
【雑サメ。#13】 針と糸/第3章 勇者の隣(距離感がよくわからん編)
神殿の客間にて。
「うっ、うっ、シオリさん……これでお別れなんて、寂しいです……」
自分と同じ顔をした女の子がしくしく泣いてるのを見るのは、妙な気分だ。
聖女は庭の茂みに隠れていたところを見つかり、しっかり香油を塗り直されたらしい。
かわいそうに。あんな丸太を転がされるようなマッサージ、できれば二度と受けたくない。いい匂いにはなったけど。
形式的な謁見の後、シオリの方から頼んで少し話す時間をもらった。
「つかぬことを聞きますが、シオリさん、一番好きなサメ映画教えてください…」
紅茶に顔を隠しながら訊ねる様子が初々しかった。
聞けば、恋ジョーズに転生してからこの世界に転移までほぼ一緒。
隣国の勇者Eとの距離感は少し独特だけど、それなりにうまくはやってるらしい。
「本当はお家が恋しい、帰りたい。聖女なんてやりたくない」
と泣く様子は妹みたいで頭を撫でたくなってしまった。
「シオリさんは神殿の転移者だから、今のところ役割はないんですよね?
なら、なるべく早く逃げたほうがいいと思います。」
蚊の鳴くような声で言うもんだから、ちょっとドキッとしてしまった。
心配になって、ひどい目にあっているのかと聞いたけど、そういうわけではないらしい。
ただ、
「この世界と合わない」
と泣きそうな顔で笑っていた。
「また遊びに来て。何にもできないけど、話聞くぐらいはできる。――同じ水着一張羅被害者だし」
「……ですね。私も何か解決策見つかったら連絡します」
隣国の勇者は聖女にとって良いお兄さんみたいな感じらしい。
……今回みたいに、されるがままの聖女のこと、止めたり庇ったりしてるのだろうか。
……倫理観は穏やかな仮面を被ったこの世界そのものっぽいので、ちと心配だ。
別れを一通り惜しんだ後、二人はしゅんっと例の転移装置、オーブで帰っていった。
シオリも客間を出ようとしたところで、
「……帰ったな。あいつら」
「ミカル?」
ドアの前にミカルがいた。
いつからいたの?と口を開きかけたところで、
「これ、お土産」
小さな包みを渡された。
開けてみると、針と糸が入っていた。
「これ探してたら、遅くなった。おやすみ」
そう言って、ミカルは自分の部屋のほうへ戻っていった。
針と糸を握ったまま、しばらくその場を動けなかった。