
【雑サメ。#22】 手仕事/第5章 危険物は排除しない前提(普通に隣にいる編)
ある日、神殿の奥にいると言われる女神にクレームを入れた。
姿は見たことない。
「もうちょっと検品しっかりしてくれませんか」
直後に手紙がひらりと落ちてきた。
「モウイッパイイッパイ 文字化け」
……こちらがもっと余裕持った方がいいのかな。
◻︎◻︎
炊き出しに行くと、おばちゃん達が困っていた。
いつも包丁研いでくれる人が出かけてて、帰ってこないらしい。
「今すぐってわけじゃないけど、切れにくいって地味にストレスよね」
とため息をつく。
「研げばいいのか?」
近くで廃材を片付けてたミカルがやってきた。
「十本か。結構多いな」
「不特定多数で調理場回すからねえ」
おばちゃん達がこくこく頷く。
ミカルは地面にぽんと、水に浸した砥石を放り、片膝を付く。
二、三回動かしたところで「ちょっと研ぎにくいな」と止まる。
ああ、借り物だからか。
「砥石変える?」と聞くと、
「いい、これで行く」とまた研ぎ出した。
最初はゆっくり。途中で慣れたのか手際よく研いでく。
同じ姿勢で、同じ速度で。見てて気持ちいいやつ。
誰に倣ったの?って聞いたら
「昔一緒にいたやつ」
と一言。
眺めているうちに、あっという間に研ぎ終わってしまった。
「すごいわね!ミカルくんピカピカじゃない!」
「細石で仕上げた方が丁寧だろうけど、調理場ならこれくらいでいいだろ」
「キレイね〜」
刃の表面を水がするんと流れていく。
光が反射して切っ先の境目が分からない。
包丁を無邪気に見つめていたおばちゃん達が、黙った。
まな板とトマトを持ってくると、包丁の刃を垂直に乗せる。
置いただけなのに、重みだけでトマトはするする切れていった。
「ミカルくん、包丁切れすぎよ〜」
「ありがたいけど、スルッと行きすぎて、ちょっと怖いわ〜」
おばちゃん達から困惑の声が上がる。
「次からは気をつける」
ミカルは呟いた。
少しだけシュンっと存在が小さくなった気がした。
◻︎◻︎
神殿に帰って自室へ。
ミカルにもらった針と糸を取り出す。あと服も。
「何やってるんだ?」
ミカルが声を掛ける。
「服。直すの」
「服?」
「女神が送ってくれたやつ。不良品だけど、直せば着れるやつ」
「女神か。いい加減だもんな」
ミカルは目を瞑った。
「女神って昔からああなの?」
「さあな」
袖口が縫い付けられたり、ポケットが通らない服たち。
逆に言うと、そこを繕い直せば普通に着れる。
布を傷つけないように、糸をそっと切って解く。
まち針で止めて、少しずつ縫っていく。
「結構手間だな」
「うん。けど嫌いじゃないんだよね」
「ふーん」
縫い目はぐちゃぐちゃ。家庭科は得意ではなかった。下手の横好き。
「手伝うか?」
「針持ったことあるの?」
「まあな」
ミカルは糸を通して服を手に取る。
「ミカル器用だよね」
縫い目の揃い具合にため息が出る。
「普通だろ?」
まとめて針先に詰めて通していく。運針?だったかな。手慣れてる。
「誰に習ったの?」
「さあな」
ミカルは軽く息をついた。
「まあ、けど手元動かすと落ち着く」
いらなくなった糸や生地がコロンとポリゴンに戻っていった。
しばらくするとミカルの手伝いもあって、服は無事に着れるようになった。
「ありがと!!!」
お礼を言うと、
「ん。」
短く返事をして、自分の部屋へ戻って行った。
窓を開けると冷たい空気が入る。
街の明かりがぽつぽつ灯る。