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【真説版】正皇戊蚘ゞャスティカむザヌ第5話 瀑垃の朝

    第1章「蚗された正矩線」党13話䞭 
    第5話 瀑垃の朝
    ▶第1章マガゞン

    カネサダが゜り゚むを斬った翌朝。

    倧瀑垃の修行堎で、䞀人の青幎が鍛錬に励んでいた。

    垫を远い、拳を磚くナりキ。

    しかし、䞍穏の足音は確かに、そしお静かに圌のもずぞ近づいおいた。

    翌朝。

    山々には、ただ朝靄が薄く残っおいた。

    谷あいを瞫うように流れる现い氎脈は、やがお幟筋も重なり合い、
    ひず぀の倧河ずなっお断厖を萜ちおいく。

    蜟々ず響く倧瀑垃の䞋。

    飛沫に濡れた岩堎の䞀角に、その修行堎はあった。

    青幎がひずり、立っおいる。
    目を閉じたたた、埮動だにしない。
    瀑垃の音も、吹き぀ける颚も、その身を揺らせはしなかった。

    やがお、双眞が鋭く開く。

    次の瞬間、拳が走った。
    空を裂く。
    足が螏み蟌む。

    岩肌を打぀たび氎が跳ね、汗が飛び、熱を垯びた身䜓から癜く湯気が立぀。

    ひず぀。
    たたひず぀。
    型は途切れず続いおいく。

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    荒い。

    だが、真っ盎ぐだった。
    迷いはない。

    ただ、その拳は少しばかり前ぞ出すぎおいた。

    「  ただただね」

    氎音に溶けるような、小さな声だった。
    だが青幎は、その声を聞いお、ぎたりず動きを止めた。

    「そんなずこで芋おないで降りおこいよ」

    瀑垃の脇。
    匵り出した岩の䞊に腰掛けおいた女が、ふうず息を぀く。

    次の瞬間、その姿が揺れた。

    ひらり、ず。
    音もなく、青幎の傍らぞ降り立぀。

    朝日を受けた長い銀髪が、瀑垃から吹き䞋ろす颚にさらりず流れた。

    「力みすぎよ、ナりキ」

    女は青幎の姿を䞊から䞋たで䞀瞥し、淡々ず蚀う。

    「螏み蟌みも半歩遅いわ」

    ナりキはあからさたに顔をしかめた。

    「うるせぇなぁ」

    肩越しに睚み぀ける。

    「お前なんお芋おるだけだろ、リュヌヌ」

    そう蚀いながら、次の瞬間にはもう拳が走っおいた。

    先ほどより、わずかに鋭い。
    螏み蟌みも半歩だけ深い。

    その倉化を芋お、リュヌヌの口元がにやりず歪む。

    「ふふ。やればできるじゃない」
    「だから、うるせぇっおの」

    ナりキは吐き捚おるように蚀った。

    「お姉さんぶるんじゃねぇよ」
    「事実、お姉さんみたいなものだもの」
    「どこが」

    そのやり取りの最䞭だった。

    ふいに、空気が倉わった。
    瀑垃の蜟きは倉わらない。

    朝靄も、岩を濡らす飛沫も、䜕ひず぀倉わっおはいないはずなのに、
    そこぞ䞀本、冷たい線が匕かれたようだった。

    ナりキが動きを止める。
    リュヌヌもたた、笑みを消した。

    二人の前に、い぀の間にかひずりの男が立っおいた。

    癜いものの混じった髪。
    削り出した岩のように静かな顔。

    無造䜜に立っおいるだけなのに、その堎の氎の音も颚も、
    すべおが圌の茪郭を避けお流れおいくように芋える。

    「粟が出るな、ナりキ」

    䜎い声だった。
    その声を聞いた途端、ナりキの顔がぱっず明るくなる。

    「おはようございたす 垫匠」

    察照的に、リュヌヌはすぐさた居䜏たいを正した。
    胞に手を添え、深く䞀瀌する。

    「おはようございたす、ゞンラむ様」
    「うむ」

    ゞンラむは短く頷いた。

    それだけの仕草なのに、䞍思議ず堎が締たる。

    瀑垃の癜い飛沫が、朝日に照らされお现かな光を散らしおいた。
    そのきらめきの向こうで、ゞンラむがナりキを芋る。

    「どれ」

    静かな声音だった。

    「䞀手、付き合っおやろう。来い、ナりキ」

    䞀瞬、ナりキの目が子どもみたいに茝いた。

    「はい お願いしたす、垫匠」

    その声には、隠しようもない喜びが混じっおいた。

    リュヌヌが䞀歩、埌ろぞ䞋がる。
    唇の端が、少しだけ䞊がった。

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    「良かったわねヌ、ナりキ ゞンラむ様がお盞手しおくださるっお」
    「うるせヌ」

    ナりキは耳のあたりたで少し赀くしお、ぶっきらがうに吐き捚おた。

    「䞋がっおろ。怪我すんぞ、リュヌヌ」

    リュヌヌは肩を竊める。

    「蚀うじゃないの」

    そう蚀っお、さらに䞀歩退いた。
    あたりを満たすのは、もう瀑垃の音だけだった。

    ナりキが構える。
    拳を匕き、重心を萜ずす。
    さっきたでの軜口は、その背䞭から消えおいた。

    向かいに立぀ゞンラむは、䜕も構えなかった。

    腕も䞊げない。
    腰も萜ずさない。
    ただ、そこに立っおいる。

    それだけだった。

    なのに、遠い。
    䞀歩で届くはずの間合いが、劙に遠く感じられた。

    ヌヌさすが垫匠  だけど
    ヌヌ行くぜっ

    ナりキが地を蹎る。
    岩を打぀足音が短く響いた。
    次の瞬間には、拳が真っ盎ぐゞンラむの胞元ぞ走っおいる。

    速い。

    だが、届かない。

    ゞンラむの身䜓が、ほんのわずかにずれた。

    それだけだった。

    ヌヌ

    拳は䜕も捉えず、空を切る。
    したった、ず思うより早く。

    ゞンラむの巊手が、すでにナりキの胞元にあった。

    觊れた、ず思った次の瞬間、身䜓の芯に鈍い衝撃が沈み蟌む。
    息が詰たる。
    膝から力が抜け、ナりキはその堎に厩れ萜ちた。

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    「ガハッ」
    䜕が起きたのか分からない。

    ただ、芖界がぐらりず揺れた。
    埌ろで、くすり、ず小さな笑い声がした。

    ナりキが顔を䞊げる。
    リュヌヌが、いかにも可笑しそうに芋䞋ろしおいた。

    「ただただ  もう䞀本」

    悔しさに、声が掠れる。
    ゞンラむは、ほんのわずかに目を现めた。

    「来い」

    二床目の螏み蟌みは深かった。

    さっきよりも鋭い。
    速さもある。
    ナりキ自身、今床は届くず信じおいた。

    ヌヌこれでどうだ

    だが。

    やはり届かない。

    拳はたた空を裂き、その次にはもう、地面が背䞭を打っおいた。

    気づけば仰向けに倒れおいる。
    癜い飛沫が空を流れおいく。

    息が荒い。
    肺が熱い。

    その䞊から、ゞンラむの声が萜ちおきた。

    「力が前に出すぎだ、ナりキ」

    ナりキは息を切らしながら、なおも睚むように垫を芋䞊げる。

    ゞンラむは静かに蚀った。

    「勝ずうずするな」

    短く、間を眮く。

    「通せ」

    意味は分からない。
    分からないたた、その蚀葉だけが胞に刺さる。

    「ほらね」

    埌ろから、たたあの声が飛んだ。

    「蚀ったでしょう 力みすぎだっお」

    ナりキは膝を立お、拳を軜く岩ぞ打ち぀ける。

    「ちくしょう  」

    悔しさが、そのたた挏れた声だった。
    それでも立ち䞊がる。
    濡れた前髪をかき䞊げ、息を敎えながら、ナりキは吐き捚おる。

    「  ただただ修行が足りおねぇ」

    「ゞンラむ様に远い぀こうなんお、ナりキじゃ千幎経っおも無理よ」

    リュヌヌが笑う。

    「うるせぇヌ」

    すぐさた返るその声に、ゞンラむの口元がごくわずかに緩んだ。

    その時だった。

    遠くで、地を叩く音がした。

    最初は瀑垃の響きに玛れおいたそれが、みるみるうちに近づいおくる。
    岩を震わせるような、切迫した蹄の音。

    䞉人が䞀斉に顔を䞊げた。

    朝靄を切り裂くように、早銬が駆けおくる。

    銬䞊の男は前のめりになり、ほずんど萜ちそうな勢いのたた、
    喉を匵り裂けんばかりに叫んでいた。

    「ゞンラむ様――――」

    銬はほずんど倒れ蟌むようにしお、修行堎の手前で止たった。

    次の瞬間、䌝什の男が鞍から転げ萜ちる。

    受け身を取る䜙力すらなかったのだろう。
    泥ず飛沫を跳ね䞊げながら岩堎に叩き぀けられ、
    そのたたしばらく動かなかった。

    ナりキずリュヌヌは、䜕が起きたのか理解できず、その堎で息を呑む。

    䌝什は、ひどい有様だった。

    鎧はあちこち砕け、継ぎ目は裂け、そこから滲んだ血が泥ず混じっお
    黒くこびり぀いおいる。

    肩口は抉れたように割れ、脚を匕きずるようにしお、
    どうにか立ち䞊がろうずしおはたた膝を぀いた。

    ゞンラむがすぐに歩み寄る。

    濡れた岩堎に膝を぀き、䌝什の肩を抱いお身䜓を支える。
    その目は、すでに只事ではないず悟っおいた。

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    「䜕事か」

    䜎く、鋭い声だった。

    䌝什は口を開く。
    だが、喉が朰れたように空気が挏れるだけで、蚀葉にならない。

    かすれた呌吞。
    震える肩。
    血に濡れた唇。

    芋かねたリュヌヌが駆け寄った。
    腰の薬嚢やくのうから小さな瓶を取り出し、
    膝を぀いお䌝什ぞ差し出す。

    「これを飲んで」

    䌝什は震える手でそれを受け取るず、半ばこがすようにしお
    喉ぞ流し蟌んだ。

    しばしの沈黙が萜ちる。
    瀑垃の音だけが、やけに倧きく響いおいた。

    やがお、荒れおいた呌吞がわずかに敎う。
    䌝什の喉がひず぀䞊䞋し、ようやく蚀葉が抌し出された。

    「゜り゚む様が  」

    その䞀蚀で、空気が凍る。
    䌝什は血の滲む唇を震わせながら、続けた。

    「蚎たれたした  」
    「聖郜は  陥萜  」
    「銖謀者は  力の倧アルカナ  神嚁かむいの  カネサダ  」

    そこで䞀床、息が詰たる。
    だが、それでもなお、䌝什は絞り出すように叫んだ。

    「  カネサダの、謀反です」

    ナりキの目が倧きく芋開かれる。
    リュヌヌもたた、息をするこずすら忘れたように立ち尜くしおいた。

    ゞンラむだけが、䜕も蚀わなかった。
    ただ、ゆっくりず顔を䞊げる。

    その芖線の先――はるか遠く、聖郜のある方角の空に、
    黒い煙が立ち昇り始めおいた。

    朝の光の䞭でも、それははっきりず分かるほど濃く、重く、空を汚しおいた。

    ゞンラむの唇が、かすかに動く。

    「  たさか  」

    その声音には、驚きよりも深いものがあった。

    「カネサダが  」

    ゞンラむの芖線は、なお遠い黒煙を捉えたたただった。

    だが、その目が芋おいるのは、もはや燃え䞊がる聖郜ではなかった。
    脳裏に浮かんだのは、ただ若かった頃のカネサダだった。

    ◇

    ゜ヌド。

    皇囜軍最前線に立぀神嚁の粟鋭たち。
    その䞭で、誰よりも早く敵陣ぞ螏み蟌む若い剣士がいた。

    カネサダだった。

    あの日も、戊堎は荒れおいた。
    怒号が飛び亀い、土煙が舞い、刃ず刃がぶ぀かる音が
    絶え間なく響いおいる。
    抌し蟌たれた前線は厩れかけ、味方の悲鳎があちこちで䞊がっおいた。

    その時、ひず぀の圱が真っ先に敵陣ぞ飛び蟌んだ。

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    若き日のカネサダだった。

    迷いがなかった。
    躊躇もなかった。
    ただ真っ盎ぐに、最も危うい堎所ぞ斬り蟌んでいく。

    振るわれる刃は鋭く、速く、重い。
    敵兵がひずり、たたひずりず薙ぎ払われる。

    その背に抌されるように、味方が前ぞ出る。
    厩れかけおいた陣は持ち盎し、抌し蟌たれおいた兵たちは息を吹き返した。

    だが、螏み蟌みが深すぎた。

    気づけば、カネサダは敵䞭にいた。

    四方から刃が迫る。
    退路は狭たり、味方の姿は遠い。
    それでも、若いカネサダは退かなかった。

    なおも前ぞ出ようずした、その時だった。

    空気が倉わった。

    ざわめく戊堎の只䞭に、ひず筋の静けさが走る。
    次の瞬間、癜い光が閃いた。
    敵兵の包囲が、裂けた。

    その光の䞭心に、ゞンラむが立っおいた。

    正矩の倧アルカナ継承者。

    ただ匷いだけではない。

    その䞀歩には、乱れた戊堎の流れそのものを断ち切り、
    進むべき道だけをたっすぐ通すような力があった。

    振るわれる技に無駄はない。
    荒々しさではなく、研ぎ柄たされた理がそこにあった。

    敵意だけを断ち、味方の退路だけを開き、厩れた陣ぞ呌吞を取り戻させる。

    気づけば、カネサダの前には道ができおいた。

    「䞋がれ、カネサダ」

    䜎い声だった。

    だが若いカネサダは、なおも食い䞋がる。

    「ただ抌せたす」

    その目には熱があった。

    匷くなければ守れない。
    前ぞ出なければ救えない。

    そう信じお疑わぬ目だった。

    ゞンラむは、戊堎の向こうを芋据えたたた短く蚀う。

    「生きお戻れぬ匷さに、䜕の意味がある」

    その蚀葉に、若きカネサダの眉がわずかに動いた。

    玍埗したわけではない。
    むしろ、胞の奥で䜕かが反発した。

    生きお戻るために退くのなら、その間に誰が倒れる。
    自分が螏み蟌たねば、誰が道を開く

    そう蚀い返したかった。

    だが、ゞンラむはもう若きカネサダを芋おいなかった。

    厩れかけた陣の流れを読み、敵の刃がどこぞ集たり、
    味方がどこで息を倱いかけおいるかを、ただ静かに芋おいた。

    次の瞬間、ゞンラむが䞀歩を螏み出す。

    それだけで、戊堎の流れが倉わった。

    抌し蟌むのではない。
    斬り䌏せるのでもない。
    味方が退くための道だけが、たっすぐに開いおいく。

    カネサダは歯を食いしばった。
    その背を芋ながら、なおも倪刀を握る手に力を蟌める。

    匷くなければ守れない。

    そう信じおいた。

    だが、目の前の男は、匷さだけではない䜕かで戊堎を動かしおいた。

    ◇

    戊の埌。

    匕き䞊げおきたカネサダの肩口は深く裂け、腕にはただ新しい血が流れおいた。
    それでも本人は気にも留めぬ顔で、黙々ず刃の血を拭っおいた。

    その背に、ゞンラむが声をかける。

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    「  無茶が過ぎる」

    振り返ったカネサダは、ただ若かった。
    今のような静かな底知れなさではない。
    剥き出しの熱が、そのたた人の圢を成しおいるような頃だった。

    「あそこで螏み蟌たねば、味方がやられおいたした」

    短い返答だった。
    だが、その目には迷いがなかった。

    「匷くなければ、守れたせぬ」

    背䌞びでも、匷がりでもなかった。

    あの時のカネサダは、本気でそう信じおいた。

    ゞンラむはしばし黙った。
    若いその県差しを、静かに芋぀める。

    「  では、匷さずは䜕だ」

    その問いに、カネサダはすぐには答えなかった。

    答えられなかった。

    だが、抌し黙ったたたでは終わらない男だった。

    「では」

    食い䞋がるように、たっすぐ問う。

    「では、貎方の持぀正矩の力は、䜕を守るのです」

    その蚀葉に、ゞンラむはわずかに目を现めた。

    遠くではただ戊の残響が鳎っおいた。
    颚には血の匂いが混じっおいる。

    ゞンラむは、すぐには答えなかった。

    やがお、静かに口を開く。

    「守るべきものを、芋倱わぬための力だ」

    カネサダの眉が寄る。

    「曖昧ですな」
    「そうだ」

    ゞンラむは吊定しなかった。

    「正矩ずは、最初から答えが䞎えられおいるものではない」
    「だからこそ、問い続けねばならん」

    若き日のカネサダは、䜕も蚀わなかった。
    ただ、血の぀いた拳を匷く握りしめおいた。

    匷くあろうずするあたり、匷さそのものに呑たれかねない目だった。
    その危うさを、ゞンラむはあの頃から芋おいた。

    だが同時に、その真っ盎ぐさも知っおいた。

    守りたいものがあるからこそ、誰よりも前ぞ出る男だったこずも。
    あの時の問いに、あい぀はずっず答えを探し続けおいたのかもしれない。

    そしお、その果おに蟿り着いた先が――。

    「  カネサダが、謀反  」

    ゞンラむは䜎く呟いた。

    朝の光の䞭、遠く昇る黒煙はなお空を汚しおいた。

    そのさらに向こう。

    遠く、別の煙が䞊がっおいた。

    匷くなければ、守れない。
    守るために、匷くあらねばならない。

    若き日のカネサダは、そう信じお疑わなかった。

    だが、ゞンラむの胞に去来するものは䜕か。

    次回【真説版】正皇戊蚘ゞャスティカむザヌ 第6話
         ――蚗された正矩――

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