
ときめかない棚活|雑サメ。〜勇者の隣で普通に暮らす……多分♯46|第8章 ときめかない棚活(だいたい未遂編)
炊き出しに出かける途中、街中でGさんとすれ違った。
「あ、シオリさん!昨日サメ凄かったね」
「今回は食べられてません?」
「さすがに四回目はないっしょ! じゃ、俺消防団だから先行くわ!!!」
元気そうで何よりだ。
後ろ姿、カクカクしてるな。
……気のせい。
首を振り振りシオリは歩き出した。
◻︎◻︎
炊き出し場に着いて、いつも通りエプロンを付け手を洗う。珍しく若い娘さん達が華やいでいた。
「今、流行ってるんですよね。小説」
「ふーん?」
「聖女と勇者の恋愛もの。なかなか結ばれなくってイライラしちゃうけど読んじゃう」
「わかる」
「ヒーローは冷たいのに、たまに暖かい」
「あーそれは効くやつ」
「キュン大事」
「ときめかないとヒゲ生えちゃう」
「キュンしないと髭生えるはほんとよ」
と、隣でおばちゃんがひとりごとのようにつぶやいた。
シオリは思わず口元をさわる。
……そのままきゅうりを洗った。
「あー、どこかにときめき転がってないかな〜」
「手近でイケメン摂取するのが効くっすよ。今正しさの女神教の神父様激推しっす。声が良くって」
「声いいの来るわあ」
「今度、正しさの女神教の教会で遺跡ツアー開催してて。要はピクニックなんですけどね」
「うーん、イケメンイケボ旅かあ。」
「考える」
「ちょい考える」
シオリもちょい考えた。
おばちゃん達がそっと会話に加わる。
「推し活いいわよね」
「推しを推してるだけで世界は平和」
「わかる」
「ときめきは推し担当。現実は、まあ」
「その先は言わんくていいwww」
遺跡ツアーに行くのも悪くない、かも?
しかし、シオリには神父様もポリゴンにしか見えない。
勇者と聖女と自分以外、全部ポリゴン。いや、困ってないけど。
……イケボならワンチャン推せるかもしれない。
シオリは次の野菜をがしがし洗って隣の人に渡した。
◻︎◻︎
神殿に帰って何となく食堂をのぞく。シスターが決まった時間にぬかを混ぜているから。
思った通り、彼女はきゅうりを握って眺めていた。
「あれ?シスター、それ」
シスターの手のひらに目をとめた。きゅうりの影になにか見えた気がした。
「あら、ただの古傷ですよ」
シスターはきゅうりをしまい、手を握って指先でぬかを拭った。傷跡を軽くなでるように。
「小さいころ弟を助けたときに枝が刺さっちゃいましてね。転びやすい子だったんですよ。山の斜面に落ちちゃって、引き上げるの大変で」
シスターの声がどこか懐かしそうに緩んだ。
「それにしてもよくわかりましたね」
「へ?」
「傷ですよ。こんな薄い古傷。目が不自由だと聞いてましたのに」
見え方が違うだけなんだけどなあ。
シオリは小さく息をついた。
「……たまーに、見えすぎるんだよねえ」
今みたいに。
「転移者様って不自由ですね」
シスターは困ったような笑みを浮かべ、別のきゅうりを摘む。
「ミカル様も、視力はともかく大変そうなときありますよね。勇者様って、また別枠っぽいですし」
「そーなの?」
「はい。上手く言えないんですけど、目立つ?きらきらしい?」
「あーわかる」
「シオリ様もそういうときありますね」
「そんな見え方してんだ」
「たまに?眩しい、みたいな」
「なにそれ」
「道端で写メ撮られてて気の毒になります。くしゃみしたとことか」
「ええー?」
「UPされたのを、たまに神殿が消してますね」
「まさか、私も撮られてるとかないよね」
シスターが「あっ」と小さくつぶやき、糠床にきゅうりが落ちた。
◻︎◻︎
食堂を出ると廊下でミカルと会った。
「おかえり」
「ただいま」
昼間の炊き出し場の会話を思い出し、シオリは立ち止まったミカルをぼんやり眺める。
……推し、ねえ。
『シオリちゃん、棚から出さないようにね』
……はて?誰から言われたんだっけか。
「……うーん、棚、かな」
「棚?」
「うん。棚活」
「棚、ね」
ミカルはポケットに親指だけ引っ掛けて、首を傾けた。
そのまま二人並んで食堂へ。
ときどきミカルの横顔を眺める。
サラサラの金髪がふわっとなびく。
まつ毛も変わらず麗しい。
きれいだな、と心から思った。