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【真説版】正皇戦記ジャスティカイザー|第9話 ソードが九の剣士

    第1章「託された正義編」全13話中 
    第9話 ソードが九の剣士
    ▶第1章マガジン

    宿場町の夜。

    束の間の休息を得ようとしていたユウキとリューヌの前に、
    ソード軍が現れる。

    街を踏みにじる宣告。
    怒りに飛び出すユウキ。
    そして、その前に立つリューヌ。

    月陰の刃が、夜気を裂く。

    二人が食堂を離れ、階段へ向かおうとした、その時だった。

    外から、悲鳴が上がった。

    ひとつではない。
    幾つもの声が、折り重なるように夜気を裂く。

    続いて響いたのは、騎馬の轟音だった。
    石畳を激しく打つ蹄の音が、
    宿場町の往来を揺らしながら一気に近づいてくる。

    ざわめいていた食堂の空気が凍りついた。

    卓を囲んでいた旅人たちが一斉に顔を上げ、
    店主が息を呑み、誰かが椅子を倒す音がした。

    次の瞬間、表の通りから叫び声が響き渡る。
    「そ、ソード軍だ!」

    その一声だけで、場の空気はひっくり返った。

    リューヌの目が鋭く細まる。
    ユウキも反射的に戸口の方を見た。

    外ではすでに、人々が左右へ割れるように退き始めていた。

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    騎馬隊が土煙を巻き上げながら街へなだれ込み、
    整然とした速度のまま通りを制圧していく。

    ただ速いだけではない。
    隊列は少しも乱れない。

    先頭が止まれば後続もぴたりと止まり、
    左右に展開する者たちも無駄な動きひとつ見せず、持ち場へ散っていく。

    訓練された軍勢だった。

    しかもそれは、ただの兵ではない。
    街の空気を呑み込み、恐怖そのものを配置していくような動きだった。

    やがて、静まり返った通りの中央へ、一人の男が進み出た。

    長身。

    他のソード兵たちと同じ系統の武装でありながら、
    その鎧だけが明らかに異質だった。

    鋭利さと重厚さを併せ持つその装いは、兵の一人ではなく、
    群れの頂に立つ者だけが許される威圧を纏っている。

    背には長大な両手剣。
    腰には、形も長さも異なる複数の鞘。
    腕の内側、背の裏、腿の側面にまで、細い刃の気配が隠れている。

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    いくつもの武器を身に帯びながら、それらは少しも雑然としていなかった。

    まるで男の身体そのものが、ひとつの武器庫であるかのようだった。
    そして、その武器庫に眠る刃のすべてが、
    抜かれるべき瞬間を知っているようでもあった。

    ただ立っているだけで、周囲の兵たちの緊張が
    ひとつに束ねられていくのが分かった。

    男は宿場町を見渡し、腹の底から響く声で告げた。

    「聞けぃ!」

    その怒声は、夜の町を叩き割るように広がった。

    「この街は、我らが御大将カネサダ様の治める地となった!」
    「逆らう者には容赦はせん!」
    「大人しく服従してもらおう!!」

    凍りつく住人たち。
    息を潜める旅人たち。

    ついさっきまで商いと食事の熱に包まれていた宿場町が、
    一瞬で支配の影に沈んでいく。

    戸口の陰からその様子を見ていたユウキとリューヌは、
    無言のまま顔を見合わせた。

    聖都の噂。
    ジンライの安否。
    何も出来ぬまま飲み込んだ温かい汁物の味。

    胸の奥に押し込めていたものが、ユウキの中で音を立てて軋む。

    戻れない。
    確かめられない。
    ただ逃げるように進むしかない。

    その苦さを、ようやく飲み下そうとしていたところだった。

    そこへ、この宣告。

    誰かの町を、誰かの暮らしを、ただ力で踏みつける声。
    ユウキの拳が、ぎり、と鳴った。
    その一瞬の後――。

    ユウキが走り出していた。

    「――ユウキ!」

    リューヌの声が飛ぶ。

    「待ちなさい、ユウキ!」

    だが、その声はもう届かない。
    胸の内で燻り続けていた怒りも、焦りも、悔しさも。

    聖都から逃れるように南へ迂回し、
    何も出来ぬまま噂だけを聞かされてきた鬱屈も。

    そのすべてが、今この横暴な宣告を前にして一気に噴き上がったのだ。
    ユウキは宿の扉を乱暴に押し開けると、そのまま往来へ飛び出した。

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    「いきなり出てきて、勝手な事言ってんじゃねー!」

    怒声が、夜の通りに響いた。

    一斉に視線が集まる。

    兵たちの殺気。
    住人たちの怯え。
    旅人たちの息を呑む気配。

    その中心に、ユウキはたった一人で立っていた。
    長身の男が、ゆっくりと視線を落とす。

    「……なんだ、貴様」

    声音は低い。

    だが、その奥にはすでに斬る事を前提とした冷たさがあった。

    「反抗する者には容赦せんぞ?」

    その言葉と同時に、周囲のソード兵たちが一斉に武器を向けた。

    槍の切っ先。
    抜き放たれた剣。
    月明かりと灯火を受けて、鋼が一斉に鈍く光る。

    その後方から、リューヌがようやく追いついてくる。

    彼女はユウキの背を見た瞬間、ほんのわずかに眉根を寄せた。
    呆れとも、焦りともつかぬ色がその眼に過ぎる。

    「猪バカ……」

    小さく吐き捨てた声には、苛立ちと、
    どうしようもない心配が混じっていた。

    だが、それも一瞬だった。

    次の瞬間には、もう余計な感情は消えている。

    冷えた刃のような眼差しだけを残して、
    リューヌは静かに歩み出した。

    兵のうち三人が前へ出る。

    「取り押さえろ!」
    「生かしたまま引きずれ!」
    「見せしめにしてやる!」

    三人が一気に距離を詰める。

    だが、ユウキもただ立っていたわけではない。

    「うおおっ!!」

    踏み込む。
    拳が走る。

    先頭の兵の腹部へ、真正面から叩き込まれた一撃が炸裂した。

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    「ふんっ!」
    ユウキが震脚を踏み鳴らす。
    ーー発勁はっけい。

    鈍い音とともに、その兵の身体が後方へ吹き飛ぶ。
    ソード兵は、まるで糸の切れた人形のように地へ転がり、
    そのまま動かなくなった。

    残る二人がひるむ。
    その隙を逃さず、ユウキは返す拳と蹴りでさらに押し返した。

    だが、そこまでだった。

    今の一撃は、虚を突いたから通った。
    奇襲に近い勢いがあったからこそ崩せた。

    相手もすぐに態勢を立て直す。

    「貴様……!」
    「囲め!」

    今度は複数のソード兵が一斉に動いた。

    左右から。
    正面から。

    間合いも呼吸も合わせたまま、獲物を囲い込むように迫ってくる。

    ユウキの喉が詰まる。
    数が違う。
    しかも、今度の相手には油断がない。

    刃が走る。
    槍先が迫る。
    避けきれない。

    危機が、その身へ覆いかぶさろうとした刹那――。

    ユウキの後方から、何かが飛んだ。
    ひゅん、と空気を裂く鋭い音。

    一枚。

    二枚。

    三枚。

    数枚の符が、高速で夜気を貫き、
    襲いかかっていたソード兵たちの身体へ次々と貼り付いた。

    「なっ――」
    「これは……!?」

    驚愕の声が上がる。
    同時に、ユウキの視界の前へ、ひとつの影が滑り込んだ。

    リューヌだった。

    片膝をついた低い姿勢。
    鞘走る寸前の静けさ。

    抜刀のために全身の力を一点へ集めた、研ぎ澄まされた構え。

    その姿が見えた、と思った次の瞬間には、もう光が走っていた。
    月光を散らしたような細い閃きが、幾筋も夜気の中へ咲く。

    音は遅れてやってきた。

    一拍遅れて、ヒュン、ヒュン、と鋭い風切り音が重なる。

    それは剣が走った軌跡でありながら、あまりにも速すぎて、
    斬られた側には何本の太刀筋だったのかすら分からぬ速さだった。

    世界が、一瞬だけ止まったように見えた。

    兵たちの動きが止まる。
    剣を振り上げたまま。
    槍を突き出しかけたまま。

    誰もが、何が起きたのか理解できぬ顔で立ち尽くしていた。

    そして次の瞬間、力が抜ける。

    がくり、と。

    一人、また一人と、糸の切れたように膝を折り、
    そのまま石畳へ倒れ込んでいった。

    ユウキは息を呑んだまま、その背を見つめる。

    リューヌはなお片膝をついたまま、ゆっくりと刀を納める。
    かすかな鍔鳴りの金属音が夜の中へ溶けていった。

    そして静かに、呟く。

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    「月陰流抜刀術つきかげりゅうばっとうじゅつ……梅花閃おうかせん……」

    その声は、風に触れれば消えてしまいそうなほど淡かった。

    だが、倒れ伏した兵たちが、
    その斬撃が現実であった事を何より雄弁に物語っていた。

    倒れ伏したソード兵たちの前へ、長身の男がゆっくりと進み出た。
    その歩みに無駄はない。

    怒りに任せて踏み出すのではなく、
    勝敗など最初から定まっていると言わんばかりの静けさを纏っている。

    倒れた部下たちに目をくれるでもなく、男はただ、リューヌだけを見た。

    「ほう……」

    低く漏れた声には、わずかな感心が混じっていた。

    「その太刀筋……」

    男の目が細まる。

    「貴様、正義の大アルカナの従者――リューヌだな?」

    リューヌは答えなかった。

    ただ一瞬だけ、睫毛が揺れる。
    その沈黙だけで十分だった。
    隠し通せる段階では、もうない。

    ここで名を当てられた時点で、追っ手はただの制圧部隊ではなく、
    狙いを定めて来たのだと知れた。

    逃げる事はできない。

    その現実だけが、冷たく胸の底へ落ちていく。
    長身の男は、そんなリューヌの沈黙を肯定と受け取ったらしい。
    口元をわずかに吊り上げると、あえて聞かせるように名乗った。

    「我はソードが九の剣士、ゼツ」

    その名が夜気を打つ。

    周囲のソード兵たちの間に、ぴり、と緊張が走った。
    それは尊敬でも恐怖でもあり、同時に絶対の序列への服従でもあった。
    この場にいる兵たちにとって、その男はただの指揮官ではない。

    剣として選び抜かれた頂点の一角。

    そういう存在なのだと、名乗りひとつで分かった。

    「ここで我に会ったのが運の尽きよ」
    「大人しく、その命と正皇剣を渡してもらおうか?」

    冷え切った宣告だった。
    そこには交渉の余地も、慈悲もない。
    従えば斬らぬと言っているのですらない。

    命も剣も、ただ差し出せと告げているだけだ。

    「……断るわ」

    先に答えたのはリューヌだった。

    声は低く、静かだった。

    だが、その静けさの底にある拒絶は鋼より硬い。

    「誰がテメェなんかに!」

    間髪入れず、ユウキも吠える。
    その怒声に、周囲の住人や旅人たちがびくりと肩を震わせた。

    誰もが息を潜め、固唾を呑んで見守っている。

    子どもを抱き寄せる母親。
    戸口の陰に身を隠す商人。
    酒杯を握ったまま動けない旅人。

    宿場町じゅうが、今やこの往来の一点に縫い止められていた。
    ゼツは二人の言葉を聞いても、怒りもあらわにしなかった。

    ただ、不敵に笑った。
    その笑みは余裕から来るものだった。
    相手の抵抗すら、己の力を示す前座にすぎぬと知る者の笑み。

    「その強がりが、どこまでも通用すると思うなよ?」

    声が低く落ちる。

    「これから貴様らは、どうしようもない実力差というものを味わう事になる……」

    その言葉には誇張がなかった。
    脅しでも虚勢でもない。

    事実だけを告げる、冷酷な確信だった。
    ユウキが歯を食いしばる。

    目の前の男から放たれる圧は、
    先ほどまでのソード兵とは明らかに別物だった。

    同じ人間の形をしているのに、
    まるでこちらの呼吸ごと呑み込むような重さがある。

    それでも、ここで退けば終わる。
    そう思った瞬間には、もう足が開いていた。

    構えを取る。

    だが、その前へ、すっと一つの影が割り込んだ。

    「ユウキ、下がっていなさい」

    リューヌだった。

    彼女はゼツの正面へ一歩進み出る。
    その背は細く見えるのに、不思議と揺らがない。

    「あなたの敵う相手じゃないわ」
    「なに!?」

    ユウキが思わず声を荒げる。
    自分が足手まといだと言われたようで、胸の奥が一気に熱くなった。

    だがリューヌは振り返らない。

    「言うことを聞きなさい」

    ぴしゃり、と。

    刃のような一言がユウキの言葉を断ち切った。
    そこには議論の余地すらなかった。
    感情で返していい声音ではない。

    従うか、黙るか、その二つしか許さぬ響きだった。

    ユウキの喉が詰まる。
    悔しさに拳が震える。

    反発したい。
    前へ出たい。
    だが、その背中を見た瞬間、それ以上言葉をぶつける事が出来なかった。

    リューヌもまた、追い詰められている。
    その上で、なお自分を守ろうとしている。

    それだけは嫌でも分かった。

    ーーここでユウキを死なせる訳にはいかない。

    リューヌは静かに息を落とした。

    ーージンライ様のためにも。

    その想いだけを胸の奥で鋭く結び、そっと刀の柄へ手をかける。
    鞘の内に眠る刃が、わずかに気配を返す。
    それだけで周囲の空気がひやりと冷えた。

    月陰流つきかげりゅう。

    それは気迫をぶつける剣ではない。
    音も、殺気も、呼吸すら消し、
    相手の認識の隙へ刃を滑り込ませるための剣。

    だが今、リューヌが向き合っているのは、
    そうした技だけで揺らぐ相手ではない。

    ゼツは笑みを崩さぬまま、彼女の手元を見ていた。
    まるで、どこまで見せてくれるのか試しているかのように。

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    往来の中央、二人のあいだに沈黙が落ちる。

    遠くで馬が鼻を鳴らす。
    誰かが息を呑む。
    夜風が石畳の上を撫で、倒れた兵の衣をわずかに揺らした。

    そのすべてが、次の一瞬のために息を潜めているようだった。

    往来の中央。
    ゼツとリューヌが、静かに向き合っていた。
    夜風が二人のあいだを吹き抜ける。
    だが、そのわずかな風音さえ、この場では妙に遠い。

    周囲を取り巻く住人も旅人も、誰ひとりとして声を立てない。
    息を潜め、ただ見守るしかない。
    それほどまでに、二人のあいだに張り詰めたものは濃かった。

    その後ろで、ユウキは歯を食いしばっていた。

    前へ出たい。
    だが、出れば邪魔になる。

    リューヌの言葉も、その背中の緊張も、
    それを嫌というほど告げていた。

    悔しさに、拳が震える。
    何も出来ず見ているしかない自分が、ひどく情けなかった。

    先に仕掛けたのは、リューヌだった。
    鞘へ添えられていた手が、わずかに動く。

    抜刀――そう見えた、その瞬間。

    彼女の指先から、六枚の符が解き放たれた。
    ひゅっ、と鋭い音を立てて飛んだ符は、一直線ではなかった。

    夜気の中で細かく軌道を変えながら、ゼツの周囲を包み込むように散る。

    一枚が正面へ。

    一枚が背後へ。

    残る四枚が、左右と斜めへ。

    そして次の瞬間、六枚の符が同時に地へ突き立った。

    ぱん、と乾いた音が重なる。
    地面に刻まれた六つの起点から、淡い光が一気に走った。

    線が線を呼び、円を描き、六角の陣を閉じる。
    空気そのものが震え、ゼツを中心に目に見えぬ壁が立ち上がる。

    結界。

    動きを封じるための、月陰流符術つきかげりゅうふじゅつ。

    それが完成するのと、リューヌが駆けたのはほとんど同時だった。

    地を蹴る。
    影が滑る。
    一息で間合いを詰める。

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    「月陰流抜刀術――六花閃りっかせん!」

    凛とした声が、夜気を裂く。
    符で縛り、その隙に抜く。
    それは月陰流の理に適った、完璧な連携だった。

    結界は閉じていた。
    刃は走っていた。
    この一瞬だけなら、リューヌの間合いだった。

    ――そのはずだった。

    結界のただ中で、ゼツが笑っていた。
    不気味なほど静かな笑みだった。

    「月陰流……だったか」

    その声音に、リューヌの背筋がぞくりと冷える。

    あり得ない。
    結界は確かに張られた。
    六枚の符は過たず起点を結び、ゼツを囲んだはずだった。

    だが、次の瞬間、その答えが見えた。

    ゼツの両手には、見たこともない短刀が握られていた。

    いつ抜いたのか。
    いつ握ったのか。
    それすら分からぬほど自然に、その刃は彼の手にあった。

    そして足元に落ちていたのは、
    先ほどまで結界を成していたはずの符の切れ端だった。

    斬られていたのだ。

    結界が完成したように見えた、その一瞬のうちに。
    ゼツは短刀で、符そのものを切り払っていた。

    「――っ!?」

    リューヌの呼吸が乱れる。
    その刹那、ゼツが動いた。

    両手の短刀が閃き、次の瞬間にはそれがそのまま飛んでいた。
    二条の鋭い光が、一直線にリューヌへ迫る。

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    反応は間に合った。
    だが、それで終わりではない。

    ゼツ自身もまた、短刀を投げたその瞬間にはもう地を蹴っていた。
    こちらが防ぐ、その一瞬の硬直ごと食うために。
    投擲も、接近も、すべてが一体だった。

    リューヌは咄嗟に刀を抜く。

    月光を弾く刃が一閃し、飛来した短刀を薙ぎ払う。
    甲高い金属音が散り、短刀が石畳へ弾かれて転がる。

    だが、ゼツはもう目の前にいた。
    その手には、すでに別の刃がある。

    鎌形の剣。

    それを肩口で遊ばせるように構えたまま、ゼツは嗤う。

    「鞘に戻せぬ抜刀術など、死に剣よ」

    次の瞬間、鎌形の刃が唸りを上げて振るわれた。
    斬撃が襲う。

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    鋭く、重く、しかも軌道が読みにくい。
    まるで刃そのものが生き物のようにうねり、真っ直ぐな受けを許さない。
    リューヌはかろうじて刀を差し込み、それを受け流す。

    火花が散る。
    腕が痺れる。

    「くっ――!」
    一撃で終わらない。

    ゼツは間を与えなかった。

    「受けるだけか」

    低く落ちた声とともに、次々と斬撃が降る。

    右。
    左。

    足元を払う低い斬撃。
    頭上から叩き込む重い一撃。

    鎌形の軌道が変幻し、受ければ体勢が崩れ、捌けば次の刃が待っている。

    「月陰流とは、その程度か」

    刃が、さらに深く踏み込んでくる。
    リューヌは防ぐので精一杯だった。

    月陰流抜刀術は、抜く瞬間にこそ真価を発揮する。
    だが今は、その“抜く間”そのものを奪われている。

    刃を納める隙がない。
    呼吸を整える隙もない。
    ただ押されるまま、受けて、捌いて、凌ぐしかない。

    「くっ……!」

    リューヌの足がずるりと滑る。
    押されている。
    誰の目にも、それは明らかだった。

    「リューヌ!!」

    後ろでユウキが叫ぶ。

    だが、その声が届く頃には、ゼツはさらに次の手へ移っていた。
    ふいに鎌形の剣を石畳へ突き立てる。

    「……!?」

    ーー何をする気!?

    そう思った時には、もう遅い。
    ゼツの背から、長大な両手剣が抜き放たれていた。

    まるで居合抜きのような滑らかさだった。
    背負った大剣を、あそこまで静かに、
    あそこまで速く抜くなど、普通はあり得ない。

    だがゼツはやってのける。

    鞘から解き放たれた凶悪な重量が、そのままリューヌへ叩きつけられた。
    轟、と空気が鳴る。
    リューヌは咄嗟に刀を差し上げる。

    だが、受けきれない。

    鈍い激突音とともに、その身体が大きく吹き飛んだ。

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    「――ぁっ!」

    石畳の上を転がり、数度跳ね、ようやく止まる。

    衝撃で息が詰まる。
    指先が痺れ、刀を取り落としかける。
    胸の奥で、さっきまでの斬撃とは別種の重さが鈍く疼いた。

    ゼツはゆっくりと大剣を肩へ担ぎ、喉の奥で笑う。

    「抜刀術が使えるのは、貴様だけではないぞ?」

    その笑みは、獲物を追い詰めた喜びに満ちていた。

    「ふふふ……」

    夜の宿場町に、その笑いが低く、不気味に広がっていく。

    力だけでは、届かない。
    怒りだけでは、守れない。

    圧倒的な実力差の前に、ユウキは何を掴むのか。

    ソード九の剣士ゼツ。
    その刃が、二人を追い詰める。

    次回【真説版】正皇戦記ジャスティカイザー 第10話
    ――黒き聖骸――

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    あび

     
     
    ゲーム会社勤務。企画・演出・エフェクト担当。漫画、アニメ、変身ヒーロー、和風ファンタジー、剣道、必殺技演出が大好き。30年温めた『正皇戦記ジャスティカイザー』を真説版として投稿中。

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