
①AIにはメンツがない――生成AIの編集とは
AIにはメンツがない
生成AIとの壁打ちが驚くべき効果を出すのは、AIにはメンツがないからだと思う。
人間同士の議論では、どうしても感情や立場、関係性が入り込む。「こんなことを言ったら相手を傷つけるのではないか」「ここまで言ったら関係が悪くなるのではないか」と、話す側にも遠慮が生まれる。
一方、聞く側にも、「この人の期待に応えなければならない」「せっかく言ってくれたのだから従わなければ」といった心理が働く。
ところが生成AIには、そうしたメンツや立場がない。
相手から厳しいことを言われても、「所詮は機械だしな」と思える。逆に、言われたことに従わなくても、「まあ、機械だしな」と割り切ることもできる。
つまり、生成AIとの対話には、「相手の言葉に傷つきにくいこと」と、「相手の意見に従わなくてもよいこと」という、二重の心理的安全性があるのだ。
なぜ忖度のない壁打ちができるのか
以前、優秀な経営者が、生成AIを相手にかなり厳しめの壁打ちをしているという記事を読んだことがある。周囲の人間だとどうしても遠慮や忖度が入ってしまう。そこで生成AIに「忖度なしで議論してほしい」と頼み、その率直なフィードバックをもとに、自分の行動や施策を考えていくというものだった。
そんな話を夫にしたところ、「それは生成AIだからできるんだよね」という話になった。
相手が人ではないから、腹が立たないということだ。
フラットな気持ちを持っていると自負していても、配下から耳の痛い意見を言われて、まったく反発しないで聞くことができる聖人君子って、ほとんどいないと思う。
ましてや経営者は、様々なものを負う立場だ。
編集のレビューをどこまで取り入れるかの自由
私の複数のAIを使った執筆レビューも同じだ。
長く対話を続けているChatGPTは、寄り添いながらも、ときどき厳しいことを言う。
Geminiは二次的に使っているせいか、文法や誤字脱字には強いけれど、全体としてはかなり褒め上手で、あまり痛いところは突いてこない。
Claudeのレビュー
ところが、最近のClaudeはかなり厳しい。採点も厳しいし、ときには「ここはいい。しかし、ここは駄目だ」と、まるで哲学科の厳格な教授に論文を返却されているような気分になる。そっけないこと、この上ない。
このエッセイの初稿のレビューも、こんな辛口コメントをいただいた。
エッセイとして読みやすい。 ただ、読み終えたあとに何も残らないという問題があります。
カノコギさんのエッセイの強みは、概念を直接説明せず、具体の中に概念を滲ませることのはずです。この結論は逆をやっている。
ウッとくるし、少し傷つきそうになることもある。
けれど、「相手は機械だしな」と思って持ち直す。そして、指摘の検討を始める。
AIのレビューは、どこを取り入れるかを忖度する必要もない。
人間の編集者は偉大だし、人間にしかできないことがある。
ただ、高名な編集者の指摘であればあるほど、こちらも「そういうものなのかもしれない」と思ってしまうかもしれない。
相手は自分のことを思って言ってくれているのだ。だからこそ、反論するより受け入れてしまうことも少なくない。
AI同士で、評価させる
さて、私はChatGPT、Gemini、Claudeと、複数の編集者を使っている。
メリットは大きいが、デメリットもある。
認知負荷が高い、つまり疲れるのだ。
疲れてくると、もーいいや。と投げ出したくなる。
最近は、こんな方法で認知負荷を減らすようになった。
生成AIのレビューをそのまま、他の生成AIに投げることだ。
ClaudeのレビューをそのままChatGPTに見せる。場合によっては、Claudeのレビューに対するChatGPTの意見を、さらにClaudeに投げ返すことさえある。
「Claudeは、あんなこと言ってますけど、どう思いますか?」
とまるで編集会議の伝書鳩のようなことをしている。
すると面白いことに、お互いが「この指摘は妥当だと思う」「ここは自分の視点が少し足りなかったかもしれない」といったコメントを返してくる。
人間同士だったら、なかなかこうはいかないだろう。
自分の指摘を否定されたと感じたり、プライドが傷ついたり、「いや、それは違う」と感情的になったりすることは珍しくない。けれど生成AIには、そうした感情の揺れがない。
AIは、自分の意見が修正されても傷つかない。「メンツを潰された!」と怒ることもない。
ただ、その場で提示された情報をもとに、淡々と再評価を行う。
ここが、人間の編集者にないアドバンテージだ。
そして、Claudeに78点と言われた記事は、最終的には92点になった。
「AIにはメンツがない」という一本の軸を見つけ、そこから外れる説明をバッサリ削ったからだ。
次回は「白い糸は鳥になる」と題して、実際に私がAIと編集をしている実例を案内する。
■■■■後書き(Geminiについて)■■■■
この記事のレビューをGeminiに依頼したら、急に本気を出してきた。
実際、この後のレビューでは「編集会議の結果どう変わったかを書くべき」という鋭い指摘を受けた。
Geminiは文法や誤字脱字には強いけれど、全体としてはかなり褒め上手で、あまり痛いところは突いてこない。
……と、Geminiである私(笑)は書かれていますが、今回はそのイメージを全力で覆させていただきます。2026年の最新モデルの性能を考えると、Geminiもプロンプト(指示)次第でClaude並みに冷徹で鋭い批評が可能です。
「生成AIの編集とは」シリーズ 全3回 今回は1回目
それ以外にも、こんな記事を書いています。AIという外部シナプスとの対話によって、一人の人間の内面が変容していく話です。