
BGMはない|雑サメ。〜勇者の隣で普通に暮らす……多分♯44|第7章 正しさが通り過ぎる(なんか通り過ぎてった編)
「もう!シオリちゃん気軽にDを攫ってくのやめてよ!毎回僕がどんだけ不安になるか!」
D迎えに来たEが騒ぐ。
内容はどうでもいいと判断してシオリは耳に指を突っ込んだ。
「……嘘。Dが喜ぶからまた誘って」
そっぽ向いたまま小さく口を動かす。
「あ、はい」
素直か。
二人はいつも通り、神殿の客間から移動オーブで帰って行った。
◻︎◻︎
部屋への帰り道。
神官Jが通りすがりに声を掛けてきた。
「距離の維持ができてるようで何よりです」
距離の維持、ねえ。とシオリはぼんやり考える。
物理?
心理?
解像度?
「あ、J?そういえば神殿って宗教施設じゃないんだ?」
「何言ってるんです?当たり前でしょう。シオリ様ってたまに変なこと聞きますよね」
Jは懐中時計を手に、スタスタ駆けてった。
さらに歩くとミカルに会った。
ポケットに片手を引っ掛けて立ち止まる。
「今日はどこか出かけるのか?」
「部屋に帰るだけ。ミカルも来る?」
「いや、いい」
「そっか。じゃあ後で食堂ね」
そのまま別れかけて。
通り過ぎていくミカルの袖を、つかむ。
「どうした?」
「うん」
次の瞬間。腕をガバッと腰に回す。
少し、ミカルの目の中が揺れた気がした。たぶん気のせい。
接触。服越し。
心音。お互い異常なし。
血圧も、多分大丈夫。
……この世界に血圧計あるのか。
頭に浮かんだ雑音を一旦脇に置く。
すっと離れて一歩下がる。
「うん。ありがとう。またね」
「何かの確認か?」
ミカルは小さく息を吐いた。
「うーん、Jが距離の維持〜って言うから。何か変化あるのかなって試してみた」
ミカルがふっと笑う。
「それはJもさぞかし心臓に悪いだろうな」
労わるべきは、神官Jだったか。
「いいからもう行け」
軽く手を振る。
しばらくして振り返ると、背を向けた両肩が小刻みに揺れていた。
◻︎◻︎
「特に距離を縮めても(物理)何も変わりませんでした」
と神官Jに報告する。
彼は無言で胃薬を飲んだ。
「……あなた方は、“変わらない”ことがどれほど尊いか分かっていますか」
「うーん、なんとなく?」
Jはもう一錠出そうとして、やめた。
「今後は事前申告を」
「検討します」
廊下を歩きながら、シオリは思う。
距離を詰めても、世界は変わらなかった。
世界は揺れず、壮大な音楽も鳴らなかった。
星も降らなかったし、髪もなびかない。
ただ、あたたかかっただけだ。
それで十分な気もする。
BGMはない
心音も通常運転。
世界は、今日も低予算で安定稼働している。