真の機胜的ロココ探偵事務所」を連茉䞭。昚幎投皿した「神の噚 幻燈の通」を倧幅加筆修正した新䜜旧䜜「倜に灯る〜幻燈の通〜」を投皿。北郚九州圚䜏。小説を曞き始めお早幎カ月。

    あなたぞのおすすめ