
聖女Dが遊びに来る|雑サメ。〜勇者の隣で普通に暮らす……多分♯29|第6章 上手くいくペアとは(静かにややこしい編)
サメは来る。
勇者が爆破する。炊き出しと片付け。
いつも通り、みんなでおしゃべりしながら準備する。
包丁がまな板を打つ音と、洗い物の水音が心地よい。
「サメ終わると首痛減ったわ」
「私膝痛なくなった」
「やっぱり関係あるわよね。サメ。うちの人とか気のせいだーって言うんだけど」
「あるある。絶対ある」
人の足音や、肘や手が軽くぶつかる気配。
おばちゃんたちの会話もいつも通りで、落ち着く。
「あ、そういえば」
鍋が沸騰して火を止めた。
「最近宗教本もらっちゃって、これが割といいこと書いてるのよね」
「え?宗教とかやばくない?」
「うーん?今のところ寄付とかの話もないし。集会もないし。本読んでくれれば良いって言われたから。いいかなって」
「うーん。やばいwww」
「そーお?けど諸行無常とか書いてるのよ?よくない?」
いつサメが来るかもわからない世界線。
普通にいい言葉だな、とシオリは心の中で頷いた。
「入るかは置いといて、本のなかから気になるとこだけ書き出しとけばいいかなって」
「まー自由ですけどねー」
「でしょー」
「さっ、手元の野菜切っちゃいましょ、みんなそろそろ食べに来ちゃう」
おばちゃん達はいっせいに包丁を動かす手を早めた。
◻︎◻︎
午後、神殿にDが遊びに来てくれた。E付きで。
「そんな顔しないでよ。僕が来るのが一番Dが身軽で来れるの」
シオリはどうもEが苦手だ。
「他国の聖女もそんな反応なんだよね。いいよ、僕気にしないから」
せめてミカルと同じ顔でなければ、苦手感も薄まったはず。
……では自分とDは?
考えてみれば元がサメ映画のヒロインの体だ。正直、借り物な気さえする。
眉間に皺を寄せていると、空気を察したのかDが困ったように視線を揺らす。
「d国の勇者どうなった?」
場の空気は気にしませんという風に、ミカルがEに問いかけた。
「どうもこうもないよ。沈んだまま。ミカルくん助けに来てよ。カバー大変なんだから」
Dに会う時間減っちゃうとEが嘆く。
「神殿から言われたら行く」
「てか、そんな事聞きに来たの?わざわざいるから何かな、と思ったんだよ。真面目だなあ」
聞き流すようにミカルはぷいとその場を離れていった。
◻︎◻︎
翌日、シオリはDを連れ出し、街の市場へと繰り出した。
「くださいな、焼き鳥を二本」
タレの香ばしい匂いに誘われ、串を買ってDの元に戻る。
「買い食いなんて、本当に久しぶり。しかも女の子と一緒にだなんて……」
Dが嬉しそうに串を口へ運ぶ。
「Eは連れてってくれないの?」
「連れてってくれますよ。頼めばすぐに。……けど、ずっと一緒にいるわけには行かないから」
相変わらず、困ったように微笑んだ。
「お互いお仕事もあるもんね」
「それもそうなんですけど、私がEに甘えたままだと、きっと壊れちゃうんですよ」
Dの声色は静かだった。
「私が、Eを……やだ、変な話しちゃいましたね。シオリさん、のど渇いたから、次お茶飲みましょ」
手を引かれ、シオリは賑やかな通りを駆け出した。
◻︎◻︎
朝、Dを呼びに客室をノックするとEが出てきた。ごく自然に。
「へ?私部屋間違えた?ごめんね、Dの部屋だと思って」
「間違えてないよ?」
Eは首を傾げる。服に目が行く。寝巻きっぽい。
奥からパタパタとスリッパの音が聞こえた。
「シオリさんおはようございます」
Dも寝巻きだった。
「え?一緒に寝てるの?」
「え?寝ないんですか?」
「はあ!?」
喉奥から声が出た。
「一緒に寝ると元気になるでしょ?」
Eが首を傾げる。
「ちょっと待って。言い方がアウト」
二人は顔を見合せ首を傾げた。
「ま、僕が言うことじゃないけど、シオリちゃん達ってかなり効率悪そうだよね。まーミカルくん丈夫そうだし何とかなるんだろうけどさ。回復の仕方はペアに任せられてるし?僕なんて繊細だからちょー無理。あともうひとつ言うと、僕のペアもDじゃないと無理。僕すっごい繊細だからDくらいじゃないと無理」
朝食時、すごい早口でEが喋っていたが、それより食卓の湯気に気を取られた。
今日は、豆腐と大根の葉の味噌汁と納豆。明太子にご飯とサラダ。鯖の焼き物。
最高。
隣に目をやるとミカルは黙って食べていた。
一人で喋りまくるEの隣で、Dはゆっくり納豆とご飯を口に運んでいた。
シオリは口をちょんととんがらせ、しばらく朝食を見つめる。そして鼻と口と胃いっぱいに香りを吸い込んだ。