
【雑サメ。#9】 水着問題/第3章 勇者の隣(距離感がよくわからん編)
――世界はポリゴン。食事はセル画。リアルなのは自分と勇者だけ?
そして勇者は、だいたい隣にいる。
女神通販は機能しない。
転移者シオリは、まだ服が欲しい。――
ある日、街の通りで見慣れないNPCとすれ違った。
青い髪に緑の目。
村人や街の人とも、なんとなく違う。
(あの人もなにか役職がある人なのかなあ?)
チラッと見やると、一瞬だけ目が合った気がした。
けれど、そのまま音もなく通り過ぎていく。
(縁、イベントがあればまた会うのかな)
この世界では細かいことは気にしない方が、穏やかに過ごせる。
◻︎◻︎
「……細かいことは気にしない。分かる。納得できる」
愛しのハンバーグの上の目玉焼きをつつきながら、シオリは呟く。
「けど!」
「うん」
ミカルはハンバーグを口に運ぶ。
「もう水着しかないのに我慢がならないの!!!」
「……似合ってるぞ」
「そういう問題じゃない!!!」
「女神もその格好を認めたんだろ?いまさら気にしてるやつもいないだろ」
「私が気にするの!」
シオリがフォークをぶん投げかねない勢いで宙に向かって叫ぶ。
「うーん。俺も慣れたし、なあ?」
シオリはハンバーグを刺した。
「……多分解決できそうなやつは一人はいるから、掛け合ってやるよ。ごちそうさま!後で街の片付け合流な」
ミカルは席を立った。
珍しく、皿の中身が半分残されていた。
◻︎◻︎
サメの襲撃後は、瓦礫が舞うので片付けや炊き出しを手伝いに行く。
神殿からは、たまに異世界のことを聞かれる。
働くことも求められてない。
まあ今日もそんな感じだ。
ミカルも屋根に登って修理にせいを出している。
(まあ、だいたいミカルが誤爆したところなんだけどね)
「今回もサメ、すごかったね〜」
「誰か食べられた?」
「角曲がったところの靴屋さん。靴の作り方忘れちゃったって嘆いてる」
「かわいそうに」
「悲しむなんて一瞬よ。サメだもん」
「あーね。サメだし」
おばちゃんたちの手元も口も止まらない。
「シオリちゃーんこれ切っといて〜」
ふいにドーンと、ぷりぷりしたエビみたいな白身の塊が投げられた。
「はーい」
シオリはまな板の上で包丁を握る。スープの具材にするらしい。
隣のおばちゃんも、もりもり野菜をスライスしていく。
ミカルの姿は遠くに見えるけれど、ここに来てからまだ話せていない。
(大袈裟に嘆きすぎたかなあ)
包丁を握る手が止まる。
そう、別に水着で死ぬわけじゃない。このままでも――良くない。
ぶつ切りにした白身を隣の人に渡して休憩に入った。
◻︎◻︎
帰り道、おばちゃんたちから大量のお土産をもらった。
ボランティアのつもりが、これでは逆な気もする。けれど受け取ると、みんなニコニコしてた。
「よ、シオリ。終わったか?」
ミカルがすとんと、屋根から降りてくる。
「うん、ミカルも?」
なんとなく二人、肩を並べて歩く。
ミカルが歩幅を合わせてくれてるのが分かった。
「……今日、言いすぎた。ごめんね」
「ん。今日炊き出し、大変じゃなかったか?」
「……思ったより楽しかった」
「そっか、味噌汁うまかったよ。サメって案外いけるんだな」
「…………サメ?」
味はエビに近かった、と独りごちると、ミカルはシオリの先を歩いていった。