
【創作大賞2026】⚗️ジマソ 第28話:砂丘巨人(サンドゴーレム)大地に立つ|人工魔素開発者の子
世界が、静止した。
観客席の誰もが、息を忘れた。
スクリーンの中——森が、生きていた。
木々の呼吸が見えた。光の粒子が空気に溶けて漂い、踏み込んだ者の肺を満たして、そのまま帰ってこない。
これは異世界化じゃない。
——ここは、最初からこういう場所だったんだ。
司会者の声が、遠くで聞こえた。
司会者「……骨武器山データセンターの演算能力が、ついにこの規模を——」
その言葉が終わる前に、森が叫んだ。
「騒がしいな」
少年は歩廊の手すりに肘をついたまま、眼下の混乱を眺めていた。
猫ほどの大きさの蜂が森を支配し、プレイヤーたちが我を忘れて逃げ惑っている。味方を撃ち、仲間を踏み、ただ恐怖だけが伝染していく。
「……あの人危ない。あっ、そっちじゃない」
もどかしそうに、ひとりごとを言う。
止める気はない。ただ、見ている。
森の中央に、巣があった。
六角形の巣房が幾重にも積み重なった釣鐘型の屋根が、内側から滲む黄金の光を受けてゆらゆらと輝いている。軒先から垂れる蜜が石畳に落ちるたび、甘く、淡く、光った。
綺麗だった。
だから——喉の奥で、何かが警告を鳴らした。
生き物として。本能として。
*近づくな。*

「みんな、もっと自由に考えればいいのに。この辺りなら魔法でもっといろんなことができるのに」
少年は不思議そうに喧騒を眺めた。
「……とにかく、騒がしすぎる」
小さく息を吐いた。
その瞬間、地面が——ざわり、と鳴った。
ザザザザ……ザザー……
土と落ち葉を押しのけ、砂粒が一点に集まり始める。
「来い」
低い声と同時に、少年が歩廊から飛び降りた。
大地がうねった。砂が盛り上がる。馬の背を思わせる巨大な塊が、人の形を作りながら立ち上がった。
高さ、二十メートル。
表情を持たない。声を持たない。ただ少年の意志だけで動く、砂と魔素の化身。
「一掃しろ」
巨人の肩の上から、少年が命じた。
圧倒的な質量が、森を薙いだ。
黄金に輝いていた巣が砂鉄と魔素の嵐に飲まれ、一瞬で瓦礫になった。巻き込まれたプレイヤーたちが弧を描いて空へ吹き飛んだ。
プレイヤーたち「ぎゃあああーーっ!!」
最高点で一瞬静止し、そして落ちていく。
地面が迫る。速い。終わる。
プレイヤーたち「た、助けてくれーーっ!!」
「はぁ……」
ため息。パチン、と指を鳴らす。
砂の巨人が——今度は巨大なベッドになった。
ぽすん。ぽすん。ぽすん。
プレイヤーたち「うわあ、あ……あれ?」
恐る恐る目を開けると、そこは柔らかい砂の上だった。
プレイヤーたち「た、助かった……のか?」
安堵の声が漏れた瞬間——砂が動いた。
底なしの流砂が、全員を静かに飲み込んでいった。
「ごめん。悪く思わないでね……」
少年は誰に言うでもなく、小さく謝った。
*——砂遊びにも、ならなかったな。*
司会者「……助かったと思ったプレイヤーたちが、流砂の底に消えていきました」
リゲル「……見事ですね。あの規模の召喚を瞬時に。人工魔素との適合率も、想定以上だ」
司会者「四天王候補、ということでしょうか」
リゲルは答えなかった。ただ、映像の端に——ゆっくりと、静かに視線を走らせた。その目に浮かんでいたのは感嘆でも警戒でもなく、まるでずっと前から知っていたような、温度のない何かだった。
「見られてるな〜」
少年は首筋を撫でながら、のんびりと呟いた。
その瞬間、視界の端にノイズのような数式が走った。
*——観測完了。適合率、想定以上。*
少年の眉が、わずかに動いた。
足音が近づいてきた。
重い足音だった。一歩ごとに、疲弊が滲んでいた。
ロクトが、廃墟になった森に踏み込んだ。なぎ倒された木々。砂に埋もれた地面。プレイヤーたちが消えた跡だけが、静かに残っていた。
ロクトはそれを見渡して——止まった。
ロクト「……誰が、やったんだ?」
問いではなかった。確認だった。
足元で、ちの子が震えた。
ちの子「……ロクト。そっち、行かないほうがいい」
警告ではなかった。——予感だった。
砂煙の向こうで、少年がこちらを見ていた。
表情はなかった。笑ってもいなかった。ただ、見ていた。まるで——ずっと前から、ロクトのことを知っていたように。
「ロクちゃん……」
その声は、砂煙の中に溶けた。
砂煙が、晴れていく。
晴れた先に、少年はもういなかった。
あるのは——砂だけだった。さらさらと、風に流れていく砂だけが。
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