
糠床と漬物石|雑サメ。〜勇者の隣で普通に暮らす……多分♯40|第7章 正しさが通り過ぎる(なんか通り過ぎてった編)
シスターに頼まれて街のパン屋に寄った帰り道。
「どうぞ〜」
爽やかにティッシュとチラシを渡された。
『正しさの女神教(正神教)
あなたのご参加を待っています』
周りを見渡すと、何人かは受け取っている。
「流行ってますなあ」
シオリは独りごちて、また神殿へと歩き出した。
シスターのいる食堂へ向かう途中、神官Jとすれ違う。
「あ、流行ってますね。それ」
神官Jは、シオリの持つチラシを指す。
「ああ、流行ってるみたいだね。いいの?神殿的には?」
「構いませんよ。神殿は市政の宗教に口出しできる立場にありません」
「ふーん?神殿の女神とか怒らない?」
「何言ってるんです?実在する女神が新興宗教の女神に怒っても仕方ないでしょう?」
神殿の女神って実在するんだ?
まあ、アイテムくれるし?
手紙も一応くれるし?
……どこにいるんだ、とまで考えてやめた。
「あ、ねえ。そういえば神殿の女神の名前って」
「ありませんよ」
Jは足早にかけてった。
食堂に入ると、シスターが何やら壺をせっせとかき混ぜている。
「シスター、ここ置いとくね」
頼まれたパンを置く。
「あら、シオリ様。ありがとうございます」
「何してんの」
「糠床、ですよ。実家から持ってきたものが評判なっちゃって。ちょっと多めに漬けてるんです」
ぬかを洗ったきゅうりがまな板に3本ほど並べられている。
「みんなに配れるほどはないんですけど。だから早い者順ですね」
「豆なんだねえ、シスター」
糠床は何回か挑戦したことがあるが、一回もうまくいったことがない。塩足したり水分抜いたり何かと手間が掛かって、最後は冷蔵庫に入れっぱのまま終わった気がする。
「上手く漬かると楽しいですよ。生き物育ててるみたいで」
「生き物ねえ。確かにそうかも」
シオリはかつての封印されし冷蔵庫の生き物達に申し訳なく思った。
「……なんか手伝おっか」
「じゃあ、この壺、床下に置いといてくださいな」
「はーい」
蓋を閉めて指定された場所に置く。
別の壺の上に何やら分厚い本が置いてあるのに気がついた。
「シスター、この本て」
「ああ、正しさの女神教、ですか?分厚い方の本貰っちゃって、ちょっと置き場所困っちゃったんですよね」
……漬物石代わりかな。
「薄い普通の本は持ってるから、ここでいいかなって。あ、ちなみにそれはたくあんです」
……たくあんも自分で漬けれるのか。
しばし壺とにらめっこしたあと、立ち上がって二人でちゃっちゃときゅうりを切った。
一つ、つまませてもらったら、とても美味しかった。
◻︎◻︎
翌日。炊き出し場にて。
「眩し!」
届いた食材の箱を開けておばちゃんが叫んだ。
「どうしたの?」
みんなわらわら集まる。
人垣の隙間から覗くと、……この世界にしてはやけにリアルなじゃがいもが転がっていた。
「たまにあるよね」
「なんだろ。シオリちゃんも、たまにこう。特にミカルくんとか」
おばちゃんは、ぽいっとまな板の上に放り投げた。
じゃがいもが転がる。
「転がり方も変よね。この子達」
「なんだろう、ゆっくり?」
「うん、丁寧」
「揺れ方に余韻が残ってる」
「こんなことってある?」
出来上がった肉じゃがを盛ると、たまに輝く欠片が目に入るが見ないふりをした。