
⚗️ジマソ|第1話(プロローグ) 世界には魔法なんてなかった。人工魔素が発明されるまでは。 人工魔素開発者の子
📖あらすじ
人類は魔法を発明してしまった。
この作品は、「魔素」と呼ばれる魔法の源を人工的に作り出した世界の物語です。
それは夢の技術か、
それとも世界を壊す災厄か。
地方の小さな町から始まる、
SF×魔法×現代神話。
※創作大賞用あらすじ補足
人工魔素発明からゲームによる普及、暴走事件、魔王の誕生と地方都市「白壁町」の抵抗、解決までを描くつもりです。
📖目次
▶読み方ガイドへ
▼第1話
────────────────────
この世には魔法が無い。
それが常識だった……
あの日、
世界は、人類の過剰な才能によって書き換えられ始めた。
( 大石 望 著『人工魔素とは何か』より)
―――
ビル群の中の駐車場に1台の古いワゴン車が到着する。
「とうちゃーく」
小さな女の子と男の子が後部座席でじゃれ合っている。
「ここで待ってよう。」
何かのケースを抱えた女の子は、車の窓からビルを眺める。
遠雷の音がかすかに聞こえる。
―― 株式会社オリオン
その地下研究所。
明るいガラス張りのゲージの中で、仰向けになっているマウスがいる。
実験用のそのマウスを食い入るように見つめる人々。
と、
そのマウスがピクリと動き出す。
ピクピクと手足を動かし、バタつかせるマウスは、やがて起き上がりケージの中をキョロキョロと見回す。
研究員「成功だ!見てください、社長!
病変が完全に消滅しています。
ナノマシンの働きが、理論値を遥かに超えました。」
室温は摂氏二一度に厳しく管理され、その冷たさが研究員たちの頬の熱気を強調していた。
研究員「やったぞ。」
研究員たちの歓喜が、分厚い壁に囲まれた地下空間に響き渡る。
そんな中、実験を見届けたように、一人の白衣の女性が部屋を出ていく。
―――
熱狂の輪の中心で、その姿を確認しながら、オリオン社長・華澤始(はじめ)は静かに立っていた。
華澤「よし、いいか諸君。
これが、龍鱗鉱がもたらす人類の未来だ。」
始が手を伸ばし、台座に置かれたケースに触れる。
中には、漆黒の鉱石片が入っている。
始は静かに、しかし確信に満ちた声で宣言した。
華澤「この、龍鱗鉱によって構成されるナノマシン群は、人の脳波を読み取り、まるで魔法の様に、あらゆる事象を解決する可能性を秘めている。
よってこれを……
『人工魔素』
と命名する。」
龍鱗鉱、そう呼ばれた石は、確かにウロコのような形をしている。濡れたように黒く輝くひし形の結晶。
歓喜と安堵の入り混じった歓声が、研究室を包んだ。
―――
華澤「みんな、ご苦労だった。とりあえずは一区切りだ。
しかし、人に使うにはまだまだ出力が足りない。」
研究員「これ以上となると、制御には相当な速度のコンピュータや巨大なデータサーバーが必要です。」
リゲル「ひとまずおめでとうございます。しかし、人に使うには、現状のコンピュータの出力では確かに、著しく効率が悪いですね。」
室内に設置されたAI・リゲルの冷たい声が響く。
華澤「新たな設備も開発するしか無いな。」
リゲル「龍鱗鉱の純度を上げるという選択肢もありますが、コンピュータの演算速度も必要でしょう。」
華澤「実用化までは遠い道のりか。」
リゲル「まずは、設備ですね。あなたと私なら必ずたどり着けます。」
そう励ます人間のように気の利いたAI。
リゲル「いえ、もう一人必要でしたね。
おや……?あの方は何処へ?」
カメラが部屋を見渡す。
華澤「上代君はさっき出ていったよ。」
ドアを指さす始。
リゲル「ふむ……外は一雨来そうですが……。そうそう、実験の影響で、屋上の設備は過剰に帯電しています。落雷にはご注意を。」
外では微かに雷鳴が聞こえていたが、地下の研究室には届くことはなく、ザワザワと研究員の話す声だけが聞こえていた。
–––
会社の駐車場、一台の車に近づく白衣の女性、上代硝子は、運転席の夫、優作に話しかけた。
娘の六華は弟のロクトと後部座席にいて、ひざに抱いた白い石の入ったケースを見つめている。
硝子「実験うまくいったよ。」
優作「おつかれさん。成功おめでとう。」
ロクト「ちぇいこう?しゅごい!」
六華「すごい、アタシもママみたいになりたい。ねえ、見て!あたしが書いた研究!」
ぐちゃぐちゃの回路図のような落書きを見せる六華。
硝子はその絵を見ながら、ほんの一瞬だけ困った顔をして、
それを六華に気付かれないよう笑顔に戻した。
硝子「へー、すごいねー。」
六華「えへへ……、ノーベル賞取れる?」
硝子「それはどうかな〜?もう少し大きくなったらね。それより、その石を見せて。」
六華「えー、これあたしが運ぶのに。」
そう言って六華はケースの中を覗き込みながら思った。
――どうして私は、ママみたいにうまくできないんだろう。
みんな“天才の子”って言うけど、私は違うと思う、あたしのママはもっともっとすごいもん。
「あたしもママみたいになりたい。」
その願いが染み込むように、
白い石が青白く光っているように六華には見えた。
(……キレイな石……)
硝子の声が飛ぶ。
硝子「ねぇ、六華!聞いてる?」
六華は、はっと我に返る。
六華「え?」
硝子「さっきから呼んでるのに、ずいぶんその石に夢中ね。でも、そのケースはママに頂戴。それはママの大事な石なの。」
六華「えー、あたしが運ぶ。あたしのお仕事。」
優作「また、六華のあたしのお仕事が始まった。家からこれで、ずっと抱えてるよ。」
硝子「はぁ、研究が終わったらあなたにあげるから。言うこと聞いて、ね?」
六華「うー、はい。」
渋々ケースを差し出す六華、硝子は石を受け取ると「すごい。これがあれば……。」
うっとりとその石を見つめるまなざしに六華は嫉妬せずにはいられなかった。
六華「そんなにすごいの?アタシも欲しい!アタシもママみたいにやる。やっぱりあたしが、運ぶ」
硝子「はいはい、わかったわかった。じゃそれ持って付いてきて、」
六華「やったー、任せてあたしがセキニンもって運ぶ。」
石のケースを受け取り、無邪気にはしゃぐ。
硝子「ありがとうあなた。私は会社でもう少し研究していく。」
六華「まって!」
車を降りる六華
優作「雨降りそうだぞ、あー、降ってきた、夕立だ!」
ゴロゴロ、雨。土砂降りに。
裏口から研究員の声が響いた。
研究員「上代博士!落雷の危険あるそうです。早く中へ!」
硝子「えー?六華急いで!」
急かす硝子、と、
ピリッ
六華「あっ、」
石のケースを持っていた手に静電気のような刺激が走り、石のケースを落とす。ストリーマ放電が走り、辺りの電位は異常なほどに高まっていた。
硝子「え?」
ケースからこぼれた石が六華の足元に転がる。
六華「あ、ママの大事な!」
転がった石を拾おうとする六華、
そのとき、
リゲル「来る!」
ビシャーン!
オリオンビルの避雷針に雷が落ちた。
石が雷光を映して青白く光った。
それを見た六華は石に覆いかぶさるようにして夢中でそれを捕まえた。その刹那!
それははたから見れば不幸な事故だった。避雷針から地面に流れた雷撃が、いつも逆流するわけではない。
しかし、それは起こった。不運にもその雷撃は、付近にいた六華の身体へと流れ込んでしまった!
六華「ギッ!」
雷撃を受けた六華の身体は強く痙攣し、強烈な光を感じて、倒れ込む。
その光の中で、石を握りしめる。
――ママの大切な石、守らなきゃ、
遠くで誰かが叫んでいる。
ママ……?
口が動いている。
何かを叫んでいるはずなのに、
もう音は聞こえなかった。
視界が青く染まっていく。
ああ、ねむい、あたしも、ママみたいに……なれたかな……
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