
【雑サメ。#26】 熱のある隣/第5章 危険物は排除しない前提(普通に隣にいる編)
隕石が千日後に落ちるって決まっても、
私はたぶん、いつも通りご飯を食べて寝る……たぶん。
◻︎◻︎
ある朝、食堂にミカルが起きて来なかった。
シオリがスープを持って部屋を訪れると、ドアを開けるなり
「今日は無理」
と、へろへろっとベッドに戻って行った。
体温計がピピッとなる。
「39度。高いねえ」
「そんなの久々見たわ」
と、他人事みたいなミカル。
「勇者も熱出すの?」と問うと
「人を人外みたいに言うな」と怒られた。
いや、スタミナも能力も、外観のキラキラしさからして勇者は人外仕様じゃん。
シオリはそっと言葉を胸にしまった。
「シスターがお医者さん呼んでくれるって。私、炊き出しあるから行ってくるね」
「ん。」
ミカルは短く頷いて、背中を向けて布団を被った。
◻︎◻︎
青空の中、野菜洗ったり、包丁握ったり、身体動かす作業は地味に楽しい。
おばちゃん達の噂話にそっと耳を傾けるのも。
「サメ保険ねえ、入ったんだけど、降りなくって」
「え?なんで」
「食べられすぎて屋根がのっぺりなっちゃって、申請したんだけど、まだ使えるからダメですって言われちゃって」
「ええ〜払ってるのに?」
「私のとこなんてまだいいわよ!隣のうちなんて、旦那さんが食べられて奥さん子ども置いて家出しちゃって」
あらまー!!!っとみんな揃ってため息をつく。
おばちゃん達すごいな。口も動いてるけど手もずっと動いてる。
「シオリちゃんは?サメ保険入ってる?」
「え?へ?」
話題が急にこっちに来て、狼狽える。
「シオリちゃんには必要ないでしょ!だってお家神殿だもん」
……たしかに。
「え?じゃあミカル君もいらないか」
「勇者は対象外って書いてたわよ〜」
なるほど、私達には必要のない話だったか。
ミカル大丈夫かなぁ。
うっかり布団飛ばして寝てないかなあ。
まあシスターいるから大丈夫だろうけど。
◻︎◻︎
帰りにしょうがと大根とりんごをお土産に貰った。
「はちみつあると、喉にいいわよ!ミカルくんによろしくね〜」
おばちゃん達って繊細なのかたくましいのか、たまによく分からない。
シオリは神殿の方へとまっすぐ歩を進めた。
◻︎◻︎
自分のご飯をしっかり食べたあと、ミカルの部屋に向かう。
「ミカル〜」
トントンとノックすると、ミカルがドアを開けた。
いつもより目がとろんとしてる。顔が赤い。
「おばちゃんからりんご貰ったんだけど、擦ろうか?」
シスターからお粥は食べたって聞いたけど、量は少なかったと言っていた。
「助かる。シスターに渡してくれればいいから」
フラフラと戻って行った。
台所で擦りおろして、ついでに大根とはちみつも混ぜる。
シスターにお願いして部屋に戻った。
部屋でゴロゴロするのだが――なんか気になる。
気が付けばミカルの部屋の前にいた。
そっとドアを開けると寝苦しいのか布団が横に飛んでいた。
「シオリ様?」
ビクッとなって後ろを向くとシスターがタオルを持って立っていた。
「あら、様子を見に来られたんですか?じゃあお願いしますね」
シスターはぽんっとシオリにタオルと氷水を渡す。
「……」
仕方ない。シオリはミカルの部屋に入った。
◻︎◻︎
熱出したまま起きるとシオリが横で自分の腕を抱え込んで居眠りしていた。
自分の額にはタオル。濡れてひんやり冷たい。シオリの横には氷水。
静かに寝息を立てている。
しっかりよだれをたらしながら。
「シオリ、自分の部屋戻れ。風邪ひくぞ」
「……んー、もう無理」
「もう無理、じゃねえ」
ちょっと強めに揺さぶると、
「いいよ、じゃあミカルの布団半分貸して」
といいながら、シオリはミカルのベッドにモゾモゾと入る。
「は?いや、ベッド戻った方が寝心地いいだろ?」
「やだよ今から戻っても布団寒いもん。自分の体温で温め直すより、熱出した子の隣で寝る方が楽だよ廊下も寒いし」
「……どういう理屈だよ」
「熱出してる人の隣で寝ると暖かいんだよ〜」
フフフと目を擦りながらシオリは笑う。
「風邪、移るぞ」
「背中合わせなら移んないよ。おやすみ」
「……狭い」
説得する気力もなくなり、ミカルはそのまま目を瞑った。
◻︎◻︎
おまけ
朝
ミカル「狭いから出てって」
シオリ「わかった(あくび)」
ミカル「ため息」