
【雑サメ。#10】 重かったんだわ/第3章 勇者の隣(距離感がよくわからん編)
街の喫茶店にて。
「いなくなった人を探して欲しいんです」
女性がカバンから白いものを取り出した。
「これ、彼の写真です。サメに食べられちゃったんで、印象は変わってると思うんですけど」
茶色い髪の男性が目の前の女性と一緒に写っている。
シオリにはこの世界の人の顔の善し悪しは分からないが、隣にいるのが自然だと思った。
「名前はCと言います」
女性はため息をついた。
◻︎◻︎
「……重めだね」
女性が帰ったあと、二人そのまま喫茶店で写真を眺める。
「『なんか、違うね』だって。最後の会話。見つかると思う?」
「どうかな。サメに食べられると軽くなるから。そんなに一気に遠くまでは行ってない気もする」
ミカルはコップに残っていた水を飲み干すと、
「とりあえず聞き込みだな」とだけ言って移動オーブを発動させた。
シュン!
「……ここ来たことある」
「b村な。前にも寄ったかな。サメの災厄以来、人も集まってるっぽいから、最初に立ち寄るならここのはず。話聞いてくるから、お茶でも飲んで待ってな」
「私、手伝わなくていいの?」
いいから、と喫茶店に入りお代をそそくさ支払うとミカルはピュンと走っていった。
(普段は私に合わせてくれてるけど、ミカル足早いんだよね)
「……お茶飲むか」
気持ちミカルが消えてった方向に手を振って、シオリは人を掻き分けテーブルについた。
◻︎◻︎
テーブルに運ばれてきた紅茶を冷ますべく眺めていると、背後からドン、と衝撃がきた。誰か椅子にでも引っかかったのだろうか。
振り返ると年配の男性が、すまんね、と言うふうに手を上げた。
「最近、この村も人が増えたろ?俺みたいにでかい図体だと狭くて敵わん」
「サメ、ですか?」
「それよ。サメから逃げてきたり、喰われて軽くなった人間が一斉にこっちに来るもんだから。まあ、足取り軽いんだよなああいつら」
おじさんは話すだけ話して気が済んだのか、会計を済ませて去っていった。
入れ替わるように若い男が入ってくる。
茶色い髪に、ぼやけた輪郭の人影。
男は端末をぼんやり眺めながら何かを考えてる、ようなそうでないような。
「ああ、いた」
お茶が冷めた頃、ミカルが帰ってきた。
茶色い髪の男を見て
「あの人、だよな?」
「多分」
ミカルは写真の輪郭をなぞる。
「あー、多分、サメに食べられたら、こんな感じだな」
迷いなく手を上げ、ミカルはツカツカと彼の元へ歩み寄る。
「Cさん?」
「え、ああ、そうだけど?なんで俺の名前?」
「彼女が探してる」
「ああ、あいつそんなことしてるんだ。なんで?」
Cさんは不思議そうに、しばらく瞬きを繰り返した。
「それは本人に聞けば?」
淡々とミカルが返す。
Cさんはしばらく黙り込み
「いいや、会わないよ。彼女に伝えといて。もう探さないでって」
シオリとミカルは目を見合わせた。
「俺、サメに食べられる前重かったんだわ。今彼女も家も何もなくてさ、けど」
Cさんはそれだけ言い残し、右手を軽く上げて出ていった。
◻︎◻︎
急ぎ依頼主の元へ飛び、事情を説明すると彼女は黙ってポリゴンのテーブルの木目を眺めた。
「彼、私のこと覚えてるんですね。だけど、もう気持ちはないんだ……」
「……」
「……もう、私もサメに食べられたい、かな」
木目にポトポトと大粒の涙が落ちていく。シオリは黙ってハンカチを彼女に渡す。
「彼、幸せそうでしたか?」
「……うん」
シオリは黙って彼女の手を握る。
「私、……重かったのかな。ありがとうございます。ここまでにしておきます」
彼女は深く、頭を下げた。
テーブルに涙だけが残っていた。
◻︎◻︎
彼女と別れた帰り道、角張った石畳を2人並んで歩く。
「あの人、普通に働くって言ってたね」
落ちていた石ころを軽く蹴飛ばす。
「死人は出ないし良いかなって思ってたけど、サメも案外バカにできないね」
「そーだな」
ミカルは両親指をポケットに引っ掛け少し天を仰ぐように目線を上げる。
……リンゴーン……
近くで鐘の音が聞こえる。振りかえると、通りで結婚式が執り行われていた。
「サメに食べられようとも、爆炎に巻き込まれようとも、二人は愛を誓い続けますか?」
白いローブの神官が若い二人に問う。
二人は幸せそうに見つめ合い、深く頷く。
「……ご時世だねえ」
ねこのたまを急に撫でたくなった。サメ爆炎に巻き込まれて、ふわふわになったあの子。
――爆炎に巻き込んだらCさんって戻るのかな?
……考える必要ないか。
「そろそろご飯できてる頃だから帰るぞ〜」
「あ、うん!」
いつのまにか前を歩いていたミカルを小走りに、シオリは追いかけた。